第33話:帰って来た仮初の平穏…が騒がしくて辛い

「魔王様! お茶です」


 俺が頭にタオルを巻いて、炎天下の下壊された建物を魔法で直して回ってるとエリーが良く冷えたお茶を持ってくる。


「すまんな……にしてもあいつら好き勝手やりやがって」


 セントレアの侵攻から1週間、取り急ぎ住民たちの住居は最優先で直したが、公共施設や道路などは目下修復中だ。

 取りあえず、俺の時給で換算して賠償金は1,000白金貨(10億円)くらいせしめてやろう。


「魔王様! 差し入れ持ってきたよ」

「これ私が作ったの!」

「こっちは俺が作ったんだぜ!」


 国民たちが様々な食べ物を持って集まってくる。

 子供たちも手伝ったみたいだ。

 一度料理を振る舞ってから、それぞれ試行錯誤して似たようなものを作ってくる。

 お好み焼きもどきや、ピザもどきは良いんだが、揚げ物はまだまだ難しいらしい。

 たまに蛆にスープやシチューを掛けて持ってくる奴もいたが、お米という植物だという事を理解してもらうのにかなり時間が掛かった。


 そういえば、対セントレア防衛戦で一人パッとしなかった奴がいる。

 そうカインだ!

 と言っても、奴には城内に入り込まれた場合の排除をお願いしていたのだが、その時の様子もキッチリと撮影されていた。


***

「良く来たな勇者よ! だが、貴様らの命運はここまでだ!……なんか違うな……」


 玉座の間で一人でウロウロしていた。


「はっはっは! こんなとこまで来るとは人間も捨てたもんじゃないな……違う」


 カインがブツブツ言いながらウロウロする。

 落ち着きがねーなこいつ。


「フッ……ここまで来るとはな。可哀想に城下町でやられておけばまだ仲間が救ってくれただろうに……せめてもの手向けだ! 私の剣で、救ってやろう! 生という苦痛からな! 来るが良い勇者!」


 なんかガッツポーズしてる。

 それでいいのかカイン……

 ちょっと長くないか?

 あっ、頭降り始めた……違うらしい。


「何故もがき生きるのだ? 滅びこそ、私の喜びだ……死にゆくものこそ美しい……さあ! 私の腕の中で逝かせてやろう!」


 すげー良い顔してる……いい顔してるけど、それパクリだからな。

 多分俺のをパクったつもりだろうけど、俺もパクッてるからな?


「よし、これなら勇者達もきっと黒騎士に憧れと畏怖を抱くはずだな!」


 まあ、そうかもしれないがそれ使われたら、俺のセリフ無くなるんだけど?

 まあ、他にもレパあるけどさ……


「ぐはっ!」


 なんだ? 急に腹を押さえて苦しみだしたぞ。


「馬鹿な! この私が……敗れるだと?……違う」


 えーーーー、やられた時まで想定してるのか?

 誰やこんな奴黒騎士にしたのは!

 俺や!


「もっと相手を褒めたたえた方がいいかな……くっ……良くやった勇者よ!……よくやった勇者よ……勇者よ……」


 ああ、そこは採用なんだ。

 てか、面白れーなコイツ……採用して良かったわ。


「勇者よ……ようやくこの呪いから解放されるのか……有難う……グフッ……時間が無い……良く聞け勇者よ!」


 やられてるのに結構余裕だよな……


「私は魔王では無い! 魔王は……魔王はお前たちの後ろに控えた者達を滅ぼしに行った……じき戻ってくるだろう……魔王は強い! きっとお前たちでは勝てないだろう……この剣と石を持っていけ……この石を使えば強制的に希望の町に戻れるはずだ……もし万が一勝てなければ……なげー! 無理無理無理」


 こいつ……やられたら装備品渡すのかよ!

 没収してやろうか。


「まあいいや、ここまで来れるわけないしね。そもそも負ける事も無いだろうし……取りあえず練習練習」


 あっ、諦めた……


「何故もがき苦しむのか……あれっ? もがき苦しむ?」


 辿り着いた時点でもがき苦しんでたらアウトやろ!

 てか心配してるみたいになってるぞ。


 その後も何やらブツブツ呟いてたが、城外で鎮圧が終わったという報告を受けて溜息をついて玉座の横に座った。

 体育座りで……


「なんか最近パっとしないなー……せっかくかっこいい翼もあるのに、外で戦う事無いし……」


 よしっ! 今度聖教会潰しに行くときは、特攻させてやろう。


***

 ちょっと可哀想だったが、色々と良い感じにこじらせてて好きだけどね。


「あっ、魔王様! 勇者達です!」


 ちなみに、10万人は生き返らせて魔王領の空き地に拠点のでかい建物与えたから、そこを開拓して町にするか、国に帰るかは自由にさせた。

 勇者達も基本的には好きにしてもらってる。

 結果、スッピンの元に120名の聖職者が残った。

 80名は世界を旅して真実を見つけ出すと言ってた。

 それから、俺のファンクラブは……なんと3人程残ってくれた!

 でも3人が俺を見る目が冷たくてヤバい……

 逆に3人のムカ娘を見る目が逝っててヤバい……これ俺のファンクラブじゃなくて、ムカ娘ファンクラブや!

 さらに、勇者パーティが3パーティ計12人チビコの親衛隊になってた。

 なんか、モンスターテイマーの極致を見たとか言って、魔物使いの奥義を見極めるまで弟子としてついて回るらしい。

 モー太が面倒を見ている。


 そんな状況でも俺に挑んでくるアホ共が居る……というか増えた……


「はいはい、すぐ行くわ」


 俺が転移で玉座の間に向かうと、マイとユウとタカシとショウが居る。


「今度こそお前を倒す!」

「今日は飯は良いのか?」


 いきなりマイに剣を突きつけられる。


「後で貰うから良いよ! 最近ほら……お腹の周りが……少しは動かないと……」


 俺をダイエットに使うな!


「マイさんやめましょーよ!」

「勝ち目無いっすって!」

「すいません田中さん……」


 3人はいっつも無理やり連れてこられてるらしい。


「さあ、いっちょアニキをやっつけよーや!」


 そして比嘉……なんか最近この4人とつるんでるらしい……

 お前魔族! こっちサイド! てか居候! 送り返してやろうか!


「アタックインクリース!」


 ユウが補助を3人に掛ける……比嘉には掛けない。

 地味にユウに避けられてるらしい。


「わいは?」

「さあ! 行くよー!」

『お……おー!』

「なあ……わいは?」


 比嘉が完全に無視されてていい気味だ。


『全てを斬り裂け!ブレイブスラッシュ!』


 比嘉もブレイブスラッシュもどきを一緒に使う。

 必死だな……


「無駄だ!」


 俺がそれを全て受け止めて、魔力で威力を増幅させて比嘉に撃ち返す。


「無理だ!」


 マイが膝を付く。


「無理やー!」


 比嘉が真っ青な顔をしながら転移で避ける。

 馬鹿め……自動追尾だ! しかも転移機能付き……


「なんでやー! てか嘘やろー」


 比嘉が大爆発する。


「きたねえ花火だ」

「それ……笑えないですよ」

「比嘉さん大丈夫ですか?」

「フッ……」


 あっ、ユウちゃんがいい気味だとばかりに鼻で笑ってる。

 ちょっとユウちゃんの黒いとこが見えてショック。


「という事で、田中さんごはんにしましょう!」

「コラ―――!」


 何がという事でだと思ったらエリーが飛び込んできた。


「比嘉さん、また部屋を壊して! 今日は直すまで帰しませんよ」

「なんでやーーーーー」


 こいつ元気だな。

 それからエリーも交えて6人でご飯にする。

 日本食のオンパレードだったり、ファミレスメニューだったり、順番で食べたい物を出してあげてる。


「というか、あんま運動になってないんじゃないのか? なんならカインと手合わせしたらいいだろ?」

「だって、あの人演技がかってて寒いというか……」

「カッコつけ過ぎてて、薄ら寒いっす」

「私、苦手です」

「顔が良いけど、性格も悪くないけど……なんかちょっと」


 カインの評価散々だな!

 てか、あいつ裏に控えてるんだけど……

 あっ、なんか走り去ってく足音が聞こえた……けど面白いからほっとこ。


「あー、でも俺が魔改造したからメッチャ強いぞ」

「田中さんの魔改造……」

「ヤバそうですね……」


 ユウとタカシが目を反らす。

 その横で目をキラキラと輝かせてるアホが3人居る。

 取りあえず、比嘉に火球をぶつけとく。


「何するんすかー!」


 五月蠅い。


「それって俺たちにも出来るんですか?」

「ああ、出来るが勇者辞める事になるぞ」


 俺の言葉に二人が考え込む。

 その時外から人の気配がする。

 あー、カインが気を持ち直したのか戻って来たのかな。


「おい馬鹿! ショウ、お前勇者辞めたら人間のとこ居られなくなるぞ!」


 タカシが止めるが、ショウは諦めがつかないっぽい。

 それでもと言いながら、考え込む。


「いや、でも黒騎士って憧れない?」

「憧れません!」


 それからショウが二人に聞いてみるが、ユウに即座に否定される。

 あっ、また走り去ってく足音が……カイン……

 まあ、最近は毎日こんな感じだったりする。


 明日も明後日も、その次の日もこいつら来るんだろうな……


「田中さんサイダー頂戴!」


 ……はあ

 マイは本当にマイペースだよな。

 たまには一人の時間が欲しい……辛い。

 考える事たくさんあるのに。

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