第12話:人間に嫌われ過ぎて辛いPART3

「あぁ、すいません! この当たりにハインツという方居ませんでしたか?」

「ああ、はいはい……お前ムカつく顔してるな?他当たってくれよ」


 ええ……さっきの人にもそれ言われた。

 今俺はチビコの住んでいた村に来ている。

 当然人に変化して来ているのだが、すれ違う人達からやったらとジロジロ見られる。

 イケメンが横にいるからかと思ったけど、明らかに俺を見てる。

 しかも眉を顰めて……なんで?


「そこのご婦人」

「なんでしょ……キャー!」


 声掛けただけで悲鳴上げられた。

 黄色くないのは当然分かる。

 あっ……村の衛兵さんが走って来てる。


「おいっ、カイン! 逃げるぞ!」

「えっ? あっ、はい!」


 カインと二人で走って逃げる。

 角を曲がったところで転移を使って一旦村の外に出る。


「おいっ! おかしいだろ? なんでこの村こんなに排他的なんだよ!」


 俺がカインに怒鳴りつける。

 いや別にカインに対して怒鳴っている訳では無いが……


「いえ……私に言われましても……」


 ごもっともだ……

 ごもっとも過ぎるが他に当たる相手いないからしゃーない、諦めろ!


「私が代わりに聞いてきましょうか?」

「フンッ! 誰が行っても同じだと思うけどな……」


 俺はフードを目深に被って、さらに完全に気配を消してカインと共にもう一度村に入る。

 さっき俺のことムカつく顔って言った男にカインが話しかける。


「あのっ、ハインツさんて方をご存知ないですか?」

「んっ? ハインツ? お前さんが奴とどんな関係か知らないが、今はこの村じゃあまりその名前は出さない方がいいぜ……」


 んっ?

 俺の時とはなんか違うな……


「すまんな、教えてやりてーのはやまやまだが、どこに耳があるか分からないし他を当たってくれ。気を悪くしないでくれよな、これやっから」


 そう言って男が無花果のような実をカインに渡す。


「俺んとこの畑で採れたんだ。村の青果販売所でも売ってるから気に入ったら買っててくれよな」

「すいません。こちらこそ良く知らずに声を掛けて迷惑お掛けするところでした。あと、これ有難うございますね」

「ああ、気を付けろよ。いまハインツと関わるととばっちり受けるかもしれねぇからな」


 何この差……村人に質問すると快く答えてもらえるよ! (イケメンに限る)って奴か?

 思わずイラッとしてカインの脇腹をつねる。


「イタッ!」

「調子乗んなよ……」

「えぇぇ……」


 完全に八つ当たりだったので後でカインにはちゃんと謝ったよ!

 ちなみに、その後も色んな人からちょっとずつ情報を聞くことが出来た。


「あらっ、貴方いい男ねぇ……ハインツさん? あまり大きな声じゃ言えないけど、なんだか魔王に洗脳されたとかでねぇ……良い人だったのに……」


 なるほど、俺に洗脳されたのか……ってしてねぇよ!

 カインも複雑そうな顔でこっち見んな!

 ムカつくから脛をつま先で蹴ってやった。


「痛いっ!」

「調子乗んなよ……」

「えぇぇ……」


 さっきもこんなやり取りしたな……歳か?もう覚えてねーわ。

 今回は謝らなかった……

 何人目かで、ハインツさんの家に辿り着く事が出来たが、家は真黒に焦げて崩されていた。

 火を付けられたらしい。


「ひでぇ事するな……」

「ええ、私と同じ人間がした事かと思うと心が痛みます」


 チビコ一家の思い出が詰まった家なのに、何故こんな事になってしまったのだろうか……

 横に居るカインが一瞬身震いする。


「どうした?」

「いや、何か悪寒が……」


 二人で、しばらく家の前に佇んでいたら一人の初老の男性が声を掛けて来た。


「あんたらハインツさんの知り合いかい?」

「えっ、あっはい」

「優しそうなあんちゃんだな、この家にはハインツさんの他にチビコちゃんつうめんこい娘が居たんじゃが、可哀想にハインツが連れていかれてその家族は村八分になってな……暫くしてお母さんに連れられて出てってしもうた……」


 おじいさんが何かを思い出すような懐かしむような遠い目をしている。

 ご近所さんだろうか?


「その口ぶりだと、あんたは村八分に参加してなかったみたいな言い方だな?」


 が、ご近所さんなら村八分の家族に手を貸すことは出来ないだろう。

 なんだかんだ言って、こいつも同類だ……


「お前さん……腹立つ顔しとるのぉ……」


 ちょっ、顔関係ないだろう!

 このジジイさっさと彼岸に送って人生終わらせたろうか?あぁ?


「ヒトシ様……落ち着いてください」


 カインに言われてハッとする。


「名前もダサイのぉ……」


 決めた! コイツ殺すわ! 絶対に許さん!

 お爺ちゃんが一生懸命考えて付けてくれた名前なのに、馬鹿にしやがって。

 楽に死ねると思うなよ!


「じゃが、お主の言う通りわしも周りの人間と一緒じゃ……積極的に参加する事は無かったが……何もしなかった……ハハハッ……ダサいのう……」


 お爺さんが悲痛な面持ちでそう漏らすのを聞いて、俺は手に込めた魔力を霧散させた。

 その言葉聞くのがもう少し遅かったら、あんた今頃地獄見てたぜ?

 まぁ、本当に殺す気はさらさら無かったけど。


「チビコちゃんはわしにだけ教えてくれたんじゃが……魔国に行くと言っておった。必死で止めたんじゃがのう……」


 あぁ、それでもチビコには懐かれてたし……本当にチビコの事を思ってくれてたんだな。

 そう思うと、村八分に参加せざるをえなかったこの人の当時の気持ちが少しだけ分かる。


「ハインツの馬鹿たれなら、聖教会本部のあるセントピア公国に連れていかれたはずじゃ。こっからなら陸路で2週間はかかるからもう会うのは無理じゃと思うがの……」


 2週間か……幸いハインツがまだ死んでない事だけは分かるが。

 こうなったらとっとと転移で移動するか……


「何故ハインツさんは連れていかれたのですか?」


 黒騎士が核心に迫った質問をする。

 そう言えば連れていかれた理由は分かるが、詳しい状況は分かってないしな。

 うんうん、コイツは外交官にしよう。

 人間の反応も良いし、なんなら魔物にどっかの国の姫様でも襲わせてこいつに助けさせるか?

 いや、それはムカつくから止めとこう。


「ここだけの話じゃが、先月のミサの際に奴は魔王の踏み絵を断ったそうじゃ……」


 えっ? 俺ミサで踏まれてるの?

 すげービックリした顔でカインを見ると、即行で目を反らされた。

 こいつも踏んでやがったな!


「帰ってくるまでは喜々として踏んで、踏んで、踏みまくって、最後は蹴つり飛ばして怒られる程の敬虔な信者じゃったのじゃがのう……」


 うぉぉぉい! ハインツさんあんた何してくれてんの?

 俺の顔そんな事されてたの?


 はっ! もしかして女勇者ちゃんも踏んでたのかな?

 美女に生足で踏み踏みされてたのかな?俺の顔……ハァハァ……

 なにそれご褒美?

 もしまた会える日が来たらお願いしようかな?


「ヒ……ヒトシ様? お顔が?」

「本当に気持ち悪いあんちゃんだな」


 はっ! 二人から凄い変な目で見られてた。

 でも大体話は分かってきた。

 というかそのままや!

 踏み絵断る、異教徒、逮捕!

 魔王領からの帰還者……事情聴取……拷問……火あぶりって流れのテンプレだろうな。

 だから、気にするなっていったのに……


 とりあえず、セントピアに行ってきますか……


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