第13話:美味しいとこもってかれた……辛い

 俺たちは転移でセントピア城門に続く街道から少し外れた所に移動した。

 切り立った丘の上から見下ろす。


「さてと、ハインツがどこに連れていかれたか分からんからなぁ……どうやって中に入るか……」

「私はまだ身分証がありますが、魔王様はお持ちでは無いですからね……とはいえ、私も行方不明の勇者ですから色々と事情を聴かれるでしょうし……」


 やっぱり、この規模の国となるとしっかりとした城門があるよなぁ。

 明らかに、入り口で身分証の確認してるし……しかも長蛇の列。

 並ぶの面倒くさいし、人気が無いところに転移で忍び込むか。


 二人が途方に暮れていると、遠くの方から豪華な馬車が通るのが見えた。

 貴族様でも乗っているのかな?

 あれ使えないかな? いや転移で入った方が楽か……


「ちなみに魔王様……転移等の非正規手段で入ると、大体が感知されてすぐに衛兵が集まってきますよ」


 マジ?いやいやいや、転移で入って即行で姿消してダッシュで移動すれば良いんじゃね?


「大丈夫だろ? すぐに消えれば見つからないし……」

「ちなみに、人気が無いところは罠ですからね? 魔力の流れを感知するセンサーが付いてますから姿を消しても見つかりますよ?」


 何その、絶対に正規ルートで行けみたいなフラグ?

 そんなんされたら、ますます不法入国したいんだけど?

 これ、俺に喧嘩売ってるよね?


「てか、魔力も完全に消せるし、大丈夫だって!」

「私は消せませんが?」


 カインが何か言ってる……

 魔王嘗めすぎだろ?

 範囲内の魔力を消す事ぐらい簡単だっつーの!


「お前さぁ? 俺の事誰だと思ってんの? お前含めて魔力消してやるよ?」

「入国時に魔力の登録をしないと、魔力出した瞬間にバレますが?」


 いちいちコイツは小出しで情報出しやがって!

 っていうか、逆都合主義過ぎんだろ!

 あぁ、もう面倒くせー……


「うわぁぁぁぁ!」

「まっ! 魔物だぁ!」


 その時遠くで悲鳴が聞こえる。

 例の豪華な馬車が襲われているらしい。


「なんだこいつら! 異常につえー!」

「無理だ、誰か衛兵に伝えろ!」

「ムリムリムリムリ! どうやってこの包囲網抜けんだよ!」


 いやぁ、ついてるわ!

 おの馬車助けたら中に入れるんじゃね?


「おい、カイン! 馬車が襲われてるから、お前ちょっと行って助けて来い!」


 俺がカインに命令した……のに、全然動こうとしねー……

 俺魔王! 上司! ボス!

 そこは、イエス! ボス! つってとっとと行って来いよ!


「魔王様?」


 カインがこっち見てる。

 プイッ


「魔王様?」


 プイッ


「魔王様?」


 ガシッ!


 両手で顔掴まれて正面から見つめられる。

 イヤン!


 てか、俺魔王様! 部下のやることじゃねーよな?

 こいつぜってー俺の事嘗めてるわ。


「ちっ、そうだよ! 俺だよ!」


 やっぱりバレるか……

 ちょっとこの辺りの魔物に強化を施して襲わせてやった。

 町に入れなくて困ってたら、都合良く貴族様が襲われるとこに出くわすなんてそうそうないもんな。


「はぁ、ちょっと強引ですが分かりました……行ってきます」


 カインが丘を飛び降りると馬車の上にフワリと降り立つ。


「助太刀いたす!」


 抜刀して馬車の上から一回転しながら飛び降りると、その勢いのまま馬車の正面に立つオーガに斬りかかる。

 ちなみに武器は日本刀だよ? ほらっ、日本刀振り回す西洋騎士とかさ……カッコよくね?

 豆腐を斬るようにオーガの両腕を切り落とすと、そのまま横に一回転する。

 カチッ……

 そして刀を鞘に納めると、馬車を取り囲んでいたオーガの上半身と下半身がバイバイする。

 さらにその状態でパチンと指を鳴らすと、オーガの死体が火を上げて灰となる。

 無駄にカッコつけてんな……


「おぉ!」


 貴族の護衛達が感動した様子でカインを取り囲む。


「助かりました、さぞかし名のある方とお見受けします」


 護衛の代表が、カインに礼を言って近づくと手を差し出す。


「いえっ、まだまだですよ……」


 カインがそういって手を握る。


「あれで、まだまだなのか?」

「嘘だろ? 俺たちで歯が立たないオーガ達が、歯が立たないのにまだまだとか……何目指してんの?」

「それは、謙遜じゃねーよな?」


 周りの護衛が何やらボソボソ言ってるのが聞こえるが、想定通り規格外になってるみたいで良かった。


「失礼ですが、ランスフィールド様では?」


 一瞬で身バレしやがった。

 馬車から降りて来た身なりの良い女性が、カインを見つめて声を掛ける。


「ランスフィールド?……あの辺境の貴公子、勇者ランスフィールド様?」


 護衛の代表も思い出したようで、目の前のカインを凝視している。

 はい、作戦しゅーりょー!

 おまっ! そんなに有名人だったのかよ!

 先に言えや!


「ランスフィールドって巡礼に来なかったんだよな?」

「死んだって噂だったぜ……」

「俺は、加護が消されたって聞いたぜ!」


 しかも結構噂になってんじゃんお前!

 ざけんなよー、完全に人選誤ったわ……

 こんな事ならビッチスリーの誰かに頼めば良かったわ……

 俺も女と二人の方が楽しいし……


 あれっ? なんか、背筋に悪寒が……


「確かに加護を消されました……ですが魔王討伐を諦めた訳じゃありません。ですから加護を取り戻すために旅を続けてました」


 お前? まだ俺を討伐する気だったの?

 つーのは冗談で、誤魔化しに入ってんだな。

 もうちょっと様子見るか。


「流石です! ランスフィールド様の加護が消されたと聞いて、私は心配しておりましたの」

「えぇ、私としても大変不本意ではありましたが、3度魔王に見逃された時に加護も消え去っておりました……」


 ちょっと無理があるような、自然なような……

 どうなるかな? イケメン補正が大分入ってるからなぁ……


「魔王に3度も挑んだのですか? 流石です! それなのに加護を消すなんて女神様は何をむぐっ!」

「それ以上は言葉になさらぬように……女神様への冒涜は必ず天罰が降りるとの事です……それにここは正教会最大の支部のある国、誰に聞かれるかわかりませんよ?」


 カインが女性の口に人差し指を当てて黙らせると、爽やかな笑顔で抜かしおった。

 そしてウィンクする……あかん……こいつ根っからのタラシや……


「でも安心しました……ランスフィールド様が変わらず勇敢な方で、感激しましたわ!」


 チョロいなー……


「それで連れを待たせてるのですが、お呼びしても宜しいですか? ちょっと公国に入るのに訳ありでして……ジェシカ様」

「覚えててくださったんですね?」

「えぇ勿論ですよ、こんな綺麗な方一度見たら忘れたくても忘れませんよ」


 あぁ、背中かいい……全身に蕁麻疹出て来たわ!

 なんなのコイツ、俺が見てるの知ってるよね?

 見せびらかしてる?

 どうせ俺の周りには、悪魔と蛇と百足とミイラしか居ませんよ……なんか蛙を超えた蛙とかも居た気がするが……


 とその前にっと……先ほどカインに殺されたオーガを周囲に復活させる。


「すまんな……嫌な役回りをさせて……」

「いえ、主の役に立てたのであれば本望です。」


 おうっ……見た目によらず知的なのねキミ……


「流石です……こんなに簡単に復活させていただけるなんて! しかも前の身体よりも力が漲ってくる気がしますわ」


 君は女性なのね? マッスルニウーマンとか需要無いから……

 全く見分けつかねーな……

 オークのメスはまだ胸が垂れてるから分かるけど、君の胸はオパーイじゃなくて胸筋だよね?


「主様、彼は男です……」


 アッーーーーーー!

 じゃねぇよ! 紛らわしい!

 オーガのメスなんて見た事ねーからわかんねーわ!

 てか、オーガの癖に心読んでんじゃねーよ! 優秀過ぎるわ!


「まあ良い……その肉体は感謝の気持ちだ! 用は済んだ、散れ!」

「はっ!」


 取りあえず俺は調子に乗ったカインを蹴り飛ばしに行きますか……

 取りあえずカインの横に転移する。


「誰だ!」


 護衛全員が剣を抜いてこっちに向かって構える。


「ああ、私の連れです……ヒトシと言います」

「ビックリしましたわ。ランスフィールド様の仲間の方ですのね……あの、あまり近寄らないでくれますか?」


 おいっ! いきなりご挨拶だな!


「なんだ、勇者様の仲間か……見えないが……」

「しかし、いきなり現れるとは……この歳ですでに転移術を使えるのか……ムカつくな……」

「流石だな……並の魔術師じゃねーな……イラッとする顔してるが……」


 あー、あの君たち? 俺そいつの仲間だって分かったよね?

 剣しまおうか?

 なんで分かったのに剣構えたままなの?


「連れがいきなり失礼をしました……それで彼の身分証が無いのですが中に入れるよう取り持って頂けませんか?」

「勿論ですわ! ランスフィールド様の頼みならなんだって聞きます! この方の役に立つのは吐き気がしますが」


 俺……もう泣いていいっすか……いちいち人間の俺に対する扱いが辛い……

 つかカイン! 失礼されたの俺なんだけど? 少しは庇おうよ……魔王悲しい……


 ジェシカっていうペチャパイ女はどうやら公爵令嬢らしく、それなりの発言力と権限を持ってるらしくすんなりと入れてもらえた……

 衛兵にめっちゃ睨まれながら門を潜ると、眼前に綺麗な城下町が広がる。

 ちなみにカインはこれまでの詳しい経緯を聞くという事で、教会関係者に連れていかれた……

 さようならカイン……君の事は忘れないよ……


 つーか! 人間に意味も無く嫌悪される俺に一人でどうしろと?

 詰んだわ……


『おいっ! カイン! どうしようもなくなったら全員切り伏せてとっとと俺んとこ来いよ!』


 一応テレパシーでカインに伝えておく……


 さて……どうするかね……

 なんで俺はチビコにしかマーキングしなかったんだろう……

 ハインツにもマーキングしとけば良かったわ……

 でもまぁ、気配は覚えてるから大体の位置は分かった。

 大分弱ってるが、まだ生きてる。


 という事で俺はハインツの気配がする方に歩き始める。

 直後肩に誰かがぶつかって来た。


「いってー! これ肩の骨折れたわ!」

「兄貴大丈夫っすか?あちゃー、これダメっすね。完全に肩の骨バッキバキっすわ!」


 いきなり絡まれた。


「おう兄ちゃんどうしてくれんだよ? これじゃ仕事出来ねーよ!」


 ここ聖教会最大の支部があるんだよね?

 治安悪くね?


「んっ? よそ見していてな……すまんな。どれっ、俺が見てやろう」


 グキャッ!

 ちょっとイラッとしたから、肩を握りつぶしてやった。


「うぎゃぁぁぁぁ! 肩が! 肩が!」

「確かにこれはバッキバキだな」

「あっ、兄貴?」


 チンピラが肩を押さえてのたうち回る。

 子分が慌てた様子でチンピラに駆け寄る。


「コラー! お前、何をしておる!」


 衛兵が駆け寄って来た。

 仕事しろや! とっととチンピラを片付けろ!

 取り敢えず衛兵さんに訴えよう!


「いや、なんかこの人がいきなりぶつかってきて肩が折れたとか言い出したんですよ」

「なんだとー? お前何をした!」


 俺? えっ? 俺? どう見てもそこのチンピラの方が見た目からして悪人だろ?


「いえ、俺は歩いてただけで……」

「いや、こいつが兄貴の肩を握りつぶしやがった!」


 こらゴリラ! おまっ、情けなくねーのか!


「嘘を吐くなお前は、こっちに来い!」


 そうだよな……どう見ても細身の少年にこんなマッチョの肩を……んっ? 衛兵さんなんで僕を掴んでるのかな?

 そいつだよ? 悪いのは……


***

「ちっ、お前紛らわしい顔してんなよ! 今回は目撃者がイヤイヤながら証言してくれたから釈放してやるが、次は無いと思えよ!」


 解せん……

 結局詰め所で30分くらい説教されてから解放された……

 最悪だ……俺の入国許可所早速マーキングされた……


 ドンッ!

 パリーン!


「うわっ、お前どこ見てんだよ! あっ! 今日の兄貴への土産の超高級花瓶が割れちまった! おいおいあんちゃんどうしてくれんだよ!」


 ……はぁ


「あっ?」


 詰所出て2秒で絡まれた。

 ここ、町の衛兵の詰所の前なんだけど?

 この町で城内の次くらいに治安良いんじゃないの?


 てか手口が古すぎるだろ?

 あまりにムカついたから、全力で威圧を込めて睨んでやった。


「ヒッ……ヒィッ!」


 チンピラが股間から湯気を上げて蹲ってる。

 ざまぁ見ろ! 相手見て喧嘩売れや!


「なんだこの禍々しいオーラは!」

「どうした? 何があった!」

「あっ、お前は!」

「またお前かー!」


 詰め所から衛兵さんが沢山出てきた。


「待てコラー!」

「お前は牢屋に送り込んでやる!」


 おいー! 事情くらい聴けよ!つーかもうええわ!

 全力で逃げた! マジ走った……脇道やら、店からドンドン衛兵出てくる……

 もう無理……助けてカイン……


「魔王様こちらにっ!」


 その時横から手を引かれた……

 その手の方向に行く……

 路地に入った瞬間に見えない壁のようなものが道を塞ぐ。


「どこ行った?」

「まだ遠くに行って無いはずだ!」

「探せ、絶対に逃がすな! 捕まえろ! 殺せ!」


 殺せってなんだよ!

 つーか、お前らどんだけ俺が嫌いなんだよ!

 ふざけんな! マジ人間ふざけんな!


 何故かあいつらこの路地が認識出来ないみたいで、みんな素通りしていく。

 結構ドキドキする……


「はぁ……助かったよスッピン……」


 振り返った先に魔法陣を張ったスッピンが立っていた。

 今日は正装か……

 全身に白い鎧を纏っている。

 こうして見ると本当に男か女か分かんねーな……

 しかし魔王の部下の白騎士って聞いたことねーわ!


「魔王様、無茶しすぎです!」

「いや、俺は何もしてないけど?」


 スッピンが呆れた様子で叱ってくるが、無実だ!

 事実俺は何もしてないじゃないか……


「魔王ってだけで、人間は潜在的に嫌悪感を抱くものなんです!」


 えっ? 何それ? 女勇者からも聞いたけど、それ本当だったんだ……辛い

 

「といか、お前どうやってここに来た? なんでバレてない?」

「ふふっ、私は死人ですから……魔力を消せば私の痕跡は残りませんよ?」


 何それズルい!

 てか俺も魔力消せるわ。

 消しても、魔力出した瞬間にバレるらしいけど……


「で、なんでお前がここにいるの?」

「ちょっと人間に腹が立ったからですが、何か?」


 こえーよ! 無表情なミイラこえーよ!

 なんかいきなり怒ってるんだけど?

 なんで?


「チビコちゃんの家に火を付けた人間をちょっと燃やそうかと……」


 こえーよ!


「エリー様から聞きましたわよ? なんでも父上が聖教会に連れていかれたとか?」

「あぁ、それでどこに居るか話を聞こうと思ったんだが、それ以前にこの様だ……」

「それならもう分かってますわ! 行きましょうか」


 えっ? なんで知ってんの?

 てか、どこか分かるの?


「フフッ……私も元人間ですよ? それも聖教会の」


 何それ? 聞いてないんだけど?

 っていうか部下の事あんま聞いた事ないもんね俺……

 最近までキモくて興味無かったし……


「とっとと行きますよ! 私のイメージを読んでそこに転移で連れてってください!」


 俺はアッシーか! なんか、最近転移させられてばっかだな……

 魔王辞めて、タクシー業でも始めるかな……


「馬鹿な事考えてないで、早くして頂けませんか?」


 顔が赤いミイラって……相当怒ってるねー……でも紅潮するような血液……キミには無いよ?

 取りあえず、これ以上ボサっとしてるとスッピンがぶち切れそうなので、スッピンのイメージを読み取って転移する。


 ひでぇ……


 転移した先は教会支部のようで、牢屋のようなところに出る。

 目の前には十字架に磔にされたハインツの姿が……


 両目は潰されて、指は全部切り落とされてる……

 足の筋も切られてるし、体中に帯状の火傷の跡がある。

 相当酷い拷問に合ったのが良く分かる。

 なんでこんな事が出来るんだよ……

 平和な日本で生きて来た俺には理解できん。

 時代劇とか、話でしか聞いた事無いが相当エグいわ……

 一度世界の拷問みたいな本読んだが、マジで胸糞悪くなった記憶しかない。


「ああああ……も……かんへん……しへくはい……」


 顔も腫れ上がってるし、歯も全部抜かれてる……

 やべー、無理だ……怒りが抑えられそうもないわ……

 横に居るスッピンの怒気も相当なものだ……


「誰だ!」


 ハインツの前に立っていた、手に焼けた鉄を持った拷問官らしき男がこっちを振り返る。

 これが、教会の人間のやることだっつーから、碌な女神様じゃねーよな……


「消えろゴミが……」

「あっ………………」


 俺は拷問官に向かって手を翳すと一瞬で青白い火が上がり男が灰になる。

 スッピンが牢屋の門を片手で弾き飛ばすと、ハインツの元に駆け寄る。

 それからハインツに向かって回復魔法を掛ける

 全ての傷が一瞬で治っていく……


「うぅぅ……もう勘弁してください……全部話したじゃないですか……何べん治してもらってもこれ以上知らないんです……誓います……女神様に信仰の全てを捧げますから……許してください……」


 ブチッ……

 ああ……駄目だ……人間クズだわ……

 いや、女神がクズなんだな……


 治して拷問して、また治して拷問してを繰り返してたのか……許せんな……


「ハインツ……俺だ」


 俺の呼びかけに対してハインツが顔を上げる。

 それから俺の顔を見て涙を零す……


「すいません魔王様……折角助けていただいたのに……全て喋ってしまった……それに女神に誓って貴方の顔をまた……」

「言うな……よく頑張った……お前は何も悪くない……」


 許さん……聖教会……誰に喧嘩売ったか骨の髄まで恐怖とともに叩き込んでやろう!


「なんだ今の音は!」

「誰だお前は!」


 牢屋の門を壊した音で人が集まって来た。

 白いローブを身にまとった男たちや、騎士の恰好をした奴らだ。


「やはりハインツを助けに来たか邪教徒め!」

「ほらっ、他にも仲間が居ただろ!」

「女神を信じぬクズ共が揃って網に掛かったわ!」


 ゴミ虫共が何か喚いてる……

 もうダメだ……こいつら殺そう……


「だま「だまれぇぇぇぇ!」


 えっ?

 あれ……ちょっと……スッピンさん?

 凄い形相でスッピンが男たちを睨み付けて叫ぶ……

 機械を通したような無機質な声がこだまする。

 その声で、俺は一気に落ち着きを取り戻す事が出来た。


「なんだアイツは!」


 男たちがスッピンを見て驚いている。

 そりゃ輝くような白い騎士鎧に身を包んだミイラだもんな……

 そうなるよな普通……


「くっ、アンデッドか! ハインツの信じる邪教はそこまで落ちたか!」

「だが、これは都合が良い! ここをどこだと思っている……」


 男たちが何やら喚いているが、俺にとってはそれどころではない。

 比較的魔族の中でも温厚で心優しいスッピンがおこなのだ……いや激おこだ……


「黙れといっている……誰だハインツをこんなにしたのは? 誰がハインツの家を焼いた?」


 スッピンが男達を睨み付けている。


「ふんっ、人を辞めた外道が! 生意気な口を! ここをどこだと思っている? 【聖域結界ホーリーフィールド】!」


 一際立派なローブを身にまとった男が呪文を唱えると、辺りを神々しいまでの光が包む。


「アンデッドに身を落とした事を悔やむが良い!」

「流石大司教様です!」


 あの男は大司教……序列3位か……てことはそこそこ悪い奴だな……

 しかし、アンデッドで教会に殴り込みは分が悪かったかな?

 ちょっと手助けするか。

 聖域の光がスッピンの身を焦が……してない?

 スッピンが何事も無かったのように歩き出す。


「いま、何かしたか?」


 それから小首を傾げて剣を抜く。

 さらにスッピンの全身を光が包んだかと思うと、真黒なマントと純白のフルフェイスのナイトヘルムが現れる。

 スッピンさんマジかっけーす!


 ちがっ! おまえ、それ俺のポジションや!


「ヒッ! 何故だ! アンデッドでは無いのかお主は!」


 大司教が後ずさりしながらスッピンに向かって叫ぶ。


「ふっ、私を誰だと思ている? 第12代不死騎士団団長スッピンぞ!」


 そう行ってスッピンがオーラを放つ。

 さらに純白の鎧の周りを苦悶に満ちた表情の7体の悪霊が飛び回ってる。

 一気に呪われた鎧に変わったな……


「くっ! 魔王軍幹部か! だが、ここに来たのは間違いだったな! おい、聖騎士達よ! 時間を稼げ!」


 大司教が聖騎士をけしかける。


「わしは今から、最上級の聖域結界を張る! 司祭達は協力して天使の召喚を行え!」


 出た、作戦ダダ漏れ作戦……

 こういうのって敵の立場からすると緊張感一気になくなるよねー……

 てか、もう目的達成したし、ハインツ連れて転移で良いんじゃないか?

 スッピンさんが激おこのお陰で、俺落ち着いちゃったわ……


「ふっ、やってみろ……」


 煽るねー……このまま帰ったらフラストレーション俺にぶつけられそうだわ……


「くっ、嘗めおって!」


 大司教が顔を真っ赤にしてる。

 そんな事よりとっとと逃げた方が良いんじゃないかい?

 まぁいいや……取りあえず黒騎士呼ぶか……


『おい、カイン! すぐに来い! スッピンが激おこだ!』

『激おこというのが良く分かりませんが、分かりました』


 だよねー……この世界に激おこなんて言葉無いよね。


 聖騎士達が一斉にスッピンに斬りかかるが、スッピンがそれを全て片手でいなしてく。

 コイツ、こんなに強かったんだ……もしかして魔王軍幹部って実は皆このくらい強いのかな?


「くっ、援軍を呼べ! この人数じゃ歯が立たん!」


 4対1でも歯が立たないんだね……人間弱すぎだろ……

 聖騎士の一人が階段に向かって走りだす。

 がすぐに階段を転がり落ちていく……


「どこに行く?」


 タイミングいいなおいっ!

 カインが階段の上で腕を組んで立っている。


「早いな……」

「えぇ、すぐそばまで来てましたので」


 絶対嘘だ! こいつ、多分スッピンの気配を感じてすぐに来てたに違いない。

 でタイミングを見計らってたんだな……うん、後でシメる!


 取りあえずハインツは邪魔だから先に城に送り返そう……

強制送還リパトレイション】を発動してポカンと放心状態のハインツを城に送り返す。


「くっ、だがもう手遅れだ!【 絶対聖域結界サンクチュリア】」


 大司教が叫ぶと同時に牢屋のある部屋全体が光に包まれる。

 たしかに、こいつはスゲーわ。

 でも黒騎士は人間だし、俺はそもそも全属性レジストできるからねー……

 明るいだけなんだよね……スッピンは……


「ふっ、子供の遊びだな?」


 平気そうね……なんなのキミ?

 アンデッドじゃないの?


「天使召喚出来ます!」

「よしっ! そのまま天使を聖騎士に降臨させろ!」


 司祭の合図を受けて、大司教が指示を飛ばす。


「分かりました、【中位天使召喚エクスシア】!」


 次の瞬間、光の結界の中から白い2対の羽根持った輝く球体が4つ現れる。


「心行くまで喰らえ【牢獄開放プリズンブレイク】!」


 被せるようにスッピンが魔法を発動させると鎧の周りを飛び纏っていた悪霊が飛び出し、召還された天使に喰らいつく。


「バカな!」

「大司教!」


 直後、四体の悪霊が体を顕現させる。

 顔には汚れた包帯が巻かれているが、目は一つしかなく口の部分の包帯が解け耳まで裂けた口がある。

 さらに、猫背でゆらゆらと立つ姿、だらりと下げられた手が不気味さを演出する。


「喰らい尽くせ! 行けメレッド共!」


 スッピンが指を鳴らすと、4体の悪魔が聖騎士に喰らい付く。

 そっからはもう目を背けたくなるような光景だった……

 4体の悪魔に喰らい付かれた聖騎士がゾンビになったかと思ったら、大司教が司祭を生贄に主天使を呼び出しゾンビを粉砕し、それに対してスッピンがメレッドを生贄にエクセキュータ―を呼び出してと……

 もうマジ阿鼻叫喚……

 一瞬で辺りが血溜まりになってたわ……

 死体も残ってない……

 大司教に至っては、エグゼキューターの断罪で魂すら消されたとか……


 ハインツ送り返しといて良かったわ……


 つーか、俺何しに来たんだっけ?


「あの……白騎士ってポジションあったんですね……てか姐さん出鱈目過ぎでしょ?」


 って呟いてたカインの声が頭をこだましてた……


 見せ場完全に取られました……辛い……


 ――――――――――――


「魔王様ー!」


 城に帰るとチビコが俺に飛びつきかけて、顔を見てから止めた……辛い……


「パパを助けてくれてありがとっ!」


 でも、うなだれてる俺の頬にそう言ってチューしてくれた。

 嬉しい……全てが救われた気がした。

 一瞬、女性陣から殺気を感じたが、チビコだからかすぐに柔らかくて優しい空気に変わった。


 そして、即行でチビコに口をメッチャ拭かれてた……辛い……


 取りあえず3人は城で一時預かり、城下町に移そうかと思う。

 ついでにビッチスリーも城下町に逝ってもらおうかと思う。

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