新しい家庭教師


「ごめん、他の人に知られてしまったら、命がなくなってしまうんだ」


ミミミは私の口の中に腰まで入って、両手で唇の横をおさえていた。小さな手が口に当たっている感覚が、不思議だったけれど、何だか楽しかった。


「お願い、せっかく君が・・・糸ちゃんが心を込めて丁寧に作ってくれたから、またこうやって生きることができるんだ、わかってくれるかい? 」


そう言われたので、話すことはできない私は「わかった」という動作をした。すると


「糸! どうしたの? 大きな声を出して」お母さんの声がして、階段を上ろうとする音がした。


「大丈夫! 答えの欄を全部一つずつ間違えちゃった! 」

「やりそう・・・もうちょっとしたらお風呂に入りなさいね」

「はーい」


上って来ないまま、お母さんはリビングに戻ったようだった。

何とかうまくごまかせたので


「ありがとう、糸ちゃん」とミミミもホッとしたのか、ぴょんと私の口から離れて、また筆箱の上に座った。


私もうれしくなってじっとミミミを見た。ボタンだったはずの丸い目の中に、時々白い色が光るときがある。それがボタンをつけた白い糸なのかなと思っていると


「さあ、やろう」

「何を? 」

「宿題の残り」

「え! 」

「家庭教師がほしいって言っていただろう、丁度いい。これから糸ちゃんは僕のために色々、さっきみたいな苦労をすることもあるから、そのお礼に苦手な算数を教えてあげるよ」


「・・・どうも・・・ありがとう・・・」


今までの計算間違いも全部やり直しをさせられたけれど、いつものお風呂の時間になんとか間に合った。その後、明日の時間割をしていると


「糸ちゃんは・・・ちょっとインド数学を学んだ方がいいかな。知っている? 」


「うん、この前先生から聞いた。インドの人が0(ゼロ)を発見したって。それから発展して、インドは今でも数学が得意な国なんだって」


「そう言うことなんだ、図書館で本を借りるといいよ、それと・・・お願いがあるんだけど」


「何? 」


「お風呂に入りたい・・・」


私はミミミと一緒にお風呂に行った。


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