日本の担任
「ああ! やっぱりこの国に来たらお風呂が一番だな」
とミミミはうれしそうに言った。私はお風呂につかって、ミミミはきれいに洗った風呂桶に、新しいお湯をはってそれを浮かべながら一緒に入っている。
私はなんだか恥ずかしかったので、テレビの旅番組みたいに、バスタオルを巻いてお風呂に入った。だってどう考えてもミミミは男の子、か、男の人? か、とにかく女の人ではない。
「ありがとう、お湯もわざわざ新しいものを入れてくれて。便利だね、蛇口をひねったらお湯が出てくるって」
「私の口の中に入ったから、ちゃんと洗わないと。石けんかボディーソープを使う? 」
「いやいや、大丈夫だよ。むしろ石けんが体のどこかに残ったらほうがめんどうだから。わたし・・いや僕こそ口に入っておさえてごめんね」
ミミミの、どうも算数がすごく得意な事と、今の言葉で私は少しわかった気がした。
「もしかしたら、その、妖精とかじゃなくて、人間なの? 」
「うーん、その点は自分でもよくわからないんだ。人間だったこともある、たぶん」
「たぶん? 」
「だって人間だった時間より、こうやって色々なものに生まれ変わっている時間の方が長いからね。そうだね僕は妖精のようにでもあり、動物でもあり、人間でもあった。本当に「色々なもの」なのかもね」
「色々なもの・・・そうね、色もそうだし。でも名前は? 」
「糸ちゃんが、わ・・僕をミミミと呼んでくれるのなら、その方がうれしいよ。だって何となく目が覚めかかったときからそうよばれていたし」
「目が覚めかかっていた? もしかしたら糸が増えた時? 」
「そう! だけど・・・」
そこでミミミは言うのをやめた。丁度何かの音がしたからだった。
「糸! そろそろ出ないと、明日学校でしょう? 」
「はーい」
自分の部屋でミミミとお話しようと思った。
「ありがとう、糸ちゃん、お水が美味しい」
私はミミミのために、水とストローをこっそり持ってきていた。
「そう言えば、食べ物はいいの? 」
「今はお腹がすいていないからいいけど」
「けど? 」
「もしかしたら糸ちゃん、誰にも説明をされていない? 」
「説明? なんの? 」
「やっぱり・・・誰だ日本の担任は、危うく生まれて一分でいなくなるところだった。ほんとうなら、昨日糸ちゃんに説明しなきゃいけなかったんだ、僕が完全に生まれる前に」
「でも、昨日もずっとミミミを作っていたから、そう言えば一度も外に出ていないの」
「外に出なくても色々方法はあるんだよ、この説明はきちんと前にしなきゃいけないことだ。糸ちゃん、明日、学校から帰ったら、僕と一緒にこの近所を歩いてくれないかな、きっとその彼か、彼女かに会えるはずなんだ」
「わかった、そうする」
「あ! それと糸ちゃん、僕は夜に起きるんだ、動物でいうところの夜行性というものだよ、わかる? 」
「うん、わかるよ、だったらどうしたらいい? 」
「何となくテレビとかで「今」の事を知ったけど、まだわからないことがたくさんあるんだ。何かわかるものがないかな? 」
「新聞とか? 」
「そうそう! 」
お父さんが見ていた今日の新聞以外を部屋に持ってきた。結構重い量だ。
「ありがとう、ちょっと勉強するね、あ・・・ちょっとライトをつけておいていい? 」
「いいよ・・・それじゃあ、おやすみなさい、ミミミ」
「おやすみ、糸ちゃん・・・」
ベットの横の机の上に大きく広げられた新聞と、その上を行き来しているミミミ。本当は一緒に眠りたいと思ったけれど、記事を真面目に読んでいる赤い目のミミミを見ながら、私はいつの間にか眠ってしまっていた。
「今日のこと、夢じゃないよね」
と思いながら。
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