絣の袋
家に帰って夕食ができるまで、私は好きな漢字の宿題を終えてしまった。算数は土曜日曜二日がかりですると決めて机の上を片付けていると、二階の私の部屋に持ってきた、お祖母ちゃんの段ボールが目に入った。
「何か・・・作れるものがあるかな・・・」
お母さんの泣いた姿と、京子ちゃんのお母さんの言葉で、私は針と糸を使って何かを「作ってみよう」と思った。
「あれ? こんな袋あったっけ? それにこれ、絣の袋だ」
あの時には全く気が付かなかったものが入っていた。
絣(かすり)と言うのは日本の木綿の布で、私はこの布には特別な思い出がある。私がまだ小さく、お兄ちゃんが中学生の頃だったと思う。お兄ちゃんは太鼓が好きで、夏祭りや盆踊りではよく叩いていた。その時のことだ。
「まあ桑野さん、お兄ちゃんが着ているの、あれ絣の着物ね、素敵ね! よく似合っているわ」
「いい色ね・・・藍染めがきれい、もしかしたら本物の藍染め? 」
お祖母ちゃんがお兄ちゃん用に送ってくれたのだ。
「ええ、久留米絣だそうです。母が送ってくれて、子供にはもったいないような気がするんですけれど」
とお母さんはちょっと嬉しそうに答えていた。
絣も藍染めもとても貴重なものらしい。
私は最初、夜の中、それに溶け込んでしまうような暗い青、藍色がちょっと怖かった。でも盆踊りのライトにお兄ちゃんが照らされると、光っている星のような布の模様と、とても深い色が
「そこだけの満天の星空」の様だった。大人も子供も、みんなそう思っていたらしくて
「お兄ちゃん・・・かっこいいね」
と何人かの女の子から言われたが、私のお兄ちゃんなのでそうイケメンでもない。でもいつものお兄ちゃんよりよく見えたのは確かで、こういうのをきっと
「馬子にも衣装」と言うのだろう。お兄ちゃんが今大学に行って日本の事を研究しているのは、これが元なのかもしれない。
「でも、これは白も赤も入っていて可愛い感じ」
かすれた感じの模様が入っている。
私はその巾着袋を早速開けてみた。するとそこから出てきたのは
「ウサギの立った姿に切り取られた二枚のフエルト」
「綿」
「とても小さな赤いボタン」
「作り方の説明書」
そして一番底から、コロンと新品の糸が出てきた
「きれい! この糸、色々な色になっている」
小さな糸巻きなのに、まるで一段一段が別の色になっているように見えて、とても不思議だった。
「えっと・・・周りを縫って綿をつめて・・・真っ赤なボタンの目、
お鼻とお口は刺繍・・・私にもできるかな? 」
私は絣の袋に全部をもう一度もどし、一階のリビングにおりた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます