お土産
「お母さん、じゃあ、行ってくる」
「気を付けなさいね、車も多い時間だから」
「うん」
「車で行けばいいじゃないか」
「いいのよ、パパ、ずっと友達にも会っていないんだから」
家に帰ったのは金曜日の夕方ごろだった。私はすぐに自転車に乗った。前のかごにはその中に丁度入るお菓子の箱がある。
「うわ! お菓子が揺れるかな? 」
とても急な坂を下って、何日かぶりの自転車は楽しかった。
五年生のクラスがえで、私はとってもうれしいことがあった。
「桑野さんよね・・・私のお母さんが糸ちゃんって素敵な名前だっていってるの」
少し小さな声で、大人しい女の子からそう言われた。
「ありがとう、なみうら きょうこさんよね」
「私の名前、知っていてくれたの? 」
波浦京子ちゃんは、確か三年生の終わりがけに転校してきた。別のクラスだったけれど、私と違って色白で可愛い女の子だ。それに何より「手作りの服」を着ていることが多かった。その服がとても京子ちゃんに似合っていて、女子の間では評判だった。
「お姫様みたい」とみんな思っているようで、男子も何故か京子ちゃんの前では言葉使いもていねいのような気がする。
今年のPTAの役でお母さん同士が仲良くなって、私も朝京子ちゃんと一緒に登校することが多くなった。お家に遊びに行くと、手作りのきれいな色のパッチワークから、レース編みまでたくさんのものがあった。
お菓子作りも上手で、その時出された手作りのクッキーは本当に美味しかった。
私たちは京子ちゃんのお母さんの事を陰で「最強のお母さん」と呼んでいる。
その京子ちゃんの所にお土産を持って行っているのだ。坂を下りきって、もう一度小さな坂を上って下って、京子ちゃんのお家に着いた。家からはいい匂いがしていた。
「こんにちわ」
「まあ、糸ちゃん、大変だったでしょう」
おばさんと京子ちゃんが出てきた。
「これ、どうぞ。賞味期限が短いから早めに召し上がってください、とお母さんが」
「ごめんなさいね・・・私が食べてみたいと言ったから・・・」
「じゃあ、糸ちゃん、月曜日から学校に来るのね」
「うん」
「じゃあ、ちょっと待ってて」
京子ちゃんは自分の部屋へ行った。私は嫌な予感がしたけれど、ふと玄関の靴箱の上を見ると
「これ・・・かざってくれているの・・・」
壁にはおばさんの作った、赤とピンクの花柄がいっぱいのパッチワークが飾ってある。その下に私の作ったアイロンビーズのコースターが、まるで小さなお皿のよう斜めに立っていた。
「ええ! だってとてもきれいなんだもの」
そのコースターは夏用にと思ってちょっと薄い色と、半透明のビーズで作った。京子ちゃんの家族は四人、そしてよくおじいちゃんおばあちゃんが来ているので、色違いを六つ持っていった。
「糸ちゃん上手でしょう、お母さん」
「これ・・・糸ちゃんが全部作ったの・・・きれいな配色・・・糸ちゃん天才! 」
京子ちゃんのお母さんは二人目になってくれた。
京子ちゃんが何をしているかは想像がついた、その間、私はおばさんの作ったパッチワークを見ていた。大きなものだから、手で一針一針縫っていくのはとても大変な事だろう。
「どうしたの糸ちゃん? 」
「おばさん、どうしてパッチワークって手でするの? ミシンがあるのに」
「そうね・・・気持ちが落ち着くからかしらね」
「気持ちが落ち着く? 」
「糸ちゃんもアイロンビーズをするでしょう? もしそれが機械か何かで自分のデザインが自動で出てきたら・・・楽しいかしら? 」
「そうか・・・それはきっと面白くない。だってアイロンビーズはくっつけない時が一番きれいだから」
「そうね、アイロンで溶かすからね、でもきれいよ、糸ちゃんのは。本当にありがとう」
と話していると京子ちゃんがやって来た。小さな紙をもっている。
「糸ちゃん・・・宿題のページを書いてきたの。計算問題がたくさんあって、漢字の書き取りはあんまりない・・・」
仲良くなったので、私の事をよくわかってくれるようになった。
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