第32話【現れし闇探索編その1】


 激闘から間もなくして、ニッシャ達が楽しく水遊びで戯れている一方。

 陽の光すら届かず微かに感じる水の匂いに包まれながら、【ノーメン】と【セリエ】の二人組は深い闇に溶け込むようにある極秘任務へと就いていた。


深淵しんえん渓谷けいこく



【任務内容-残りの聖霊三体を探しだし、捕獲又は拘束する事】


 足跡も残らぬ岩肌を歩いている二人組の片方は、意気揚々と前へ進んでいるが任務途中にも関わらず、得意の魔法で浮遊しながら昼寝の様に寝そべっている男セリエは、独り言の様に話しかける。


「残る大聖霊の一部は三体何だけどさ、そいつらがまた面倒でね。何て言ったっけなー。【時を司るセントキクルス】に【水の守護神イメサリス】と後は……忘れたわ。ノーメンさん何だっけ?」


 流暢りゅうちょうな喋り方に物忘れが激しく、どこかおとぼけているセリエはノーメンに質問するが、返答はおろか相変わらず無口な大男に軽く舌打ちをすると、肩に乗り周囲をほのかに照らしている子犬タイニードック威嚇いかくする様に吠えていた。


暴君タイラント殺戮芋虫デスワーム》100Mタイプ〕=【危険度level-Ⅲ】


(MAXの体長が200Mを越え、数千もある鋭利な牙と丸太の様な体格に加え、肉食獰猛であり産卵期には、2万~5万の卵を出産するがその9割強は同一種に補食される。寿命は70年と比較的長いが、そこまで存命の個体はいないとされている。)


 あまりの巨大さに後退りをするノーメンと気にも止めないセリエの両極端な二人と、臨戦態勢に入る子犬タイニードックだが、ある一言で我に返った。


「お前等よく見ろよ。こいつはな、に殺されているんだ……しかも、でな」


 戦慄し呆然と立ち尽くすノーメンを他所に芋虫ワームを叩きながら早口で語り続ける。


「まだ見るからに幼虫ようちゅうだが、立派なlevel-Ⅲだ。こいつを相手に争った跡も周囲にはない上にが綺麗さっぱりと。この意味わかるかいノーメンさん?」


 マスクで相変わらず表情が見えないが、考え込むように静かに頷くと尚も吠え続ける子犬タイニードックを消し、珍しく喋り出す。


「協会の調査通り、お前が何処かへ飛ばした【level-Ⅳの焔獄兜武者ヘルクレス】或いは、それ以上の大物と言うわけか……」




 滅多に声を出さないノーメンに対し翠色の瞳を見開き飛び起きるように反応するセリエ。


「そう!!俺が言いたいのは、そこなんだよ。明らかにヤバイのがこの渓谷にいるってわけ!!」


 マスク越しに微かだが視認できる程度で、尚も芋虫の亡骸を指差しながら熱弁を繰り返す。

「もし倒した奴が精霊付きであれ、level-Ⅳであれ、俺達でもこの位の奴なら倒せる……って言いたいんだけど、何せここまで綺麗な闘いを見せられたら気になっちゃうわけよ?」


 セリエは珍しく興奮気味に返答すると、耳障りだと思ったのか「いいから先へ行くぞ」とハンドサインを出されまた無視される。

 再び手の平から子犬を出し、松明代りにするが混ざりあった闇の中では正気を保たなければ何処までも呑み込まれそうな【深淵の闇】が辺りを取り囲んでいた。


「相変わらずノーメンの旦那は、お堅いなぁ~。暇だからその犬ちょっと貸してよ!!」

 通常は人肌程の温もりがある子犬に近づくと、強引に抱き寄せようとしたが余程嫌なのか唸り声を上げ威嚇を繰り返すと、体温が急激に上がったことにより体から水蒸気を発する。


(やはりここには、僅かだが水の気配があるな……つう事は、居るとしたら【水の精霊】って奴か。まぁ、【時の精霊】よりかは楽勝だな……)


「ところでノーメンの旦那……燃えてるけど熱くないの?」


 セリエの一言に直ぐ様反応を示し、子犬と相思相愛の様に目で会話をするとお互い小さく頷き協会特注の【耐炎手袋】を見せびらかしてきた。


「良いだろ、スゲーだろ!?」と言わんばかりの身振りや表情をしている。

(マスクしてるし、暗いから分からないが彼の性格上恐らくそうだろう)


 僅かに漂う水の匂いを頼りに歩みを進めるが恐らく【危険度level-Ⅲ】クラスが、今もこの渓谷けいこく闊歩かっぽしているだろう。

 無駄な戦闘と魔力マナを温存したいセリエは、亡骸に息を吹き付けると小さな風が芋虫ワームを包み込み、半身はんみ程の巨体はものの数秒で手のひらサイズのガラス玉に変化し、照りつける炎にかざすと、体液が結晶化され淡い深翠色の宝石が輝いてるのが分かる。


 周囲をホタルに似た光の粒が飛び交う様を見ながら、立ち尽くすノーメンは、美しいガラス玉に目が釘付けになっていた。

「これなんだと思う?」とセリエは、悪戯好きの子どもみたいな笑顔を向ける。

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