第31話【子育て日記二日目】(精神の滝編その2)

(中心に力を集中し、外へ拡散させる……)

 呼吸を忘れてしまうほどに目先へと集中力を費やしているが、徐々に体が滝へと近づくニッシャは、左手を後方に向け同程度の炎を放出させることによりこれ以上の後退を防ぐ手段に出た。


(あー……くそっ!!ミフィレンと楽しく遊ぼうとしたら)


 豪爆と放炎が互いにぶつかり合い、力が均衡する中いまだその力が弱まることを知らない【絶望と苦痛の豪ニッシャ絶対に許すまじ】は、超高温と超高速回転を併せ持つため、それに耐えるニッシャの「体力」「魔力」「気力」を大幅に削っていた。


(さて……修行ざつようの成果でをどう対処するか見せてもらおうかしら)


 華奢きゃしゃな腕を組み合わせ深刻な表情をしているが、子どもたちに頬をつねられており、髪の毛をいじられながら思うアイナだった。


 通常火速炎迅かそくえんじん-初速しょそくで使える技は魔力の回転数により決められており、それぞれに対応した技しか今までのニッシャでは出せなかったが、この2日の修行ざつようのおかげか緻密ちみつな魔力操作を会得したことにより、少量の魔力でも劣化れっかこそするが使用出来るようになった。


「片手で上手くいくとは、思わねえけどヤらなきゃ殺られるな……!!」


 血反吐ちへどこそないが、いまある力を出し切る勢いで放つ事を決意する。


炎武えんぶ3の段-散火舞炎さんかぶえん

 球体の中は小さな火が高速回転により増幅され、舞う様な炎と化す。

 ニッシャの魔力が縦横無尽に駆け巡り、まるで鋭利なウニでも入っているかのように「トゲトゲ」しい見た目に成り変わるが、特殊な素材で出来ているボールは尚も割れる事なくギリギリの形を保っている。


はじけろー!!」そう叫びながらてのひらを天井に向けることにより上空へ軌道を修正させ、威力を殺す事なく球体はいとも容易たやすく天井を突き抜ける。

 内部で爆発的に増幅する火花達は上空200M程まで昇った所で、負荷に耐えきれず圧力が外へと漏れ出し始める。

 1ヵ所でも空いた後は至極単純しごくたんじゅんな話で1つまた1つと連鎖的れんさてきに次々と無数の穴が空き始め……やがて――――【はじけ出す】


 仰向けで「プカプカ」と浮かんでいる子どもたちの目に映るのは、まるで煌めく無数の宝石のように天井全体をおおい、空へと散りばめられた火花が華やかに咲きほこる光景が眼前がんぜんに広がっていたのでした。


 上空には球体から次々と放たれる落下範囲、数百Mにも及ぶ火の結晶は引力に従い下方へと引き寄せられる。

 全く対処しようとしない朱色の海星ニッシャに代わり、外部へ飛散しないように広範囲に渡り魔法壁マジックウォールで覆うと、降り注ぐ結晶は屋敷に衝突することなくちりへと成り変わっていた。


 疲れはてたニッシャは、漂流物の様に浮いており、若いとはいえ流石のニッシャでも自然回復に時間がかかるため、まばゆく光る空と雪のように舞い散る灰をただ呆然と眺めているだけだった。


「まぁ、この時期の「花火」と「雪」も悪くはないかもな……」そう言いながら防水性の煙草を口に咥え、吹き付ける煙は灰と交わりながら綺麗に消え去る。

 爆発音と照りつける光が部屋全体をいろどる中、微かに聞こえる愛しい声達と嫌みのような言葉が耳へと入る。


「アイナとニッシャすごーい!もう一回見たい!!」

「あら、以外と悪くないわね……どう?綺麗な花火でしょ!?|ミフィちゃんのためにやったのよ」

「キャッキャッキャ!」

 子ども達を抱き寄せそう呟き微笑むアイナと、初めての「光景」なのか感動と興奮を押さえきれないミフィレン、それに何でもかんでも笑うお年頃のラシメイナの三人は、火花を出し切るまでおよそ3分程だが、優雅ゆうがに花火観賞を楽しんでいた。


「さぁて、あの天井は誰が直すんだろうな……」そう小さく呟き、見つめる先にあるのは骨組みは曲がり、硝子ガラスは飴細工のように溶解し、直径40cmはある円型の穴が衝撃の凄まじさを物語っていた。


 不思議な何かに引き寄せられる様に体はアイナの方へ向かって行き、濡れてくしゃくしゃになった髪の毛を面白がって遊んでいる声が頭上から聞こえる。

 時折水飛沫みずしぶきが顔にかかっては拭うを繰り返していると顔色を覗くように蒼色の大きな瞳が私の眼とあった。


「ニッシャ、さっきの花火綺麗だったねー!!」

 小さな両手で左右の頬を潰され、揉みくちゃにされて返答し辛かったが、可愛いから許そう……だがその後ろの子は、許してくれない気がする。

 可愛い顔の裏には、鬼神きしんでも顕現けんげんしてしまいそうな程恐ろしい顔をしている。

「自分が何したか分かってるわよね?」とにらみを利かせながら何か言いたげな顔をしている女の子がミフィレンの後方で背後霊の様にまとわり付いていた。


「ニッシャ面白い顔ー!!」怯えた顔をしている私に向けたその一言を聞いた途端、音もなく天を仰いでいたのは言うまでもないな。

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