第25話【子育て日記二日目】(食器洗い編その2)

 いつもは、感覚を頼りにただ燃やせば良いとだけ思っていたが、今回の闘いで改めて実感したんだ。


 消費が激しい分一撃の威力は、確実に上がるがその強大な力は、私自身を蝕んでいることに改めて気付かされた。




 ただ闇雲に力を振るうのではなく、目的を芯で捉え効率的に魔力マナを使うことによって体への負担も軽減される。


 指先から少量の魔力マナを放出し、静かに目を閉じると皿全体ではなく中心を軸に熱を集中させる。




 徐々に消えてゆく汚れは、成功を意味するように焼失していた。


 1枚出来たら、また1枚と改良を重ねながら次々と同じ作業をし、初めの苦戦が嘘みたいに上達し、その速度はニッシャならではだった。




【?時間経過後】




 一人黙々とやっていたが、流石のニッシャでも息を切らしていた。


「私もやればできるもんだな」とあれほどあったお皿の山は消え、我ながら感心してしまう。


 二人で絵を描いた皿は、勿体無くて1枚残らず欲しかったんだが、流石に人の家の物だからな。泣く泣く綺麗にせざるをえなかった。


 ここ数日は、無茶をしすぎたため流石のニッシャでも集中力の糸が切れ、「すやすや」と寝息を立てる小さな体を抱きしめながら、倒れ込むように寝そべる。




 抱擁ほうようされたことによりミフィレンの帽子がズレ、手の平サイズのお皿が見えたような見えなかったような真実は、小さな絵描きさんだけが知るのでした。




【時刻は真夜中】




「ギギギッ」と扉が少しだけ開き小さな顔が覗き込むように「チラッ」と出ていて、手には、水晶玉を持っており独り言のように話始めた。


「おばあちゃん見てる?一見不器用そうだけどちゃんとやり遂げたらしいよ?」




 余りにも近すぎたのか「老婆の目玉がドアップ」になっていて、「近すぎだよ……」とアイナが言うと、笑いながら距離をとる。




「フォッフォッフォッ」と老婆は、高笑いすると小さい眼まなこで辺りを見渡すように覗き見る。




「私は、旧友に会いに行ってるからねぇまだまだ戻らないよ」


 辛気臭そうな顔をしているが老婆の後ろでは、楽しそうな声が聞こえ、あれほどの被害が有りながら、平気な顔をしているのだ。


 どうしてかは、後程分かるとして……




「おばあちゃん、あんまり若くないんだからお酒は、控えなよ」


 アイナがそう釘を指すと、シワシワな顔は、「シュンッ」と反省した様な顔をしていた。


「少しだけ言い過ぎたかな?」そう思って、水晶玉から映像が消える瞬間、老婆は右手にあった高濃度のアルコールをコールと共にラッパ飲みしていた。




「おばあちゃんったら本当に、言うこと聞かないんだから……いつか死んじゃうよ?」




 アイナは、消えた水晶玉にそう言い残すと寝息を立てる二人を起こさぬよう、静かに扉を閉めると「また明日ね」と小さく呟いた。



【2日目の早朝】




「タッタッタッ」と一定のリズムが廊下に響く。


 あそこに忙せわしなく動いている、【朱あかい海星ヒトデ】みたいのがいるだろ?


 そう!!それだよ!それ!私の名前は、「ニッシャ」訳あって、「シレーネ」にある屋敷に居るんだが……


(ほら、耳を澄ませば聞こえるだろ?可愛い声とそうじゃない声がさ。)





「ニッシャがんばれ~!!」




「ちょっとスピード落ちてきたんじゃない?」




「おぎゃぁぁぁあ!!」





 可愛く応援してくれている金髪のもじゃもじゃが私の愛するミフィレンで、小生意気な黒髪のお洒落ボブがこの屋敷に住むアイナって子、いつも泣いている妹(?)を抱いていて今日は、片手で本を読んでいる。


 何だかよくわからないけど私は今、はるか彼方にある壁まで雑巾がけの床掃除をさせられていて、屋敷が馬鹿デカイせいでまだ半分にも差し掛かっていない。





 ちなみに私・の・上・に・い・る・、【小さな応援団】&【小姑こじゅうとめ】&【泣くのが仕事あかんぼう】は、本当に好き勝手やっている。


 髪の毛を弄いじられ、優雅に読者してるし、ヨダレは垂らされるし......


 まぁ、取り敢えず説明は、こんなところかな。




【屋敷内廊下】




 愛しの錦糸卵きんしたまごだけならまだしも他の二人が乗っているのが気に入らない為半ばキレ気味で話す。


「あの~小さな皆さん聞こえるかな?背中がちょっと痛いんだけど?」




 背中には、熊にヤられた傷があり、そこに三人共ピンポイントに座っていた。




「あら、それは、ごめんなさいね」


 悪気もなく、あまりにも素っ気ない言葉を投げられたが、私に恨みでもあるかと錯覚してしまう上に尚も背中から降りず、態度を変えないアイナに対して大人げなく返答する。


「あのな、どうみても私の方が歳上だよな?」


 そんな問いには、耳を貸さずに、毅然きぜんとした態度をとる。




「パタリ」と本を閉じ、赤子は、ミフィレンへ受け渡すと余程お互いが好きなのか背中でじゃれている


 背中から飛び降り、華麗に着地すると、四よつん這ばいになっている私の正面へ立ち、上から目線で話し出す。




「そうかしら?私、あなたと違って発育が良くないみたいなの。こんな脂肪の塊何て、日常生活に不必要だわ」


 小さな体は、しゃがみ込むとまるで「陶器」を作るかのようにドレスから見える胸元を「ペタペタ」と触りだした。




(コイツ大人っぽいにも程があるぞ)


「歳上の言う事をだな……」そう言いかけた時、アイナの口角が上がった。




「私こう見えて、【27歳】何ですけど?私より上って事は、【30歳】位ってことかしら?」




 身長180cmもあるニッシャに対して、アイナチビ魚雷は、130cm程しかなく、ミフィレンとあまり変わらぬ見た目と体つきに騙されていた。




(どんな魔法使ったら、こんな小さい生き物が出来んだよ)




「どんな魔法使ったら、こんな小さ……」




 ニッシャは、アイナに対して体の事を指摘しようとした瞬間、本の角で頭を叩かれ、「ゴッ」と鈍い音がし、あまりの痛さに頭を抱え悶絶する。


 勢いよく宙へ投げ出されたミフィレンは、赤子を抱きながら綺麗な弧を描きながら1回転すると、「スタッ」とまるでヒーローの様に着地した。




 頭に残る痛みに耐えながら顔を見上げていると、人が変わったように「ミフィレン凄い!!」とアイナは、拍手喝采をし、先程とは打って変わって「ニッコリ」笑顔で讃えていた。




(もしかしてコイツアイナ、ミフィレンの事……)




 本に付いた埃ほこりを払うと、脇に抱え両手を鳴らす。


「はいはい、やらないと終わらないから続きよろしくね。お姉さん?」




 そう言って不敵な笑みを浮かべると静かに私の背に乗った。




【それから2時間後】




 ニッシャの頑張りがあって全体の5%を拭き終え、「ミフィレン」、「赤子」、「ニッシャ」は、三人揃って大の字に寝そべっているのも束の間、悪魔のような一言が耳にはいる。




「ラッシー赤子」と「ミフィレン錦糸卵」は、休んでもいいけど貴女ニッシャは駄目よ」




 小さな体に似合わず豪快にドレスの襟えりを持つと、まるで魚類でも捕らえたが如く、半ば強引に引き摺ずられ、部屋を後にした。




「痛い痛い!?ちょっ!!ドレス擦れるってえぇぇ!!」




 部屋中に響く、ニッシャの悲痛な叫び声は、「すやすや」と幸せそうに眠る2人には、関係ないのでした。

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