第24話【子育て日記初日】(皿洗い編その1)

「さてと……どうしたもんかねぇ」


改めて周りを見渡すと、「とにかく広い」その一言であり、いかにも何でもありそうな雰囲気とTHE・金持ちみたいな豪華な装飾品そうしょくひんの数々は、5年もの間、森で過ごしてきたせいもあってか私には、眩しすぎた。

そんな心配を他所に部屋中を走り回る錦糸卵きんしたまごとそれを見守る少女と、さらにそれを傍観ぼうかんしている私。

(同い年位なのにこうも差がでるとわ……)


「とりあえずさ、これから数日は、衣食住を共に過ごす仲間としてアイナちゃんが屋敷内を案内してくれないかな?」


話を聞いているのかわからないが、無言で「スタスタ」横を素通りし、うなずきもせず、時折あやす様な仕草をしながら部屋を出ていき、扉の「パタリ」という音だけが静けさをより濃く演出した。


(嫌われているのかな?)

マイナスに考えてしまったがミフィレンを呼び寄せ、アイナの後を追いかける。

錦糸卵きんしたまごは、「トテトテ」と小走りをし、右足に抱きつくと顔を擦りつけ、蒼い御目目おめめで見つめながら、まるで当然の様に「レッツゴー」とかなんとか言っている。

何にでも興味を示すのは、良いことだしその自由奔放さが好きなんだが将来が心配だよ私わ……。


扉を開け廊下へ出ると、壁に「ビッシリ」と勲章や賞状等、輝かしい光景が眼前に広がり思わず言葉を失ってしまった。


「ニッシャーあっちでアイナが待ってるよー?」


抱き付きながらアイナの方へ指を向け、その仕草も可愛くて仕方がないが小さな文鎮ぶんちんのせいで歩く度に少し体が痛むのをこらえながら前へ進む。

付かず離れずの状態が数分続き、お互い無言のまま長い廊下を歩いていると、目的地に着いたのか立ち止まり、小さな体で扉を開けて待っていた。


「ここに入れって事なのか?」


そうは、言ったもののやはり反応がないためそのまま部屋へと入る。


【屋敷内洗い場】


目が点になるニッシャを他所に何処でも走り回るミフィレン。


そこには、ニッシャの身長よりも大きな棚が部屋の半分を占めており、色とりどりの食器が並ぶ中、その数1000枚以上あり、とても老婆と子ども2人の量でわないのは、明白だ。

棚に囲まれた中央には、調理場があるが乱雑に食器が置かれており、こちらもニッシャの目線程が重なっていた。


あまりの光景に呆気あっけに取られる中いつの間にかアイナは、消えておりただそこにいるのは、【錦糸卵きんしたまご】と【あか海星ヒトデ】のみだった。


「ポツン」と取り残された2人は、目の前の惨状に訳がわからなかった。

「おいおい、私ら客人じゃなくて使用人扱いかよ。まさかこんなところで皿洗いしなきゃいけないわけ?」


半ばキレ気味のニッシャに対して、チビッ子は、お皿をフリスビーの様に飛ばしていた。「キラキラ」とほとばしるその笑顔は、無邪気過ぎて抱き締めたくなったがとりあえず目の前の惨状を片付けるとしよう。

(匠の手により生成された食器や日用品は、魔法耐性がほどこされており滅多めったに壊れない)


山積みの皿から1枚を手に取り、汚れを落とすつもりで魔力マナを込め、小さな炎が皿を包み込むように燃えている。

「チリチリ」と音を立てながら見る見るうちに汚れが落ちたが手元には、何も残らなかった。


「火力間違えたかな……無くなっちった」


調整が難しく、何度やっても溶解していくだけだった。

レプラギウス炎の精霊との付き合いは、ここ数年だがまだ扱いきれていないのがわかる)

その頃ミフィレンは、どこで貰ったのか分からないが赤色のクレヨンを握りしめ後方で皿にを書いていた。

【屋敷内洗い場】


燃やしては、溶けを数十回と繰り返すが今だに燃えカスも残らない程綺麗に無くなり、徐々に火力を落としながら挑戦するがそれも虚しく、時間だけが刻一刻と過ぎてゆく。


まだ何百枚とあるが終わりが見えず、外の景色が食器棚で隠れており、景色と体内時計で過ごしてきたニッシャにとって少量の「イライラ」が募る。

地べたに座り込み、山積みの皿を眺めながら愚痴をこぼす。


「くそっ……また失敗かよ。皿に炎を纏わせれば上手く行くと思ったんだけどな」


いっその事、皿全部燃やしてやろうかと考えたが火事どころの騒ぎじゃなくなるのでそこは、思い止まり心を落ち着かせるため煙草を吸いながらミフィレンを見てると相変わらずクレヨンで「グリグリ」と絵を描いていた。

褒められるのが好きなのか何十枚も皿に書いた絵を見してくれた。


「ニッシャ見てー!!お絵描きしたんだ!!」


元気なその声になにも考えず反射的に答えてしまった。


「あっ、この前より上手くなったね!どんどん上達して嬉しいよ」


日々の成長に何だか嬉しくなり、頭を撫でるとお互い笑いながら幸せな時間を過ごし、小さな癒しが今、「皿」に絵を描いて応援してくれている気がした。

たったそれだけで幸せを感じれるなんて私も変わったな……

気を取り直してやる気になると、まだまだ山積みの皿に向かって一喝する。


「さ~て汚れた皿の処理でもするか!!」


【数秒の沈黙が訪れる】

立ち上がろうと重い腰を上げようとしたが、ある事にふと気づいた。いや、舞い上がりすぎて忘れていたのかも知れない。

「汚れ」た皿を「綺麗」に?


(私に可愛らしい絵を見してくれたその顔は、まん丸笑顔で幸せに満ち溢れていたのだが、よーく考えて?それ人の家の皿ー!!

確かに可愛いよ?キュートだよ?愛しいのだけれども人の家のお皿を「グリグリ」しないでー!?)


ミフィレンの方へ振り返ると私は、思わず声を出してしまった。

「お絵描きは、良いけどそんなに強く描いたら荒っぽくなっちゃうよ?」

果たしてこの言葉があっているのか分からないが小さな手は、その一言で止まった。


「だってニッシャお皿に夢中で構ってくれないもん……」


(1つの事に集中し過ぎてほったらかしで、同じ空間に居るのにお互い別の事をしてたらそれは、寂しいもんな。)

うつ向いてる頭を撫で、頬をつまみ目線を合わすと顔は、原形が少しあるくらい引きつってるがそこも可愛いポイントだと思う。

明らかに機嫌が悪そうに目を細めているが、感情が豊かなのは、良いことじゃないかな?


少しだけ考えた後、お互いのやりたいことをまとめて話を進める。

「わかった。じゃあこうしようか?一緒に絵を描こう!!んで、終わったらあのお皿を綺麗にしようか!」


気が付けば、手を離すのを忘れミフィレンの顔がつきたてのお餅のように「ビヨーン」と伸びており、少し可愛そうになったので手を離すと指の形に赤くなっていて「ププッ」と含み笑いをしながら後ろへ回り、小さな体を抱き寄せ、手を添えて一緒に絵を描くことにした。錦糸卵きんしたまごの様になっていた髪の毛は、1つに束ねて小さな肩に顎を乗せる。


枚数を重ねる事に綺麗になり、先に描いた絵の倍を別の皿へ写し描いていき、手は優しく添え力がかかりそうになると上手く微調整を行いサポートをすることによって、クレヨンに余分な力がかからず、絵も綺麗になり二人の作品になった。

時間も忘れるほど夢中になって描いていき、いつの間にか眠ってしまったミフィレンを寝かすと調理台に向き直り続きを始める。


「さ~て、コツも掴めたし「パパッ」とやっちゃいますか!!」

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