第20話【その男危険につき】(1)

【避難所内ニッシャ到着20分ほど前】


先程の事もあり、兜武者は上機嫌そうに目の前の男へ問いかける。


「ここへ来て、2人の強者と呼ぶにふさわしい魔法使いと死合しあいをしたが、主はどうかな?」


寝転びながら話を聞いているようだが、どこか上の空みたいで、興味なさそうに遠くを眺め、髪の毛をいじりながら聞いてきたが、勿論目など合わしていない。


「へー。まぁ、ここに居るってことは、勝ったんだよね?どうだった?知り合いなんだよね。」


兜武者は、己の「進化」と「強さ」にどこか自惚うぬぼれていたのもあり会話を楽しんでいた。


「みなまで聞くな。望む答えなど、この刀を見ればおのずとわかろう」


重量級の刀を軽々と片手で持ち上げ、「ドシン」と地面へ押し付ける。

振動と共に地面から炎が吹き上げ、後方の燃える道筋からは火柱が上がる。


「そんな事は、いいからさ、ちゃちゃっとっちゃおうよ?」


尚も挑発を繰り返す若造に痺れを切らし、刀を差し向ける。


「ほう……名を記憶するのにふさわしい男か判断してやろう」


(しかしまぁ、こんな大物がいるなんて老体シバから緊急事態エマージェンシーを受けてあらかじめ別の場所に避難者を転送していてよかった)


「あー。ちゃんと覚えとけよ、俺の名はセリエだからな。一生もんだぞ?まぁ、お前が生きていたらな」


男は右指を兜武者に照準を合わせ、まるでわたあめを作るように、「くるくる」と回しだした。

兜武者は「臆せず」、それでいて「恐れず」、その身軽になった肉体で宙を舞うように疾走する。


楽観的に考えていたが、予想外の行動につい口に出てしまった。

「あらら~。真っ直ぐ来ちゃうかー、案外危険度level-Ⅳってのも脳筋だね」


片手で持つ刀を勢いに任せて正面へ投げ入れ 、己はその後を追うように走る。

兜虫の角の様に先端が二股に別れているその刀は、 速さもしかることながら一瞬の判断が命取りになるほどの選択を迫る。


期待外れと言わんばかりに目が「ポカーン」となる。

「こんなのに、負けちゃったか~まぁどうでもいいか」


男の指は、音速を超え寝ながら放たれる魔法の名は、


【level1-風災散壊ふうさいさんかい


螺旋状にとどろく一陣の風は、地面や柱材などを巻き込み、その剛腕から投擲とうてきされた刀を失速させ、柄の部分で兜武者を押し返しながらその身に突き刺さる。


「ぬおおおおぉぉ!!」


セリエの人差し指から放たれた、見た目からは想像出来ないほどの狂風きょうふうとなり、その声を相殺させ、堪らず両手で刀を抑え込み、両足は地面を掴めず、羽で無理やり前進するが、当然その体はあらがう事が出来ず上空へ飛ばされ、魔法壁マジックウォールを突き破りどこかへ行ってしまった。


「あー。一個言うけどさ、アイツらは強いよ?特に女の方は手が付けられない程だからさ、ってもういないか」


「クスクス」と笑うその眼前には、亡き天井から射し込める光の温かさと嵐の後の静けさも相まってか「ポカポカ」陽気に包まれた男は眠りについた。


【非常通路ニッシャ側】


「ジューッ」とまるでステーキでも焼いているかの様な音がする。

時間差で兜武者を追いかけるニッシャであったが、長く広い道中にイライラが隠せない。


「くそ!!この廊下長すぎだろ!!金ばっかりかけやがって!!」


兜武者を追いかけ、道を辿りながら消火をするニッシャは、愚痴をこぼしながら走る。

すると、前方から大きな火柱がニッシャに向かってくるのだ。

驚き過ぎて口から「ポトッ」と虚しく煙草が地面へ落ち灰に変わる。

無言で振り返ると兜武者とは真逆のノーメンがいる方へ、全力で逃げる。

「うわぁぁぁぁあ!」

後方を振り替える余裕もなく走っていくと「チリチリ」とドレスが少しずつだが燃えているのがわかり、耐熱の限界を迎えているのだ。

これは、感覚でもなんでもない100のがわかる。

あんな高熱を浴びたら私なんて人溜まりもない。

下手したらで走り回るのだってありえる、それは絶対に避けなければいけないし、つうか嫌だ。

広場へ出たニッシャは右へ綺麗な曲線を描き回避すると、炎は一直線にノーメンへ襲いかかる。

カッコつけて冷静に右手を前へ出し、その手のひらには、小さな子犬タイニードックがお利口そうに口を開けてエサを待っていたのだ。

「ズズズッ」とまるで、掃除機にでも吸われた様な音がし、炎はやがてお腹の中へ貯蓄され、満足そうな笑みを浮かべてまた「ぐっすり」と眠りについていた。


「さすが私の魔法、ナイスだぜ!!ノーメン!!」

「ニッコリ」とノーメンに向かい微笑むと少し笑っている気がした。


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