第19話【燃える思い】(3)

【避難所扉前】


(ここが、我が求める強者への入り口か)


角刀ホーンソードを両手で頭上高く持ち上げ、一刀両断が如く振り下ろす。

扉は、斬られた箇所から燃え広がり頑丈な扉その物の存在を焼失させたと同時に、強烈な突風が兜武者を吹き飛ばすが、咄嗟とっさに刀を地面へ突き刺し勢いを殺す。

並の魔法ではこの肉体に傷こそ与えないが数Mも後退してしまった。


やがて強烈な風は止み、刀を地面から抜き、立ち上がる。


「なかなかやるではないか、1つ殺す前に聞くとしよう。名はなんと言う?」


目の前には風魔法で空中に浮き、気だるそうなその男は琥珀色と翠の髪をなびかせて寝転んでいた。


「あ~俺?俺わねぇ……」


【ニッシャ精神世界】


先程の殺伐とした雰囲気とは、うってかわって 光に包まれたように最初は眩しさで目が開かなかった。

やがて慣れ始め、目を開けると妙な感覚があり何処と無く懐かしい気持ちになる。


「ここに来るのも久しぶりだが、アイツがいるんだよな……」


真っ白でなにもない、「天井」もなければ「地面」もない、果てしなく続く空間で永遠と落下しているような気分だ。


疲労や消費された魔力のせいで眠たそうに、欠伸あくびをすると、どこからか声が聞こえた。


その声の主の姿は決まっていない、だが想像した姿になれる様で今回は昨日デザートに食べたミニトマトになりやがった。

一口サイズのそれは、眼前を蝿の如く目障りに飛んでいる。

流暢りゅうちょうに語りかける。

「やぁニッシャ久し振り!!。ここに来るなんて何の気まぐれだい?まさか負けたの?うん!!そうか、負けたんだね!!」

明るいテンションのせいで、さっきまでの戦いが笑える位どーでもよくなっていた。


「別にお前に会いに来たわけじゃないんだがな。」

私は、機嫌が悪そうに答えた。というか事実、機嫌が超悪い。


「そう固い事言うなよ。ずっと見ていたが相変わらず甘い戦い方をするよなニッシャはさ♪」


変わらない口調で、続け様に話すが機嫌をとりたいのか喧嘩売ってるのかわからない。


「そういえばさ!初めの代償はなんだっけ?」

ミニトマトは私の周りを「ぴょんぴょん」跳ねながら、周回する。


「うるせぇよ。とっとと消えろ」

目障りな見た目も相まって捨てゼリフのように吐き捨て、大好きなミニトマトが吐き気を催す程、嫌いになりそうだ。

本来の力の20%程しかだせず負けたせいもあるが、それよりもコイツに会うのが嫌だった。


「僕とニッシャはいわば一心同体じゃないか、君がいるから僕はこうして現世に留まれるし、僕がいるから君の能力は常人以上に発揮されいままで負け知らずだったじゃないか?!」


その言葉を聞き入れたくなくて、天井のない果てしなく続く空間を眺めた。


「まぁいいや!!今日は特別サービスで少しだけ力を貸してあげるよ。また欲しくなったらよろしくね!」


まるで取れたてで新鮮さが滲んでるようだ。

気のせいかと知れないが、光沢があるように「キラキラ」してやがる。

ミニトマトは、ギャルゲーの主人公のような台詞をいいはじめた。


「君はそうそう死ねないよ。この大精霊が一部、【炎】の「レプラギウス」様がついているからね!! 」


どうもこの鼻につく喋り方が嫌いだが、ふて腐れながら睨みを利かせる。


「はいはい。わーったよ......」


納得出来ないが奴の力を頼らざるをえなかった私は、一口で頬張ると再び目を閉じた。


【非常通路ニッシャ側】


「気分は、悪くないがちょっとぬるくないかコレ?」


ニッシャは、煮えたぎるマグマ800℃に入っている......というか、浸かっていたのだ。

まるで自宅で入浴するように自慢の長い足を組み、バブル風呂の様に両手ですくい息を吹き付けていた。


「さてと奴を探すか。まぁ、随分と分かりやすい隠れん坊だな」

正面を眺めると暗い通路を灯す様に道標みちしるべが一本のレールの様に、天井付近まで燃え盛っていた。


風呂マグマから上がり、まずやることはというと瓦礫に埋まっているノーメンの救出が最優先だ。

裸足で近寄り、少しだけ「チクチク」感が気になるが、埋まっている瓦礫に腕を突っ込み、胸ぐらを掴んだと同時に外へ放り投げ、「ドスンッ」という音と共に出荷されたマグロの様に床を滑る。


近づき、お面の様に真っ白な顔を覗く。

「よぉノーメン、元気してたか?」

私がそう言うと、咳払いが聞こえてくる。


(元気そうに見えるか?もう体がボロボロだ。お前は随分と元気そうにだな)

と言っている気がする。


「悪いんだけど、犬っころタイニードックを少し出してくれないか?」


ノーメンは握り拳を開くと右手から小さな犬が現れ、ニッシャは優しくその身をでる。

「おー久しぶりだなぁ!!よしよし!ちょっと失礼……おー、有った有った!!」


犬の足には耐熱性のポーチが装着されていてそこから何やら数本取り出す。

口に咥えいつも通り、利手みぎで火をつけ、上に煙を吹き付ける。


「これがないと、始まらねえよな!!ありがとうな犬っころ!!あと、ノーメンは支払いよろしくな~」

(小さな子と話する時だけ、声色変えるのやめてくれないかな)

と少し思った。

ニッシャは手を振ると、小さく手を振り返される。


私はこれから、の痕跡を辿って行くわけだが、ミフィレンが心配で少しだけ焦りが見える。

消炭けしずみになったヒールの代わりに「トントンッ」と脚を鳴らすと火で出来た靴が現れる。それを履き、道標を足で消火しながら辿る。







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