第18話【燃ゆる思い】(2)


体を巡る魔力マナは欠損を修復する段階に入る。

ファッション性を重視し過ぎたせいで露出箇所肩、足、へそは傷だらけになっちまったな。

通常に比べ、治癒力ちゆりょくの速度は、低下しており、癒えぬ体は柱にもたれ掛かる。

「ふぅっ......」とため息をらし腕は上がらなくなり、「ダラリ」と力なく宙ぶらりん状態だ。

傷は再生されながらも出血をし続け、流れ出る血の感覚すらなく、魔力マナの限界を向かえようとした。


「煙草がねぇのが辛いが、今はそれどころじゃないな。かなりいい一撃をもらっちまったな。早く処置しないと身がもたねぇ」

塞がっていた傷は開き、流れ出る血液はドレス内を通り、「ポタポタ」と滴り落ちる。


場所へ目をやり、「コポコポ」と溶鉱炉ようこうろのように、泡が弾ける様を見る。

顔が火照っているのがわかる、どうやら少し無理をしたようだ。

最小限の被害で、最大のパフォーマンスなんてもんは不器用な私じゃ無理があるがまぁこんなもんだろう。


天井を見渡せば、いつも通りの太陽と周りを見渡せば、溶岩と瓦礫、少しやりすぎたな。

「早く帰って、ミフィレンを「モフり」たいな」


そんな事を頭の中で「グルグル」させていた。

突然後方で爆発音が響き、咄嗟とっさに振り向いた、私は目を疑う、倒した筈の奴が眼前へ現れたのだ。

黒き肉体は元の形とは比べ物にならないくらい崩壊こそしていたが、先程までのダメージを微塵みじんも感じさせぬその姿は「執念」の他ないだろう。

が出せる全力を出した。

並みの【level-Ⅲ】なら、間違いなくその身を保てない筈だが……

だが、奴は両の羽を大きく広げゆっくりと地に足がついたのを見て確信した。

この状況で自ら、「突然変異」したのだ。


超筋力スーパーマッスル兜虫ビートル〕【危険度levelⅢ】

levelup

焔獄兜武者ヘルクレス〕【危険度levelⅣ】


燃え盛る二刀の角はもはや、王の名に相応しい冠となり、古い角は刀のように持ち鋭利かつ頑強な「矛」となり、私の炎が付加エンチャントしたのか燃えてやがる。

マグマと化す炎ですら無意味になり、その肉体は全てを無にす、「鎧」となっていた。


「こっちはもう、お前に飽きたんだがまだ遊びたいか?……」

強がってはいるが、心身ともに限界であった。

先端が二叉ふたまたに別れている刀で私を軽々と持ち上げ、

抵抗できず、「ぐったり」としている私の首を軽々と掴み、煮えたぎるマグマのすぐ真上へ連れてかれる。

徐々にその範囲を広げ落下すれば、発現元である今の私ですら死ぬかもしれない。

無口だったのかシャイなのかわからんが奴は、初めて口を開いた。

「貴様はなぜ強い、どこでその技を身に付けた?」

力への執着なのか、私に興味を示していた。

こんな成りのせいでモテなかったが、ついにモテ期がきたか、なんて冗談めいた事を考えていた。


生まれて一度だって誰かの役にたてなかった。

生まれて一度だって恋なんてしなかった。

生まれて一度だって誰かを守りたいと思えなかった。

生まれてはじめて小さな命に触れた。

守りたいって、信じたいって思えたんだ。


「てめぇなんかに、教えるかばーか」


手足の感覚なんてとっくになくなり、「だらり」と力なく揺れる手で中指を立て、奴の顔面に血反吐を吐きつけ、死を覚悟した私はそっと目を閉じた。

首を掴んだ手が離れ、なんとも言えない浮遊感を味わい、体は火の中へ放たれた。


【非常通路兜武者側】


抵抗もなくゆっくりと沈むニッシャ。

小さな火が音を立てながら体を包み込み、その姿を見ることなく強者を求め歩み始める。


「答えも聞けぬままか、まぁ良いこの先にさらに強力な魔力マナの気配がする。そこへいけばあるいは……」


「ズズズッ」と地面を割き、角刀ホーンソードを引きずる音を辺りに反響させる。

己が目指すは、強者の気配がする「避難所」、そこに答えはあると直感でわかっていた。

ニッシャの魔力マナにより、体のあらゆる箇所が削ぎ落とされ再構築し、炎が鎧の様にまとわり、その姿はまるで炎極えんごくの武者である。

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