第17話【燃ゆる思い】(1)

柱や天井は無くなり、そこにいるのは、山ほど積み重なる瓦礫がれきと勝者である、兜虫ビートルだけがそこにはいた。

4本ある腕は、2本が退化している代わりに、残りの腕はまるで1つ生き物のように脈打ち、強固かつ柔軟であり、そしてなによりシンプルに、ただ強いのだ。


少し期待したのだが、また一撃だった。

ただ歩くだけであらゆる生物は怯え、ただ動くだけで弱者は意思を持たぬ肉塊となる。

そうしているうちに、闘いに飽いていたのだ。

一体、勝利とはなにか?

我と対等に渡り合える強者を求め幾年いくねん経つがいまだに見つからぬ。もはや存在しないものにすがるのも1つの夢か。

ゆっくりと歩みを進め瓦礫を踏み潰す。

考えることはない、また次なる強者を探せばいいことだ。

兜虫の拳はほんの僅かだが、火傷のような焦げた跡があり、小さな硝煙が上がり、「ジリジリ」と少しずつ広がり始める。

それは、火薬のような少量のにおいがしたが、気にも留めずにいた。

(強者の反応があり来てはみたが最後の抵抗がこれとは、協会も落ちぶれたものだ。)


積み重なる石の隙間から、「パチパチ」と小さな音がし、次第に火種は天にも昇りそうな程の火柱となる。


空を焼き尽くすようなその大火たいかは、遥か上空にある魔法壁マジックウォールまで届き「メリメリ」と貫通した。

黒き者は、込み上げる何かが分からぬまま尚もその歩みを止めず進み続けていた。


空中に立ち昇る朱き魔力は徐々に周りを侵食し始める。

協会内部は、広場のような通路がいくつもあり避難所から離れていたお陰で被害が少なくすみそうだ。


(こりゃぁ、勿体ぶるのはやめた方がいいな。)


「まさかこんな所で出会うたぁ、level-Ⅲって所か、寿命がどうとか言ってらんねぇなぁ……!!」



火速炎迅かそくえんじん-Ⅱ速にそく


朱き髪は、燃ゆる火の如く「ユラユラ」と揺らめき、熱く燃えたぎるその魔力は自らを包み込む闘気オーラのように、その身を循環していた。

魔力機関マナエンジンが身体能力を高め私自身を強化させるが、ここまでの連続使用はまずいが仕方ないな)


「さっきは油断したがもう1ラウンドだ。かかってきな!!」

「チョイチョイ」と指先を折り曲げ、自らの何倍もの身長差でありながら臆せず挑発を繰り返す。

それに呼応するように、「ヴォォォォオオオ!!」と轟き地響きのような雄叫びをあげる。


その巨体4Mからは想像が出来ないほどの俊敏な動きで突進され、正面からぶつかり、左手で止めたニッシャであったが、「ジリジリ」と後方へ押し出される。

花弁はなびらの様に火花が散り、口元から流れ出る血が、痛みを現実化させくちびるを強く噛み締め耐え抜く。


お互いの怒号が飛び交う中、いまだその巨体は歩みを止めずニッシャは後方にある壁際まで押される形になる。

左腕は、「ミシミシ」と悲鳴をあげながら、勢いを殺してゆく。


生憎あいにくこっち利腕ききうでなんでね!!」

右腕を、大きく振りかぶり腕全体から放出される魔力マナによる加速で威力が増した一撃を放つ。


奴の腹部に直撃し、「フワリ」と宙に浮き、後方へ転げ回る。

地面に叩きつけられ、頑強な肉体に「ミシミシッ」と拳程のヒビが入る。

今まで、この体を傷付けた者は誰一人いなかった。

未知の感覚に再び雄叫びを上げると、支柱を力任せに掴み取り、槍投げの如く投擲とうてきを開始し、数本の柱が私目掛けて飛んでくる。

あんな大物、目視せずとも回避など容易い。

だが、後方への被害軽減のためニッシャは、次々と投げられる支柱に飛び乗りながら柱を溶解させ、カブトムシまで詰め寄る。

徐々にその距離を縮め、両手に小さな炎を作り上げ2つを合わし小さな爆発を起こす。

目眩ましのように眼前に広がり、一瞬の隙を作り足元へ降り立つ。

魔力マナを足元へ集中させ、兜虫を台風の目とする。


炎武二えんぶにだん灼火瞬炎しゃっかしゅんえん


「ぐるぐる」と円上に周りを疾走しっそうする。

やがて地面には、炎でできたリング状の陣が出来上がる。

灼熱の渦は天地を脅かしやがて地面が溶解しマグマのように活動を始める。

燃え盛る炎には、あらゆる音は消え、ただそこに残る天上の火柱かちゅうにその身は呑まれていった。


「お前のごうは強さによる自身へのおごりだ。消えてなくなれ」

劫火ごうかは顔を照らしだし、流れ出る血は蒸発と流動を繰り返す。

後方へ飛び下がり、消えゆく様を見る。

熱で床が溶け、「ゴゴゴッ」と爆発音を鳴らしながら、徐々にその身が地へ埋まり出す。

一歩ずつだが、此方こちらへ向かってくるがその重さウェイト故にまるで流砂のように体が抜けなくなる。

もがく素振りはなく、ただひたすらに前進するその姿に敵ながら勝利への執着心しゅうちゃくしんを感じたが這い出ようと挙げた腕が埋まるのを見終えた所で私は勝利を確信した。


燃ゆる髪は、通常の朱い髪に戻ったがドレスは高級品もあってか多少のダメージ加工で済み、お気に入りだった、+10cmのヒールはいつの間にか炭になっていたみたいだ。


(こんな無理な闘いかたをすればいずれ肉体が保てなくなるのはニッシャ自身よくわかっていた…が誰かがやらなきゃいけない事も肌身で感じていた)


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