第16話【強者の特権】(2)

【協会魔法壁マジックウォール前】


黒き巨影は都へ接近する。

重厚な音が鳴り響き、徐々にその距離を縮めていった。


部隊はおよそ100余名程、勝てない相手ではないと考え同時かつ多数の詠唱えいしょうを行う。


大規模なその魔法は、植物で肉体を縛り、その身を業火で焼き尽くし、地が割れ、数10tものGグラビティ執拗しつように襲いくる。


「やったのか?」

魔力マナは底を尽き、倒したかに思えた。


地形を変えるほど沢山の魔法が放たれたが、

奴はただ歩き、唖然とする隊員達には一切の攻撃を加えることなく平然と横を通りすぎたのだ。


「何を、されたんだ……」

「開いた口が塞がらない」とはまさにこの事だが事実、なにもしていない。

キングはただ甘い樹液強き者をひたすらに求め続けその歩みを止めることなく、求めるものはただ1つ【究極の死合しあい】である。

「パァーンッ」と風船でも割ったかのような破裂音がしまるで、元からなかったかの様に魔法壁マジックウォールをその身一つで突破する。

通常、魔法壁マジックウォールはあらゆる事象を想定して作られている。

だが「想像の域を越えた」事が起きたのだ。


自動修復オートリペアにより壁は徐々に穴を埋めていき隊員達は、その黒き背をただ茫然と眺めているだけだった。


【協会内非常通路】


ニッシャは煙草のストック全てを上空へ投げ自分を中心に直径2M程の円を作る。

「くるり」と一周し、蝋燭ろうそくのように火が灯る。

天井に向かい煙が立ち込める中、静かに戦闘体勢にはいった。


蟻は発射準備を行い、飛蝗バッタはまた消えてしまった。

ニッシャは静かに目を閉じ構えは微動だにせず正面の蟻を向いている。

上空から、「ガンッ」と天井を叩くような音がし、わずかな風切かざきおんを頼りにタイミングを合わせ頭上へ蹴りを放つ。

速度×力=絶大な破壊力を生み出し、飛蝗バッタは形が残らないほどの肉片となってしまった。

「ボトボト」と飛蝗ばっただった物体が落下し、 それを見かねた蟻は弾丸のようなその速度で柱を利用、反射を繰り返しニッシャを撹乱こうらんさせる作戦にでた。


いまだ微動だにせず、されど構えは解かず「ガンッガンッ!!」と柱が徐々にていく音だけがニッシャの耳に入ってくる。

風に揺られる煙が、辺りを充満させる。


凶弾は最高速度になり、ニッシャに向かい一直線に跳んでいく。

一瞬の変化を見逃さず煙が自分へ向いた瞬間、目の前に現れた蟻ご自慢の顎を掴む。

「やっと、捕まえたぞ。手間取らせやがって!!」

問答無用で膝蹴りを食らわし、「バキャッ!!」という音と共に顎を砕き後方へ投げ捨てる。

弱った所を全力で殴り付ける。

壁にめり込んだを見て一言。


「お前らごとき、魔力マナなんてもったいねぇよ」


蟻はビクともせず、ただのオブジェへと成り下がった。

一服をしようと床に散らばった煙草を拾い始めたその時、突然地鳴りのように建物全体が揺れ始める。

地割れに数本が犠牲になった。

奇跡的に残った一本を口に咥える。

脆くなっていた柱や天井の一部は崩れ落ち、「ガラガラ」と音を

立てる。

私がせっかく作ったオブジェは壊され、黒く巨大なの手には、見たことある奴が鷲掴みされていた。


「おーい、生きてるかー?支払い前に死ぬんじゃねぇぞ~」

そう投げ掛けると、辛うじで親指を立てて見せた。

(気を付けろ、今までのとはlevelが違っ......)

軽々と投げられ、その姿はまるで壊れた玩具オモチャのごとく体が変形し壁へ叩きつけられ、崩れ落ちる瓦礫の下敷きになった。

悲惨な目にあっているノーメンには目もくれず、向き合う。


「あんまし、運動は苦手なんだがこの先には、あの子ミフィレンがいるからな……さぁこいよデカブツ!!」


ニッシャは両の拳を構え、「トンットンットンッ」と小さくジャンプを繰り返す。

尚も、動かぬ黒き者。



〔ニッシャ〕=【朱天しゅてんの炎】

【危険度level-Ⅳ】

VS

超筋力スーパーマッスル兜虫ビートル〕=【黒鎧の暴君】

【危険度level-Ⅲ】


煙草を一気に吸い、勢いよく吐きつけると灰が床へ落下する前に先手を仕掛けた。


恐れなどない今までだってそうだ、何があってもどうにか出来たし、むしろ失敗など片手程だろう。


現在のニッシャは、先程の闘いでマナは温まり【初速】を使用し、姑息な手は使わず、正面から堂々と闘いを挑む事が私のプライドだ。

直感で感じた限り奴の強さってやつが「身に染みて」わかる……だがそれ以上に私は強い。

体勢を低くし、獲物を見据え加速する。


瞬時に間を縮め、足を駆け上がり胸部目掛け乱打を繰り返す。

「ガガガガガッ」と金属音が響く、魔力マナを帯びた拳は再生と崩壊を繰り返し、次第に熱くなるその手は炎をまとわせ、やがて甲冑の如き装甲を砕き割る。

硝煙しょうえんが空中に軌跡を描き、舞う様に攻撃をし続けるニッシャに対し、気にもせず、いまだ歩みを止めることなく、攻めているニッシャが後退していた。


「ゴッ!!」と鈍い音が響いたと同時だった。

まるで反発し合う磁石のように、吹き飛ばされていたのはニッシャの方だった。

柱を次々とぎ倒し、支えていた天井までもが「ガラガラ」と音をたて崩れ去る。


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