第15話 【強者の特権】(1)

【協会内部広場】


俺は、夢を見た。それは遠い記憶のまだ幼き頃の自分を見ている。

平凡な家庭で過ごし、何の変哲もない生活を過ごしていた。

形が様々な「点」が不恰好ぶかっこうながら、互いに手を取り合い、日々少しずつ重なり混じりあい、その繋がりが大きな1つの「輪」となる。

何て事ない事だが、遠い遠い記憶のようなどこか「ほんのり」と心が温かくなるような。


「ほんのり」にしては、熱い?

「うおぉぉ!!」と勢い良く飛び起きる。

(熱ちちちちっ!!?)


顔を起こすと、小さな子犬タイニードックがノーメンの胸辺りで「スヤスヤ」と寝息をたてながら丸くなっている。


魔力を大量に吸収&放出したことにより、体温が通常の炎と同程度になっているためお気に入りの服が焦げていた。

起こさぬように、両の手ですくいあげ、そのまま手のひら同士を合わせる。

「シュッン」、と消えた小さな命。

手には温もりヤケドだけが残されていた。

(これで、ヨシッ!!と……あれから、しばらく眠ってしまったが外はどうなっているのやら)

体を起こし、砂埃すなぼこりを叩き落とす。

顔ほどにも立ち上るあまりの量に「ゴホゴホッ」と咳き込んでしまった。

その勢いのせいか、ふところから「ヒラヒラ」と小さな封筒ふうとう1枚が眼前を飛んでいる。

不器用なため掴み損じたが、ようやく中身を確認する。

これが、【達筆】かと思えるほど美しく気品さえ感じられる文字でこう書かれている。

依頼書クエスト以外、誰からももらった事ないラブレター意気揚々いきようようとする。

小さな鼻歌がお面越しから聞こえ、封を切り開き中身を取り出す。


ノーメンへ

【眠っているだけでなにもしてないみたいだから、罰として今度1発殴らせろ。あとお前の事気に入っているみたいだからその子犬タイニードックはお前にやるよ。p.s.追伸支払いよろしくな】


ニッシャより

(支払いか嫌な気がするな)

胸ポケットには、分厚い紙束が入れられていた。

それを広げると、ノーメンの身長並みに長~い紙が地面「スレスレ」な程、伸びていった。


拝啓

〔ノーメン様〕


この度は、ご利用誠にありがとうございました。

【宿泊代】

大人3万G×1+小人2万G×1=5万G

【洋服代】

黒いドレス特注耐熱仕様+蒼&金特注の子ども服ふわふわ仕様=30万G

【清掃代】

ベット動物の毛がクリーニン付着してング代いたため3万G

【食事代】

3ツ星シェフの特製お子さまセット×1=8万G

最高級お任せフルコース×1=12万G


【その他雑費】

アクセサリー加工代金×1=7万G



計65万G


またのご利用お待ちしております。


「ドンッ!!」という音と共に、膝から崩れ落ち、落胆するその姿は天上から照らされる光と上品ささえある砂埃が相まってか、まるで1つの芸術品のようだった。

後に【燃え尽きる魂】として、協会に銅像が建てられる程絶大な人気を得るのだがそれは後の話となる。


【協会内部非常通路】


ヒールに慣れたせいか、「カッカッカッ」と一定のリズムが辺りに響く。

くるぶしまである長いドレスは、風に揺られ「ゆらゆら」となびいている。

老婆に赤子を抱かせ、「アイナ」と「ミフィレン」は私が両脇に抱える。

沢山飯を食ったせいか、ミフィレンがやや重たい。

本当は他人の子何て抱きたくないのが本音だが、「助けてあげて!お願い!」何て言われたらしょうがないよな。

ほんとに、あんたと出会ってから私は変わった気がするよ。


「避難所はこの角を曲がった所よ!!」

長い距離を走った老婆の体力は限界であり、息を切らせながら伝えてくれた。

先に角を曲がり、「ヒィィイ!!」と悲鳴が聞こえ、私は老婆の後を追い曲がり切った所には、腰を抜かす老婆と眼前には2体の危険種が扉前を陣取るように集まっていた。

(変だ...なぜここで集まっているのか、偶然にしては......)

私は考えを巡らすが、結局分からず小さな2人を下ろすと

手の平に火の玉を奴ら目掛け先制を取り、扉前から遠ざける。

隙をつき、ミフィレン達は避難所に名前札ネームプレートを認証させ中へ入る。


弾丸蟻バレットアント〕=【危険度level-Ⅱ】

(並外れた脚力と頑強な顎により、直径170cmの凶弾きょうだんと化す)


加速飛蝗アクセルホッパー=【危険度level-Ⅱ】

(その脚は生まれながら得た力であ(見るからに血管が脈打つぶっとい脚は、恐らく速いんだろうな~って私は思った。以上)


2体は挑発に乗り、扉から遠ざかるニッシャを追う。

数分走り被害が及ばない場所で止まる。

指で2体を差し、声高らかに言ってやった。

「速さ自慢が私に勝てると思うなよ?ほら、美人なお姉さんが相手してやるからとっととこいよ!」

決まった……と自己陶酔じことうすいしてるのも束の間、飛蝗バッタ野郎が指先から消えている。


勘を頼りに右へ飛び退く。

瞬きほどの間隔で先程まで立っていた地面がまるで隕石でも落下したようなへこみがあった。

大小様々な破片が飛び散り頬に当たる。


眼前に広がる直径1M程のクレーターを見て、空中で体勢を整えようとしたその時だった。

着地よりも早く、蟻が私目掛け一直線に飛んで来たのだ。


クレーターに気を取られたせいもあって、反応が遅れ寸前で顎を両手で押さえつけその勢いのまま柱に強く打ち付けられた。

衝撃は内部に響き高級な床材に血反吐を吐き散らす。

飛蝗バッタアリ余裕綽々よゆうしゃくしゃくなのか追撃をせずこちらの様子をうかがっている。


両脇は石の柱で踏ん張りが効き

柱は視角になりやすく影で狙える

おまけに天井が無駄に高いせいで高く跳び、蹴りの威力倍増ってか?

(今の、一撃でしてやられたわけか)

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