第14話【避難所への道行き】(2)


前方では、視認できない、蠍のはさみが「カチカチ」と鳴り、見えぬ強者さそり弱者ひとは後方へ下がらざるをえなかった。

蜘蛛は「ゆっくり」と確実に【捕食プレデター】&【備蓄ストック】を繰り返す。

幸いにも、蜘蛛はどうやら狩りへの参加はしないみたいだった。

仲間を使い、己は無傷のまま甘い汁をすする。

形は違えど、種族は同じであり【蠍の誘導】、【蜘蛛の捕食】は自然界の中でも完成された計画プランとなりえる。


蠍の装甲は強固であり、弱点とされる炎や氷でさえその装甲に歯も立たないでいた。


「部隊長!もうもちません!これ以上は我々が全滅してしまいます!」


部隊長はポケットから、1枚の写真を取り出す。

それは、何気ない風景を切り取られたものだった。

只、当たり前で、変わった事はなく誰が見ても【平凡】と言えるだろう。

そんな1枚の写真は彼にとって何よりの宝だった。

隊長は、隊員達に合図サインを送り特攻をかける。

「お前たち、今行くぞ!!」

部隊長は強者でなければいけない、

訳ではない。隊を導き【最良の判断】、【最善の

作戦】を立て【最小の犠牲者】、【最高の勝利】をみなと分かち合い生き抜くのが役目だ。


単身走りだし、蠍の元へ飛び込む。

見えぬ両のはさみは鞭の様にしなやかに襲いくる。


それを己が戦場で磨いた、「感覚センス」のみで回避する。

高速の、連撃は体力を奪い反撃する余地をも奪っていた。


「駄目だ!いくら隊長でも一人では到底……」誰かが弱音を口にした。


「バカ野郎!俺たちが信じねぇで誰が信じるんだよ!いつだってあの人が何とかしてくれただろ!信じろそして、俺たちの部隊長ボスは必ず成功させてくれる!」


部下を守るため、単身強敵に挑む姿は勇気を与え、もはや絶対絶命の中誰一人としてこの戦いを諦める者はいなかった。

都を守るため、そしてなによりも愛する家族のため男達は、ボスに命を捧げる事を誓う。


「装甲は破れず、中途半端な攻撃では地中へ潜り逃げられるかもしれん。やるなら一撃で倒さねば」


思考は比較的穏やかであり、ただその時を待っていた。


【部隊長今です!!!】

合図と共に蠍目がけ火の玉が集中する。

時間にしてわずか数秒、だが部隊長は見逃さなかった。

それを難なく防御ガードし先程の獲物を体中の体毛で探知サーチする。


物凄い勢いで、何かが遠くへ移動しているのがわかり、僅かな風の動きを読み獲物を捕らえる蠍だが、その敏感さ故に突進をする。


「ドシンドシン」とを追い詰める。

性懲りもなく、下方から攻撃をされ、同じように両の鋏が前方を切り裂く。

突然鋏が動かなくなり戸惑いを見せる。尚も前方から攻撃され痺れを切らし、猛毒を含む尻尾を前へ突きだす。


「ブスリ」と鈍い音がし勝利のポーズが如く高らかと獲物を上空に掲げる。

すると突然、上空から大量の溶解液が降り注ぐと、身動きができず対処出来ぬまま液体にまみれ蒸気が立ち込めるなかそこにはの姿はなかった。


「どうやら作戦は成功したようだな...またお前たちに救われたよ」

部隊長は後方を振り返り、もはや形もない消え行く者達を眺めていた。

隊長の作戦はこうだ、蠍を誘きだし一部の詠唱部隊が氷魔法で蜘蛛までの一本道を作りそこを部隊長が滑りながら攻撃を仕掛ける。

蜘蛛の腹下まで伸びた氷の道標は糸の干渉がなく危険ではあるが、食料を備蓄ストックしていたため標的にならずに済んだのだ。

蠍が目の前の敵を倒そうと鋏を振るったその先は、仲間であるはずの蜘蛛の脚であった。

食事を邪魔された蜘蛛は糸を吐きつけ、蠍は身動き出来なくなり最後の手段である尻尾を使い獲物を突き刺したのだ。


連戦により、体力、魔力マナはとうに限界を迎えていた。

500名いた仲間達は、3分の1を切り最早ここが限界を越えていた。


だがその部隊を嘲笑あざわらうように、屈強な豪腕を組み、仁王立ちをしている強大な影。


蠍、蜘蛛、蜂、それらすべては、奴の前座に過ぎない。

弱者は強者に従い、また強者は弱者を従え、自然界の法則は「力」により蹂躙じゅうりんされる。


キングは弱者には加担かたんせず

己が道を突き進み、絶対的な勝利を手にする事が許される。

【動かざる事、山の如し】

勝利を約束された昆虫、その名は、超筋力スーパーマッスル兜虫ビートル、昆虫の絶対王者は戦地へ降り立つ。


【応接室内部】


協会人並びに一般人は、避難所にて待機しあとはニッシャ含む6人だけが残された。


広い応接室には静寂さと煙草の匂いが織り混ざりガラス張りの机には山ほどの吸い殻と一杯の珈琲が置かれている。

人の声がしない部屋では、時を刻む針だけが正確なリズムで動く音がした。


珈琲を一口含み、その苦味を噛みしめ、男は物思いにふける。

ニッシャに抱かれたミフィレンが映るホログラムを見つめ深いため息をする。


「奴も、あれ以来変わってしまったな......ここを出て会うのは、実に5年ぶりといったところか。あのニッシャが今や「子」を連れ歩くとは、人というのはわからんな」


「ごそごそ」とポケットから、小さなロケットを取り出す。


「パチンッ」と金属音がし、中には若かりし、「前部隊長」と「老年の男」が笑みを浮かべて肩を組み、ニッシャはその前で頬杖を付きながら寝そべっていた。

懐かしそうに、写真を指でなぞる。


「なぁ「前部隊長」お前が、手塩にかけて育てた弟子は元気だぞ」


そう、小さく言い残し、ポケットへ戻し入れる。

両脇の護衛達には、過去を追想し肩を震わせる男の背中が映っていた。

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