第21話【その男危険につき】(2)

(しかし、死ぬかと思ったぞ。それは、いいとして......いつの間にか傷が治癒している。この子犬タイニードックのおかげか?)


「あー。そうそう、何か焦げ臭いと思ったら、お前の右手焦げてないか?」


(またか!!?)

ノーメンは慌てて子犬を消すと、しゃがみこみ、右手を地面へ擦り付け小さな煙が立つ。


「しかし……ちと、派手にやり過ぎたな」


ニッシャは腰に手を当て、周りを見渡すと随分、変わり果てている景色に困惑した。



before

①歴史的彫刻やその他展示物。

②特殊な魔法により、四季折々の景色が眺められる床材。

③支柱は有名魔法使いの汗と涙の結晶。

after

①見るも無惨な姿に成り果て目も当てられない。

②「ボコボコ」に穴が空き、もはや火山地帯。

③見える支柱はニッシャが溶解したため残るは焦げの塊。


「支払いよろしくな~」

「くるり」と振り返り、ニッシャは手を振るとノーメンを置いて走り出す。

「カッカッカッ」という音が響か......ない

ニッシャは鼻息を荒くし、大袈裟おおげさ過ぎる動きで前へ進もうとしたが、その努力もむなしく空中で空振りするだけだった。


「やぉニッシャ。あのとき以来だねぇ~元気してる?あの小さい錦糸卵きんしたまごみたいな子はどうした?」


一瞬「ピクッ」としたが気にせず返答する。

「セリエ、てめぇ、何しに来た?」

あの時の出来事を根に持っているため物凄い形相で睨みを効かせる。


そんなことには、気にも止めない自称優男やさおのセリエは、相変わらず変わらないトーンで答える。

「あ~僕?暇だから散歩がてら協会にきたら、デカい兜虫みたいなのに会ったからさ、とりあえず大気圏まで飛ばしといたよ。まぁなら当分は戻らないだろうけどね」


少しだけ和らいだのか「やれやれ」とため息をつくと

「相変わらずお前の魔法は無茶苦茶だな......んで?何でずっとニヤニヤしてんだよ」


にやけ面が気に入らないのか、再びがんを飛ばす。


「別に~?ここの後処理は僕たちに任せて、君はあの子のところ行ってあげなよ」


「ふんっ!!」と不機嫌そうな顔をし、ノーメン、セリエ達を後にする。


「ん?さっきから熱い眼差しでどうしたの、ノーメンさん?」


その豪腕を組み合わせながら、無機質な真っ白のお面は真横のセリエを見つめ何かを訴えている。

(んで、本当の理由はなんだったんだ?)と言っているみたいだ。


「ゴロん」とうつ伏せになり、かったるそうに話す。

「あー、あれ?いやね、ニッシャは生き返るために代償払ったのかなって思ってね、この前会った時より魔力量が桁外れに上がってたからさ♪本人は気づいてないみたいだけど」


ノーメンは状況が理解できず無言のまま首をかしげる。

それをみたセリエは頭を掻きむしると、ざっくりとした説明をした。

「まっ!ようするに、精霊付きでも無敵じゃないってことさ♪ここの後処理は自動修復オートリペアに任せて俺らは任務へ行きますか♪」


二人は協会を後にし闇へと消えていった。


【協会内応接室】


各場所の映像を確認し負傷者への救護、救助者への「ケア」の要請を出していた。


【シレーネへの危険生物襲来】


【危険度level-Ⅱ】→【蜂、蜘蛛、蠍、蟻、飛蝗】=【討伐】


【危険度level-Ⅲ】→【牛人】=【討伐】


【危険度level-Ⅲ→Ⅳ】→【兜虫→兜武者】=【逃亡】


【犠牲者総数】


【討伐隊】=【300人】→【51人】


【精鋭隊】=【200人】→【46人】


「ここに、犠牲者403名への哀悼の意を表する」



一通りの仕事が終わり、老体シバは、「ホッ」と胸を撫で下ろす。

「これでひと安心じゃな。あらかじめ遠方にいるセリエに救援を頼んどいて良かったのぉ」


珈琲を飲もうとカップに手を添えようとしたその時だった。

小さな「波紋はもん」が断続的に現れ、次第に「カタカタ」とカップが揺れ始める、「ドッドッド」と地鳴りの様な音が鳴り、次第にその音の主が接近してくるのが手に取るように伝わる。


老体シバは、いまだに気絶している護衛達を扉から遠ざけると一口珈琲を含ませ扉の方へ視線を送ると、頑丈な筈の扉は、まるで飴細工あめざいくのように足を型どる。


髪を逆立てまるで、「鬼」の形相のニッシャは、およそ人間では、聞き取れない程の凄まじい怒号を発しながら乗り込んできた。

あまりの凶悪面きょうあくづらに少しだけ、珈琲を口から洩らすと「ゴホゴホッ」と咳込んでしまった。


「どうしたニッシャ?そんな、か……」


「顔」と言う所でニッシャに話を被せられ早口でまくし立てられる。


「ミフィレンが協会ここ何処どこを探してもいねぇんだよ!お前の玩具おもちゃで探してくれねぇか!?」


老体シバはガラス張りのテーブルに吹きこぼれた茶色の液体をぬぐうと直ぐ様ミフィレンの居場所を探り画面へと写しだされる。

「ほれ、ここにおるぞ……ん?もういないのか」

そこにいた筈のニッシャは既に姿を消しており、立っていた場所には小さな炎が立つ足跡が残り、焦げ臭い香りが部屋に充満していた。

「まったく昔からそうだが、奴のせっかちは死んでも治らんな」


「やれやれ」と思ったが、いつもの事なので、あまり驚く素振りもなく珈琲を一口含むと黙々と残りの作業へ移る。



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