第9話【目的と生命】(2)


【協会内部の広場】


協会中央には、憩いの場である広場があり、天井はなく青い空が広がっていた。

回りでは皆が笑顔で争いはなくとても穏やかな空間だった。


柱にもたれ掛かる男は子守りを任されたが、今までのどの任務より難解であると頭を巡らせていた。

(任せたと言われたが、どうしたらいいのやら)


中央には噴水があり、任務を終えた者や、見学者で活気がある。


「ニッシャの犬可愛いー!!」

甲高い声でそう言うと、嬉しそうに投げたボールをキャッチしてはミフィレンの回り「グルグル」と駆け回っている。


体が炎で出来ているが、温かい程度であり燃やす力はない。

手のひらサイズと小さな体ながら、通常の犬のように利口であり主人に忠実である。


生命を造りだす程の、技量と緻密ちみつな魔力調整はニッシャならではで、加減を間違えれば広場はおろかこの都市は姿形も残さず灰となるだろう。


(犬も可愛いが、あの子も可愛いなぁ)


ノーメンは無口であるが、心の中はおしゃべりであり、元気に遊ぶミフィレンを見て感心していると柱の裏側から声がした。


「ニッシャは連れて来られたようだが、まさか、おまけ付きとはね」


それを聞きすかさず返答する。

「あぁ、だが仕方がない、あんな小さな子を置いていったりしたら可哀想だからな。」


マスクの下はどうあれ、少し照れ気味で話しているのは言うまでもない。


「なんだお前、随分と気に入ってるじゃねえか?」


男はノーメンの態度が余程珍しいのか不思議そうに返す。


(あの時不思議なことが、あったんだ。ニッシャの闘争心を煽るためあの子どもを消したんだが、知らぬ間に魔法解除マジックキャンセルされていたんだ。まぁそのお陰で助かったんだがな)と言っている気がするがそこはスルーした。

「まぁ、いい、ニッシャには気をつけろ。特にあの子関連はヤバイかもな」


そういい残し男は姿を消した。

「この子、造ってもらったの!凄いでしょ!」

ミフィレンを中心に人集ひとだかりができ、珍しい魔法を一目見ようと沢山の人が集まる。

同じ位の子ども達は、近寄り「キラキラ」した目でミフィレンとその【犬】を見つめる。


(いつの間にこんなに人が……見失ってしまう。)


ある中年の男性がミフィレンに話しかける。

「もしもし、その魔法は誰がかけたのかな?もしかして、お嬢ちゃんかな?」


犬が肩に止まりくすぐったいのか、身震いをし、優しく元気に答える。


「ううん、違うよ!!これはね。ニッシャが御守りのために造ってくれたの!!」


(ニッシャ!!!)と聞くと一部の観衆は(ざわざわ)と波風をたてるように動揺しはじめる


誰かが「ぼそり」と呟いた。「ニッシャってあの、【朱天しゅてんの炎】と呼ばれてた、あの問題の...帰ってきたのか......」


またある者は、「また、あの悪夢が起こったら大変だわ。もう協会で討伐するべきよ!!」


周りの大人達は、動揺を隠せないのか、子どもを抱き寄せ、またあるものは根も葉もない話をしている。


誰かが言った。あの子はもしかしたら、あの【ニッシャの子】ではないか?……と。

その、一言が火種となり、蜘蛛の子を散らすように広場の端へ散りはじめ、その目は好奇な目やまるで化け物を見るように表情を歪ませるものもいる。


噴水の水が規則正しく流れるなか、辺りの人々は恐れおののき子ども達は何が起こったのか理解出来ずわけもわからなく泣きわめき喧騒と悲観が包み込む、一人「ポツン」と取り残されてしまったミフィレン。


やれやれと、ノーメンが止めようとしたその時、地鳴りのような音が聞こえ、足元はぐらつき立っていられないほどの振動が人々を襲う。

警報がなり、緊急事態に備えた魔法壁マジックウォールが発動する。


【ザーザーザーザー】と聞き取りづらい音が、辺りに響く。


口早に話し、焦りが伝わってくる。

「ただいま、都周辺におかれましては危険生物の襲来が確認されました。ただちにシェルターへ入り安全を最優先にしてください。」


その言葉を聞いた民衆はパニックを起こし、我先に避難所へ走り阿鼻叫喚あびきょうかんとなる中、

足をつまずかせ、転ぶもの、血を流し怪我する者で溢れていた。


「尚、危険生物におかれましては対危険生物討伐部隊が参りますのでご安心ください。」


親とはぐれ、泣く子に近寄るミフィレンは自身と同い年であろう女の子と一緒に両親を探すことになった。



【応接室内部】


老年の男は一睨みすると、若い男は黙って出ていった

外が騒がしいが、扉が閉まると内部は閑散かんさんとしていた。


「なんで、こう次から次へと問題が起こるんだよ...!!」

苛立ちを隠せず、ミフィレンが心配になり立ち上がろうとするが、男は依然冷静であり淡々と話をする。

「まぁ、そう慌てるな。たかだかlevel-Ⅱが数体とそれを統率するⅢがたったの一体、この都の軍事力には到底及ばんよ。珈琲でも飲んで落ち着きたまえ」

外は緊急事態宣言が宣告されていたが、異様な落ち着きぶりに私は釈然としなかった。


今すぐにでも、出て「」だけでも連れて帰りたかったがそうもいかなかった。

この都にいる限り私の行動は制限され、下手な問題を起こせば即刻牢獄行き何てこともありえる。

ここに足を運んだ時点で、私の答えは「YES」以外の選択肢何てなかったのかもな。


【協会魔法壁マジックウォール前】


協会の精鋭隊延べ200人、対危険生物討伐部隊300人計500人で迎え撃つ。


「くそ!!何故いきなり、危険生物が押し寄せたんだ!」

そんなことを言うのも無理はない。

この都市シレーネは危険地区から、十数㎞も離れており安全を確保された設備、優秀な部隊がおり襲来してくるのは初なのである。

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