第2話【出会いと子育て】(2)

髪が眼にかかりそうな藍色と蒼色の瞳で私を見ると、


照れているのか無言で私の足元へ近づき抱きつき顔を埋め、上から覗くと金色の髪の毛が左右へユラユラ揺れていた。


「こいつ凄い照れ屋だな」

ニッシャは何かを思いついた

「そういや、あんた名前なんて言うんだ?あの時は体崩してて聞けなかったけど……」

少女は顔を私の方へ向け見上げるような形になる。


日射しが眩しいのか、半目の様な状態で話しかけてきた。

「レン……私、ミフィレン。あなたは?」


少女の目線まで屈み頭を右手で撫でる。

「私は、ニッシャ、よろしくな!ミフィレン!」

少女を抱き上げ、歩きだす

「私のお気に入りの場所に連れて行ってやるよ」


 そこは、滝から少し離れた場所にある

花や小さな生き物達が集まる公園の様な場所であった。

滝の水で花は彩り豊かに咲いている。

ここには猛獣達が入り、食べるようなものがないため比較的綺麗であった。

「こんな晴れている天気なら、物騒な猛獣もこないから安心だな」

 ニッシャは花を幾本摘み、器用に組み上げ花の冠をミフィレンの頭に乗せる


何も娯楽がないここでは、なにかと器用になるもんだ。


他人に物を作るなんて初めてだった。

「これは、私からのプレゼントだ。似合ってるぞミフィレン!」

 びっくりしたのか、少しだけ考えてるのか動きが止まりようやく口を動かすと


「ありがとう、嬉しい……」

ニッコリと笑顔を見せてくれた。

「あんたが笑顔だと私も元気になるよ。ありがとう!」

しばらくミフィレンと花や小さな虫達と戯れる

まるでこの世界に二人しかいないようだった。

本当の親子のように笑顔が絶えなかった。

時間はあっという間に過ぎ、陽が陰ってきた。

「暗くなると危険だからそろそろ戻ろうか!」

ミフィレンを抱き抱え足早に帰路に着く。

しばらくして私は、ミフィレンの風邪が移ったのか体調を崩してしまった。


自分がされたように、小さいながら精一杯看病をしてくれた。

「ごめんな。ミフィレン、今度は私が助けられる番だな……」


ニッシャは毛皮に包まれながら常備していた食料を口にする。

「ニッシャ、元気ない、しんぱい……」

ミフィレンはシュンと元気がなさそうだった

「大丈夫、直ぐ治るからさ」

私はミフィレンを安心させたくて寝ながら抱き寄せ頭を撫でながら安堵と安心感で眠ってしまった


 幾時間経ったかわからないが気づくとミフィレンは目の前からいなくなっていた

灯りだけがゆらゆらと私だけを照らしていた。

洞窟内、周囲を探すが見当たらない。

もう陽が暮れて、森中の猛獣が行動する時間だった

 私は考えて考えて考えた。

危険をかえりみず、花畑に向かい一直線に走ったが、思考が追い付かない。


足も手も自分の体じゃないみたいに重い気がしたがそれでも走った。


運良く猛獣達には会わなくて済み、着く手前に叫び声が聞こえ、私は声の方へ向かう


ミフィレンが怖がっているのか頭を抱え、小さくうずくまっていた

辺りには黒いモヤの様なものが見える。

暗くて気づかなかったが視線の先には何かがいた。

唸り声のような音をたてこちらを威嚇している。

〔超大型熊〕=【危険度level-Ⅱ】

(立てばゆうに12Mを越すその体躯と獰猛な性格。あらゆる魔法使いを喰らい、魔法協会から追われ森にやって来たとされる)

 熊のすぐ鼻の先にはうずくまるミフィレン

私はなにも考えずに熊の顔に向かい勢いよく蹴りを浴びせるがそれで怯まないのが、

【危険度level-Ⅱ】である。


「逃げろ!」私が、そう叫ぶと、泣いた顔を拭き取りながら走りだすが少女の小さな体は、思った以上に進まない。

熊は、何を思ったのか一直線にミフィレンの方へ突進する。

ニッシャは、ミフィレンを抱きながら避けたが一撃をもらってしまう。

間一髪の所で直撃は免れたが180cmもあるニッシャの身長で背中の9割に受けてしまった、ミフィレンを守ろうとしゃがみこみ抱き寄せた。

 背中の感覚がない。流れ出る血は、背中を伝い地面に落ちる。


意識が朦朧とするなか、この子だけは守りたいと本能が語りかけていた。

今思い返せば不思議な感覚だ

絶対大丈夫だって気がしたから。

ニッシャは言葉が通じないと分かっているが暗がりの【なにか】の方へ必死に語りかける。

「あんたは、ただ自分の子を守っただけだもんな。ごめんな、怖い思いさせちまって」

そっと少女を抱き、手が震える。

「だけどな、同じ親なら子を守るのは当然だろ?頼むよ、私は誰も傷付けたくないんだ……」


必死の説得が通じたのか、熊の荒い息は次第に、静かになり、落ち着きを取り戻したのか足元にいた小さな小熊の体を毛繕いするとゆっくりと背を向け親子2匹で歩いて行った。

 私を元気付けるために花を摘んだミフィレンがたまたま、熊の子に出会ってしまい親熊が花の匂いを別の猛獣だと勘違いし威嚇をしたみたいだった


森はゲリラ的な雨が降るが先程までの喧騒は何だったのか、全ては雨で洗い流され、猛獣達はそれぞれの住み処に戻ったようだ。

泣く少女を抱くニッシャ、雨で涙が流れより一層強く抱き締める。

その叫びは、雨でかき消され力なく頭を撫でながら。

「大丈夫だったか?私はもう平気だからもう泣くな。フフフ、優しいなお前って。心配するな、もう風邪なんてどっかいっちゃったよ。たとえ何処にいてもなにがあっても必ず私が守ってやるからな……」

ニッシャはそう言ってミフィレンが持つ小さな一輪の花を持つと、笑いながら抱き上げ自分達の帰る家へと向かう。

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