第30話 潮騒の入り江

「いや~綺麗な夕日だ」


「そうですね~」


 2人はネクルメから数キロ離れた砂浜へとやって来ていた。

 マスターの店で会った情報屋から得た情報で町の片隅に住む元船乗りの老人――カイレンのもとを訪れピーカン島へ行く方法、そして船を出してもらう約束を取り付けた。

 その後ピーカン島に行くために必要なアイテムを入手するためこの場所を目指したが途中道に迷ってしまいたどり着いた時にはこんな時間になってしまっていた。


「どうするですか、ソラ。このまま進むですか?」


 この世界の魔物はどこぞのゲームのように夜になると凶暴になるというような特性が有るわけではない。だが辺りが暗くなれば見えづらくなり戦いが不利になるのは言うまでも無い。


「仕方ない、今日はここで野宿だな」


「了解なのです」


ーーーーーーーー

翌朝


「ここ......みたいだな」


 ソラ達は野宿をした場所から程近い海へとせり出す崖の下の所に来ていた。

 そこにはカイレンから聞いた通りダンジョン――潮騒の入り江が存在していた。


「フィン、頼む」


「ハイなのです。

 我が魔力を糧として光よ顕現せよ。 フラッシュ!!」


 フィンが魔法を唱えるとその手の平から光球が現れソラ達の頭上に浮かび上がり、周囲を照らし出す。


「やっぱり魔法屋で買っといて正解だったな」


「よく見えるですよ」


「とはいえ敵には見つかりやすいからしっかり警戒しないと」


「頑張るですよ!」


 早く暗視系のスキルが欲しいけどこの職で覚えれるかどうかが問題だな。


 そんなことを考えながらも探索をしていくソラ。途中、ネズミ型やコウモリ型、ヘビ型等の魔物に遭遇するが全てを危なげなく撃破していった。

 そして最奥と思われる部屋の前へとたどり着く。


「フィン、明るさを落としてくれ」


 そう言われフィンは頭上の光球の明るさを落とす。


「何かいるですか?」


「あぁ、多分あれがここのボスだ」


 その部屋の中心には巨大な蟹の魔物――バウワイクラブが眠っていた。


「蟹の魔物か。さて、どう倒すか......」


「眠っている間に不意打ちじゃダメなのですか?」


「それは確定だけど問題はそこじゃないよ」


 そう問題はそこではない。その言葉に首をかしげるフィンにソラが説明する。


「問題はあの甲羅と殻だ」


 それは甲殻類が持つ自分を守るための鎧であり魔物化した場合その強度は言わずもがなといった具合だ。


「こういう時は甲羅や殻の隙間を狙うのが定石なんだけどこの暗さじゃ狙いづらいんだよ」


「じゃあフラッシュたくさん唱えるですか?」


「それも有りか......でも一番は甲羅ごとぶった切るのが良いんだけど今の力でそこまで出来るかどうか......」


「フィンはまだ魔力しか上げられないのですよ」


「気にすんなって」


 落ち込むフィンの頭をなで、慰めるソラ。


「それはそれで使い道が――」


 そこまで言いかけて何かを思いつき急に黙るソラ。


「ソラ? 急にどうしたです?」


「......あれをこうして、こうすれば......」


「ソラ?」


「いっちょやってみっか」


ーーーーーーーー


 ソラ達はバウワイクラブを起こさないように壁際を進み後ろを取る。


「よし、フィン頼む」


「ハイなのです。

 我が魔力を糧として彼の者の魔の力を強化せよ。 マジックアップ」


 フィンの唱えた魔法によりソラの魔法が強化される。そして続けてソラが詠唱を始める。


「我が魔力を糧として炎よ宿れ。 エンチャントフレイム


 その魔法によりソラの持つ武器に炎が纏われ始める。


「ハァァァァ!」


 しかし今回はそこで終わらない。ソラはその炎をコントロールし外側ではなくへと圧縮させる。次第に刀身が根本から赤く変わっていく。


「エンチャントフレイム・型式紅蓮ver白虎刀ヴァイティアル


 刀身全てが赤く変わると同時にソラは駆け出す。同時にフィンがフラッシュを唱える。近づく気配に気付きバウワイクラブが目を覚ますが真後ろから迫る攻撃には間に合わない。


「いっけぇぇぇぇ!!」


 飛び上がり右足の付け根付近めがけて刀を振り下ろすソラ。


「ガァァァァ!!!」


 その刀は固い殻をものともせず切断していく。だが敵も黙って見てはいない。

 3本目の足が切断された所で体を動かし刀の起動から逸れることで残りの2本を守り、すぐさまその場で左の鋏でソラを襲う。


「おま、マジか!?」


 鋏の間に刀を入れ切られるのは防ぐがその勢いで壁に激突する。


「痛ッ! あぁもう、左右以外にも動けんのかよ! ってやっば――」


 バウワイクラブは追撃として体当たりを仕掛ける。間一髪、それを躱したソラはフィンの近くへと移動する。


「フィン、作戦通りに!」


「ハイなのです!」


 バウワイクラブがソラへと近づいたその時――


「フルパワーーー! なのですよ!」


 ソラの後方へと移動していた光球が目も眩むほどの光を放つ。

 予想外の攻撃に一時的に目が見えなくなるバウワイクラブ。

 あらかじめ目をつむっていたソラはその隙だらけとなったバウワイクラブへと駆け出す。


「まずは残りの2本!!」


 右足を全て切断、続けて――


「左!」


 左足も全てを切断し移動と鋏による攻撃を封じる。そして止めに――


「飛剣・紅!!」


 赤い三日月型の斬撃を放ちその胴体を両断した。

 LEVEL-UP 33→34


「上手く行ったな」


「やったのですよ」


 バウワイクラブの体が霧散していくのを見届けながらハイタッチをする二人。


「さ~て、お宝拝見と行きますか」


 その時、辺りを照らしていた光球が消滅する。


「......フィン?」


 ソラがフィンの方をジト目で見る。もっとも、真っ暗でお互い何も見えないが......


「えへへ、魔力切れなのですよ」


「ま、あんだけ使えばしゃぁないか......」


 ソラは嘆息しそう言うと少し考えてから白虎刀を出現させる。


「何してるですか?」


「我が魔力を糧として炎よ宿れ。 エンチャントフレイム


 白虎刀を炎が包み込みその炎によって辺りが見えるようになる。


「こんな使い方も出来たのですね」


「戦闘も終わったから、だけどな」


 こんなことなら松明とかランタン買っとけばよかった。そう思いながら辺りを見回し宝箱を見つけ歩み寄る。


「開けるぞ」


「早くするですよ」


 ソラが宝箱の開き中を覗き込むとそこには、


「カイレンさんの言った通りだったな」


海竜の鈴

 海の底に棲むと言われる海竜の鱗から出来ている鈴。

 その音色は海竜の存在感を発生させ大抵の魔物はその場から逃げ出す。

 耐久性に乏しいため数回で壊れてしまう。


「これでピーカン島に行けるですね」


「おう!」


 ソラが海竜の鈴をしまうと宝箱の後方から光が差し込み始める。


「なんで光が?」


 光の差す方をよく見ると先程まで壁だった場所に階段が出来ておりその先から差しているようだった。


「出口......なのか?」


「行ってみれば分かるですよ」


 そう言ってフィンが階段の上へと飛んでいく。


「ちょっと待てよ」


 それを追いソラも階段を上っていく。


「ここは......」


 ソラ達が出てきた場所はダンジョン――潮騒の入り江の入口のある崖の上だった。


「良い眺めなのですよ」


「確かに」


 そこからは広大な海を一望することが出来た。


「それじゃ、ここでしばらく休憩していくか」


「ジュース~ジュース~オレンジジュース~」


 ソラは冒険者ブックを取り出しながら念のため周囲を見渡し警戒をすると違和感を感じる。しかしその正体はすぐに判明する。


 階段が無くなってる......


 そう、ほんの数分前自分達が通ったはずのダンジョンの出口であった階段が跡形もなく消え去り、何の変哲もない周りと同じ地面となっていた。


「ソ~ラ~、ジュース!」


「あ、あぁ、悪い悪い」


 ......よくよく考えればおかしな所は他にも有るな。

 内部からは絶対に出てこない魔物。

 倒してももう一度入り直せば復活するボス。

 それと同じように補充されている宝箱の中身。

 自然発生してんのかと思ってたけどもしかすると女神の奴らが何かしてんのか? だとしたら何故?


「難しい顔してどうしたですか?」


 ふいにジュースを飲んでいたフィンが問いかけてくる。


「ちょっと考え事をな......」


「悩みがあるならフィンが相談に乗るですよ」


 両手を腰に当て胸を張りながらそう言ったフィン。


「......ふっ、いや~果汁の比率下げても案外気付かれないもんだな~と思ってさ」


「ふえっ!?」


「なっはっはっはっ!」


 考えたって分からないことなら悩むだけ無駄ってもんだよな。


「いつからですか! いつから変えてたですか!」


「鍛冶屋にお金ほとんど持っていかれた時から」


「全然......気付かなかったのです」


「なっはっはっはっ」


「次は絶対騙されないのですよ!」


 そう言いながらもジュースを飲み干すフィンであった。

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