第28話 新武器&クラスチェンジ
5日後
魔法の習得は2日間で終了した。ソラはもっとかかると思っていたので驚いたがナカノ曰く、
「魔力の放出だけならこんなもの、1日でも充分なぐらいだ」
ということらしい。
ちなみにその時の感覚はフィンの言う通りグーとしてバァーンという感じだったとか......
その後、さらに3日間かけてお金を稼いだソラは武器の受け取りのために工房へとやって来ていた。
「さて、どんなのが出来てるか......」
「可愛いのがいいのです」
「嫌だよ!」
そんなことを話しながら中へと入っていく。
「いらっしゃいませ~」
工房とはいえ販売も行っているため手前の建物は一般的な武具屋になっており、作業場は裏手にあるもう1つの建物の方である。
「どもっす」
「おお、兄ちゃん達か。来たってことは用意できたってことだな?」
「もちろんですよ、そちらこそ出来てるんですよね?」
「おうよ、昨日完成したところさ。見たいか?」
彼は鍛冶屋京極家の父、
「見たいです!」
「そうだろう、そうだろう。じゃあ先に貰うもん貰っとこうか」
最高の営業スマイルで手を差し出す剛。
「分かりましたよ」
ソラは財布からお金を取り出し残っていた金額を支払う。
「前回も思ったが、兄ちゃん冒険者なのに財布で現金持ち歩いてんのか?」
「ええ、まぁ。現金が見えないと無駄使いしそうで」
「なるほどな、確かにそういう奴もちらほらいたな」
冒険者ブックの持つ機能の1つにお店にある魔方陣にかざすことで支払い、収納が出来ると言うものがある。1種の電子マネーのようなものだ。
多くの者はこの機能を利用しているがソラの言うような理由等で使わない者も一定数存在する。
尤もソラが使わないのはピンク色なのを見られたくないからであるが......
「ピッタリだな。よしじゃあ行ってこい」
「行くってどこに?」
「工房だよ。オーダーメイド品は店には並べられないからな、そっちで保管してんだ。」
ーーーーーーーー
鉄を叩く甲高い音が外まで響く工房。窓から中を覗くと老人と少年が鍛練をしている最中だった。
「失礼します」
邪魔をしないようにとそっと扉を開け中を覗き込む。その瞬間――
「ひっ!?」
一際大きな音と共に折れた刃先がソラの顔の横に突き刺さる。
その声で2人に気付いた少年が駆け寄り、
「すいません! 大丈夫でしたか?」
「か、間一髪......」
「ギリギリなのですよ」
「良かったです。ちょっと難しい物を作ってたところで、本当にすいません」
そう言いながら深々と頭を下げる少年は京極家の一人息子、
「くぁ~!! ま~た失敗かぁ~!!」
折れた部分を見ながらそう言ったのは京極家の祖父、
「因みにどんなの作ってんの?」
「えっとですね、所謂長刀なんですが長さが2.5mぐらい欲しいそうでして......」
「長刀って確か1m以上だっけ?」
「だいたい1~2mぐらいなのですよ」
「はい。ですので結構長めなんですよ。普通は自分と同じぐらいにしておくんですけど、長いのが良いんだ! 身の丈以上じゃないとダメなんだ! って言っていたそうです」
「なるほどねぇ。身の丈以上の長刀かぁ......」
身の丈以上......セフ○ロス? いや、そんなわけ無いか。
「ん? そいつらぁ誰だ、シュウ?」
「今回の
シュウがそう紹介するがあまり興味が無いようで、
「そうか、物はそこに置いてあるから後は任せたぞ。ちょっくらタバコふかしてくらぁ」
そう言うとさっさと出て行ってしまった。
「すいません。おじ......親方は依頼主にはあまり興味が無くていつもあんな感じ何です」
「良いって、それでも仕事は一級品何だろ?」
「はい! 世界一です!」
「だったら何にも問題ねぇよ。それに漫画だとそう言う人ほど腕が良いしな」
「確かにそうなのです」
「漫画?」
「こっちの話だから、気にすんな。腕が良いってことだよ」
「ですです」
「はぁ......?」
「それで、俺の頼んだ剣はどれ? さっきこの辺って言ってたけど」
ソラは工房内の完成品置き場であろう場所の中の剣が多く置いてある場所に向かいながら尋ねた。
「ソラさんのはオーダー品なのでその壁に掛けてある虎のレリーフが掘られたものです」
言われて壁を見るといくつかの作品が飾られており、少し右側に言われた通りの片手剣が目に入る。
握りの部分は白と黒の斜めのしましま。鍔の中心には表裏両方に白虎の顔のレリーフがあり、そこから70cm程度の両刃の剣身が伸びる。
「銘は
ソラは白虎刀を手に取り少し移動すると軽く素振りをして――
「連続剣四連・八卦」
スキル――縦、横、袈裟、逆袈裟の四連斬り――を発動する。
「うん、良いね」
シュウが拍手をしながらソラに近づき、
「すごいですね! 僕こんなに近くでスキルを見たの始めてです!」
「こんなので良いならいつでも見せてやるよ」
そう言ってシュウの頭を撫でるソラ。
「ありがとうございます。あっそうだ、これは父からなのですがどうされますか?」
シュウは先程とは別の場所から持ってきたものをソラに手渡す。
「これは......鞘?」
それは片側が白、逆が黒で出来ている鞘だった。
「はい、父は刀剣等よりこういった盾や鞘等を造るのが得意なんです。冒険者なら必要無いかも知れないけど一応って造ってたんです」
「へぇ、あのおっさんがねぇ」
ソラは試しに納刀をする。当然ではあるがピッタリと納まる白虎刀。
「じゃあ、せっかくだから貰っとくか」
「じゃあお題はこちらになります」
ポケットから伝票を取り出すシュウ。
「え......別料金なの?」
「はい! 注文にはありませんでしたから!」
「......かえ――」
「返品不可です」
ソラは鞘と伝票を交互に見ながら暫し葛藤する。
「さあ、どうされますか?」
「どうするですか?」
「......あぁ~くそっ! 分かったよ! 買った!」
「毎度あり~!!」
こうしてまたもや財布がすっからかんになってしまったのであった......
ーーーーーーーー
2日後
その後お金を稼ぎながら次の旅の準備を整えたソラ達は最後の準備を行うため冒険者ギルドへとやって来ていた。
「すいません、ヨルさん居ますか?」
「あら、ソラさんじゃない。お久し振り」
「お久し振りです」
「元気そうで良かったわ。呼んでくるからちょっと待っててね」
「はい、ありがとうございます」
冒険者ギルドに登録して間もない初心者には担当者が付き、アドバイスやサポートを貰いながら冒険に慣れていく。そしてソラの担当者が、
「フィンちゃーん、ソラさーん、お久し振りでーす」
「わはっ、お久し振りなのです」
「お久し振りです」
このフィンに抱きついた水色の髪をアップにまとめ、パッチリとした瞳が特徴的な彼女――ヨルである。
「はぁ~かわいい~かわいいよ~」
「くすぐったいですよ~」
回りの目も気にせずフィンに頬擦りをするヨル。フィンはまんざらでもないようだ。
「相変わらず可愛いものには目がないみたいっすね」
「人生の活力だもの!!」
「そ......そっすか」
目を爛々と輝かせながら答えるヨル。その勢いに何も言えなくなるソラさんであった。
ーーーーーーーー
10分後
「はぁ......確かな満足......」
ようやくヨルの頬擦りが終わり解放されたフィンはフラフラになりながらソラの方へと飛んでいく。
「ふみゅ......」
「おつかれ」
「しばらく......休むです」
「お、おう」
ソラはフィンを受け止め抱き抱える。頭に乗せないのはさすがに同情していたからであろう。
「それで、今日はどうされたんですか?」
ヨルはさっきまでとは打って変わって真面目に質問を行う。
「切り替え早ええな......」
思わずツッコミを入れるソラ。だがヨルにとっては当たり前の事で特に気にしていない様だ。
「ソラさん?」
「ああ、すいません。今日はクラスチェンジをしに来ました」
「――っ! それじゃあ、」
「はい、30になりました」
「おめでとうございます! 何になるかはもう決めてらっしゃるんですか? まだでしたら相談に乗りますけど」
「騎士にしようと思います」
「変えるつもりは?」
「ありませんよ!」
選択肢は他に狩人や盗賊等があったがステータスに偏りが出るものが多くバランス良く上がるのが騎士だったのが理由だ。......あと騎士って名前がかっこいいじゃん?
「分かりました、それじゃあこちらへ」
ーーーーーーーー
3人はギルド内にある儀式用の部屋に移動してきていた。
床とその中心にある円柱型の台座の上にはそれぞれに五芒星が描かれていた。
「台座に冒険者ブックを乗せたら儀式が始まります。心の準備はいいですか?」
「はい」
とそう答えソラは台座の前に立ち冒険者ブックを台座の上に出現させる。すると、みるみるうちに床の、次に台座の五芒星、そしてソラの冒険者ブックが輝き始めた。
思わず「おぉ」と声を洩らすソラ。
続けて冒険者ブックがソラのステータスページを開き内容が変化する。
左に戦士、右にいくつかの職業が並ぶ。その種類はソラも見覚えがあり、
「それが今ソラさんが成ることの出来る職業なので成りたいものを選んでください」
後ろからヨルによってその考えが肯定される。
ソラは迷うこと無く決めていた騎士を選択する。次の瞬間ソラの体までもが光に包まれる。
しばらくして徐々に光が収まり始め先程とは逆の順番に消えていった。
「これで終わりか?」
「はい、クラスチェンジ成功です」
「よかったですね、ソラ」
「あ、あぁ......そうだな」
体が大きくなったり装備が変わったりといった変化を期待していたソラは少し残念といった具合だ。
ーーーーーーーー
冒険者ギルド前
「次の目的地はネクルメでしたっけ?」
「はい、そこの港からピーカン島に向かう予定です」
「船旅なのですよ」
「え......本当にピーカン島、ですか?」
ヨルは少し困惑した面持ちで聞き返す。
「はい、そうですけど......何かありましたか?」
ヨルの表情から不穏な気配を感じたソラはそう尋ねる。
「確か今の時期はピーカン島行きの船は無かったような......」
「え......ええええぇぇぇぇ!!」
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