第27話 魔法

惑わしの森の前 1度目の退却直後


「ハァ......ハァ......とりあえず安全の確保を......」


 冒険者ブックからテントを取り出し障壁を展開する。


「これでよし。次は」


 ソラはテントの中に入り毛布を折り畳んでそこにフィンをそっと降ろした。

 そして冒険者ブックから回復液(普)を取り出し布に含ませ口に当てて少しずつ飲ませていく。

 徐々にフィンの顔色が良くなっていく。それを見届けてソラはテントから出てイス――といっても丸太のスツールだが――を取り出して腰かけた。


「ふぅ......」


 妖精の体については知らんけどおそらくこれで大丈夫だろ......

 大きさと羽以外は人間と似ていることからそう判断したソラは、退却時に倒した分の成果を確認する。


「......まじか......ヒールおぼえてんじゃねぇか」


 女神が言っていた回復魔法、それをついにレベルアップによって習得していた。

 ソラはすぐにテントの中へと入りフィンの隣に行き詠唱を始めた。


「え~っと――我が魔力を糧としてかの者を癒せ、ヒール!」


 冒険者ブックで確認しながら詠唱を完了させるが、魔法は発動しない。


「なんでだ――とにかくもう一回。

 我が魔力を糧としてかの者を癒せ、ヒール」


 しかし今回も発動はしなかった。


「なぜだ? なぜ発動しない......」


 フィンも同じ文言で発動させていたから詠唱に間違いはないはず。ならどうして......


「はぁ......わかんね。フィンが起きたら聞いてみるか......とにかくそれまではレベリングだな」 

ーーーーーーーー

次の日 惑わしの森挑戦前


「さぁ、張り切って行くですよ!

 昨日の仕返しなのです!」


 シュッシュッとシャドーを行うフィン。


「だな、今度はフルボッコにしてやるぜ!

 っとそうだ、その前にフィン、魔法ってどうやって使うんだ?」


「急にどうしたですか?」


「昨日レベルアップした時にヒール覚えたんだけど使おうとしても発動しなかったんだよ」


「えぇ!?」


「詠唱も間違えてなかったのに......まじで訳わかんねぇ」


「......です」


「ん?」


「教えないのです!」


 何が癪に障ったのかフィンは勃然とし顔を背けた。


「おいおい、急になんだよ、教えてくれよ」


「嫌なのです。ソラにはヒールは使わせないのです」


「はぁ?――あ、お前まさか、自分の出番が無くなるとか思ってんのか」


 図星だったのかビクッと体が動いてしまうフィン。


「そ......そそ、そんなこと、な、ないのでですよ。あ、あははは~」


 冷や汗をかき声を震わせながら答えるフィン。その分かりやすすぎる同様に嘆息するソラ。


「教えないとイタズラするぞ?」


「そんな脅しには乗らないのですよ」


「そうか、そうか」


 ソラは向こうを向いたままのフィンに近づき、背後から腰や脇を思いっきりくすぐり始めた。


「諦めるなら早い方がいいんじゃないかな~」


「こ......こんなの、平気な......なのですよ」


 と言いつつも限界が近いのか小刻みに震え始めていた。

 しかしソラは手を緩めることなくくすぐり続けた。

 やがて、


「――もう限界なのです!!

 参ったなのです!」


 我慢の限界を向かえソラの手から逃れようと暴れ始めた。


「ん、何か言ったか?」


 だがソラも負けじと手を休めない。


「ちょ、やめ......やめるです。おし......教える......ですから......」


 鼻歌を歌いながら続けるソラ。


「もう......無理......や、止めるですよ!!」


「おっ!」


 フィンは思い切り羽ばたいて何とかソラの手を振り切り涙目になりながらソラの頭をぽかぽかと叩き始めた。

 尤も、全く痛くないのでソラは平然としているが......


「分かった、分かった。だから――」


 頭を叩き続けるフィンを捕まえるソラ。


「魔法の使い方教えてくれよ、な?」


「む~......仕方ないのです」


 まだ怒りは収まっていないようだがそこはオレンジジュースで何とかしようと誓うソラであった。


「魔法を使うにはですね」


「ふんふん」


「詠唱をする時にですね」


「詠唱の時に?」


「グーっと力を込めてバァーンってやるのですよ」


「は?...... すまん、もう一回言ってくれ」


「も~聞いてなかったですか?

 こうグーっとしてバァーンなのですよ」


 今度は言葉に合わせ体にぐぐっと力を込めてから両手足を前に突き出した。


「分かったらソラもやってみるですよ。――ソラ?」


「わ......分っかるかーーーい!!」


 そしてまた、くすぐり地獄が始まったそうな......

ーーーーーーーー

学校


「と言うわけで、お願いします!」


「なのです」


「何でだよ! 今の話の流れならレイラかアカリに教わるところだろ!」


「俺もそのつもりでしたよ? でもアカリさんはフィンと大差無かったんですよ。

 でレイラさんに教わろうとしたら『せっかくだし専門家に習った方がいいんじゃない?』って言われて、なるほど! という事で来ました」


 そう2人は今学校の三階、教員用居住区のナカノの部屋の前にいる。ちょうど今学校にいるからと促され頼みに来た形だ。


「なるほど! じゃないよ! ったく専門家って言えば確かにそうだが、ようはあいつらあたいに押し付けやがっただけじゃないか!」


「でもアカリさんは教えられないんだから仕方ないんじゃ......」


「あ? あいつは魔法発動のプロセスなら理解してるよ」


「え、でも――」


「面倒だから適当なこと言ったんだろうよ。お前もあいつの性格は分かるだろ」


「あ~」


 ソラも1ヶ月以上一緒にいたのでその言葉の説得力は甚大だった。


「こっちに放り投げたってことはあいつらもう出掛けた後か......。帰ってきたらただじゃおかねぇ!」


 パンッ!と、右の拳を左手に当てながらナカノがそう呟く。そして――


「ソラ!!」


「はい!!」


 その語気の強さに思わず気を付けをして答えるソラ。


「とりあえず移動するぞ」


「......教えてもらえるんですか?」


「あ? それがどうした? 悪いのは押し付けたあいつらでお前じゃないだろ」


 てっきり断られるものと思っていたソラはナカノのその言葉にしばし唖然とする。


「なにボケーっとしてんだ、行くぞ」


「――あ、はい」


ーーーーーーーー


「まずは魔法発動のプロセスからだ」


 ソラ達は見習い魔法使い用の教室に移動して来ていた。


「よろしくお願いします」


「なのです」


 2人は席についた状態――フィンはソラの頭の上だが――でお辞儀をする。


「まず体内に存在する魔力、これに発動したい魔法の術式を付与する。そしてその付与された魔力を体外に放出して空間に存在する魔源に作用させる事で魔法が発動する。

 イメージとしては術式という命令を、魔力という指揮官が魔源という兵士に下すってところだな。

 お前が発動出来なかったのは魔力の放出が出来ていなかったからってところか」


「放出もなにも術式の時点で分からないんですが......」


「だろうな。だがお前は魔法使いじゃない、そこは気にしなくていい」


「はい?」


「会得した魔法は対応する詩を詠唱することで冒険者ブックから直接術式が付与されるようになってるからな」


「なるほど......」


「ちなみに魔法使いは自分で付与出来るようになることが見習い卒業の条件だけどな。

 とにかく理解できたらあとはとにかく実践だ」


「ちょっと待って下さい、まだ分からないことが」


「何処だ?」


「魔源ってなんですか?」


「魔源ってのは書いて字のごとく魔力の源だ。空気みたいにありとあらゆる場所に存在している。

 あたいらはそれを呼吸や飲食で体内に取り込み消費した魔力を回復させてんだ。

 ちなみに許容範囲を超えて魔源を取り込み過ぎると魔力が暴走しちまう、その結果が魔物達だ」


「でもそれだと魔法使えない人とかはすぐに許容範囲いっぱいになるんじゃないですか?」


「そもそもこの世界の生物は生命活動の維持に魔源を使用してんだ。だから生きているだけである程度は消費されるようになってる。ちなみにその維持に使われずに残った分が魔力として魔法等に利用できるわけだ。

 そして余分な魔源は......あー生命活動の一部で自然と排出されるから気にするな」


「――? 今、何で言い淀んだんですか?」


「いいから気にするなって言ってんだろ!」


 語気を強めながら言われそれ以上聞きづらくなってしまうソラ。だが答えは以外なところからもたらされた。


「ソラ、ソラ」


「ん? どうした、フィン?」


 フィンがソラの横に移動しゴニョゴニョと耳打ちをする。


「......あ~、うんそういうことね」


「そういうことなのですよ」


 そう生命活動の一部、つまりう○こ等の排泄行為である。



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