第26話 レイラ&アル

「ではでは~改めてま~シテ。

 ワタ~シの名前は星見鈴薇ほしみれいら18歳!

 ピッチピチのFlowerのJK3!

 ヨロシクなので~す」


 今度は英語でもきちんとした日本語でもなく、日本語がまだ覚えられていない外国人のような喋りで自己紹介を始めるレイラ。


「フィンはフィンなのです! よろしくなのです!」


「こちらこそですデス~」


「なのなのです~」


「ですですです?」


「ですですです~」


「「......」」


「「で~す~で~す~で~す~で~す~」」


 2人は両手を取り合い上下に動かしながらぐるぐると回り始めた。


「えぇ......」


 語尾が同じだったからか、或いは他の理由が有ったのか、とにもかくにもフィンとレイラはあっという間に仲良くなっていた。

 ソラは少し呆気に取られたがすぐに正気に戻り窓枠の方に移動していた妖精――アルに話しかける。


「谷本空です、よろしく」


 そう言って握手をしようと手を出すがアルはそれをスルーしアカリの後ろへと回り込みソラを覗き見た。

 その様子があまりに滑稽でアカリが吹き出しそれにソラがツッコミを入れる。というのは一月前までの見慣れた光景である。


「この子を責めちゃダメよ、悪いのはソラなんだから」


「なんでやねん!」


「アルは人見知りなのよ。だから初対面のソラに話しかけられて思わず私の後ろに逃げちゃったのよ」


「はぁ?」


「ね?」


「ご......ごめんなさい」


 アカリに話をふられ先程の対応を謝罪する。


「まじかよ......」


「ほら、これはこう見えて隣に美女が寝てても手を出せないへたれだから大丈夫よ」


「おぉーーい!! ありもしないことを吹き込むんじゃねぇよ!!」


「へたれは事実でしょ」


「何処がだよ!」


「えっ、無意識だったの......」


「もういいよ!!」


 ソラは相変わらずなアカリに呆れ未だに謎の動きをしているフィン達の方へと向き直った。


「とまぁこんな感じでいじられることが多いソラ君です」


「おい!」


「でも悪い奴じゃないから仲良くしてあげてね」


 何だかんだで最後はちゃんと紹介するアカリ。もっとも、本人には聞こえないように小声ではあったが......


「は、はい。頑張ります!」


 フンスッ!という感じで気合いを入れるアルにアカリは微笑みを返した。


「そろそろいいっすか?」


 ソラはいまだに謎の動きをしていた2人に問いかけた。


「しかたな~いデスね~」


「な、なのです~」


 どうやらフィンだけは目を回していたようでふらふらとソラの方へと飛んで行く。ソラはため息を一つついてそんなフィンを受け止め頭に乗せる。


「wow~、それ、楽しそうなのデ~ス」


 そう言うとアルの方へと向かい両手で掴む。突然だったためアルは戸惑うがレイラはお構い無くといった感じで頭の上に乗せる。


「えっ、ちょっ、どうしたの、レイラ!?」


 こうしてレイラの頭の上に正座をするアル、という何とも面白い絵面が完成した。

 因みにアカリはすでに腹を抱えて笑い、ソラは吹き出したいのを我慢しプルプルと震えていた。


「これでヨ~シデス」


「えっ、なに、何が良しなの、レイラ!?」


「さてさてソラさん。どうされましたでーすか?何か聞きたいことでも有りますデスか?」


 戸惑うアルを無視して話を続けようとするレイラ。ソラは深呼吸をして笑いを押さえ込み質問を始めた。


「とりあえずレイラさんは日本人で間違いないんですよね?」


「イエース! 但しおばあちゃんがアメリカ人のクォーターなのデ~ス。

 ちな~みに、英語は小学校の時に1年ほどアメ~リカにいたのでその時に少し覚えまシタ」


「じゃあなんでそんなしゃべり方......」


「わざとデ~ス、見た目がこれなのでアニメのキャラに憧れてやってマ~ス」


 予想外の事実にツッコミを入れたくなるが話を脱線させないように心の中に押さえ込む。


「じゃあ普通に話せるんですね?

 今は普通にお願いします」


「仕方ないですね」


「そういえば何で最初英語だったんですか?

 1年しか居なかったのなら日本語の方が得意なんじゃ......」


「あっソラさんはリアクションが面白いと聞いていたので最初は英語で話しかけました」


「おいこら、まじでふざけんなよ!」


 ソラが怒声を出すが未だに笑い転げているアカリには届かない。


「~~~っ!!」


 ソラは思わず怒声を出したがこの状態のアカリには何を言っても無駄なことを思い出しひとまず我慢し、少し怒気混じりの声で質問を続ける。


「で、レイラさんは何処まで進んでるんですか?」


「私は第3の試練までクリアしましたよ」


「第3までですか」


「はい。なので今は第4に向けてレベルや熟練度を上げたりの準備期間中です」


 その答えを聞き少しの間思案したソラは質問を続ける。


「第2、第3の試練の内容教えてもらえますか?」


 現状、ソラにとって同じ境遇で自分よりも先に進んでいるレイラは情報源としてはこれ以上無いほどの人材であった。


「それは......できない相談ですね」


「どうして!?」


「どうして......ってソラさんも知ってるでしょ?」


 だがソラは本当に心当りがなくついには首を傾げる。


「アカリさんから聞いてないんですか?

 まだクリアしていない試練についての情報を教えると寿命、つまりクリアまでの制限時間が減るって」


「なっ!?

 なんっっっじゃそれ!!」


 初めて聞く生死にも関わる情報、それも本来なら既に知っていたはずの事とあってソラの驚きは今までで一番だ。


「あっごめん、忘れてた」


 そしていつの間にか会話を聞いていたアカリが苦笑しながら謝罪する。

 ソラはおもむろに歩き出し校庭に植えてある木の方へと向かい、


「ソ、ソラ?」


「ソラさん?」


 正拳突き一撃でへし折った。

 大きな音を上げて倒れる木を背にソラは2人の方に戻ってきて、


「それで、なんでしたっけ?

 そうそう、クリアしていない試練についての情報は教えてはいけないってどういうことですか?」


 晴れやかな笑顔でアカリに尋ねた。


「あ、あの......えっとね、楽したり出来ないようにするための措置なんだって。

 内容やクリアの方法を教えあったら試練の意味が無くなっちゃうから」


「それもそうか......で、制限時間云々ってのは?」


「もしも試練の内容を話そうとするとまず視界に警告が出るの。それでも話してしまった場合ペナルティとして寿命――つまりこの世界にいられる制限時間が半分削られるの。残り時間からではなく、全体のね。

 だからあなたの場合は2年の半分、1年分削られることになるわ。たとえ半年経っていようが1年経っていようがね」


「ということは俺の場合1年経ってからやらかすと――」


「その時点で終了、死亡が確定するわ」


 ソラは新しく判明した情報を理解し、そしてその重要さになぜ忘れられていたのかと呆れ大きくため息をついた。そして――


「1ついいですか?」


「何?」


「クリアしていない試練、ということはクリアしていない同士なら情報交換は可能何ですか?」


「それなら大丈夫よ。まぁ試練が始まるまでに手に入る情報何てほとんど無いけど」


 ソラは少しの沈黙の後、嘆息しなるほどと一言呟くと、


「で? 他にいい忘れた情報は?」


 と怒気の籠った声で問い詰める。


「ないない、他にはもう無いわよ」


 アカリは否定するがソラは信用できず懐疑的な目でアカリを見る。


「......多分......」


 本人に自覚がない以上、これ以上の問答は無駄と判断し、ソラはひときわ大きなため息をして気持ちを切り替える。


「ため息はHappinessがescapeするのであまりしない方がいいデースね」


「しゃべり戻ってますよ」


「あ、ごめんごめん、つい」


「それで、まだ聞きたいことはあるかしら?」


 とレイラに問われソラは再び考え始めた。もしも先輩と呼べる立場の人達に会った場合先々の試練の内容を聞くということしか考えていなかったため他の質問が出てこないのだ。


「無いのなら私はまた鍛練に戻るけど?」


「ちょっ、ちょっと待って下さい! 絶対何かあったはずなんです!」


 焦り始めるがやはり出てこず視線をあちこちに向けているとフィンが目に入り、


「あっ、あった。そうだよ、これ聞かないとダメじゃん俺......」


 聞きたいことを思い出し、なぜすぐに出てこなかったのかと自己嫌悪に陥るソラ。もっともこの質問はもともとレイラではなくアカリにしようと思っていた物なのですぐに出てこなくても仕方ないのではあるが......


「それで、何が聞きたかったのかしら?」


 改めて問うレイラにソラは答える。


「魔法ってどうやって使うんですか?」

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