第23話 白虎
「くそっ!あのなりで2足歩行とかふざけんなよ!!」
ソラは破壊された建物の陰に隠れながら悪態をついていた。
本来の姿を現した白地は虎のような見た目ではありながら2本の後ろ足で立ち上がり戦っている。
もちろんレックスとして戦った時よりも数段強くなっており、あの時より強くなっているから大丈夫だろうという考えは早々に打ち砕かれていた。
「隠れるのはかまわないが戦闘が始まった以上逃げられないぞ。
私に勝つか負けて死ぬかどちらかだ!」
白地の爪がソラの隠れている場所を破壊し土煙が上がる。
「言ってくれるじゃねぇか!」
それをかわしていたソラは土煙に紛れて接近し足を攻撃しすぐに距離を取る。
一撃だとしても当たりどころが悪ければ即死クラスのダメージになる。そう判断した故にヒット&アウェイ、一撃離脱という形で少しずつ攻撃している。
「自分よりも大きなものと戦う時はまずその体を支える足を崩す。
定石通りだが良い手だよ」
「チッ、バレバレかよ」
まぁ隠すつもりもないけど......
ソラは再び建物や瓦礫の裏を通り白地の目から逃れ攻撃の隙を伺う。
「男なら正面から正々堂々殺ろうよ」
「他人を操って戦わせとった奴に言われた無いわ!!」
「そこか!」
あからさまな挑発であったが思わず返してしまい居場所がバレ白地の爪が迫る。
「やっべっ!」
ソラはすぐに移動して回避し、また白地から距離を取った。
さてどうする......ちまちまやっても埒があかねぇし......
あいつも生き物である以上急所、頭や心臓を狙えば大ダメージになるか?......
方法が無い訳じゃないがあのスピードじゃ五分五分ってところか......よし!
ーーーーーーーー
白地がソラを完全に見失ってからしばらく時間が経っていた。
(どこに隠れた......?)
カラッ
「ーーッ!!」
背後の建物から物音が聞こえ振り返る。しかし、
カラッ
「何っ!?」
再び逆の建物から物音が聞こえてくる。だがそれで終ることはなく両側から物音が発生する。
(二手に分かれたか......片方は妖精によるフェイクだろう。
さて......どっちだ?)
その時だった。白地のその目が一瞬だが確かに動く剣先を捉えた。
(今のは確かに奴の剣......罠......だな。
私までたどり着いた早さといい、戦いかたといい、あいつはそれなりに頭が切れる。こんなミスはしないだろう。
となれば奴がいるのは反対の建物か......)
「フハハハハ!
詰めを誤ったな、見つけたぞ!」
白地はあえて罠にかかった振りをして先ほど剣先が隠れた場所へ向けてその爪を振りかぶる。しかしこれはあくまでも振りでありその意識は背後へと注がれていた。
(さぁこれでお前の思い通りだろう、出てこい!
その瞬間切り裂いてゲームセットだ!)
ーーーーーーーー
何者かが白地のことを背後の建物から覗き見ていた。
「フハハハハ!
詰めを誤ったな、見つけたぞ!」
そう言いながら爪を振りかぶるのを見てその何者かが飛び出した。
そしてその手に持った短刀を両手で大きく振りかぶり白地目掛けて投げつけた。
「フン!」
しかし背後から攻撃が来ることを読んでいた白地はそれを防ぎ投げつけた者を見て一瞬、1秒にも満たない時間だが確実に動きが止まる。
「――ッ!?」
「うまくいったですよ、ソラ!!」
白地の驚愕の視線を受けながらフィンが叫んだ。
ーーーーーーーー
「――と、こういう作戦だ。できるか?」
「もちろんなのですよ!」
「よし、じゃあ......待てよ、これって戦いに入るのか?
だとしたら無理なんじゃ......」
「大丈夫なのです。
正確には妖精の攻撃は全てダメージが0になるだけなのですよ」
「なるほど......攻撃が無効だから戦えないってことにしてんのか」
「はいです。昔、妖精に戦わせて自分は隠れるっていうことをした人がいたかららしいのですよ」
「......そいつクズだな」
「クズなのですよ」
「まぁいい。それじゃ頼んだぞ!」
「任せるです!」
ーーーーーーーー
(こっちが妖精だと!?
だとしたらソラは......まずい!)
白地はすぐに振り向き来るであろう攻撃に備え体の前に手を持ってくる。
「............?」
しかしその場所から攻撃は来なかった。
(どういう......)
「残念でした。そっちも囮だよ!」
「なっ!?グァ゛ァ゛ァ゛ァ゛!!」
上空から声が聞こえそちらを見るがすでに遅かった。
屋根の上から飛び降りたソラの剣が白地の右目を貫いた。
「もう......いっちょぉ!!」
白地の頭にしがみつき引き抜いた剣で残った左目を狙う。
「さ......せるかァァァァ!!」
白地は頭にしがみついたソラごと壁に突っ込んだ。
「ガハッ!!」
白地が潰された右目を押さえながらその場から離れ体勢を立て直す。
その隙にフィンの回復魔法がソラを癒し再び立ち上がった。
「やってくれるじゃないか」
「お互い様だろが。
まぁ、回復がある分こっちが有利だけどな」
向かい合い、暫し睨みあう。そして両者同時に駆け出した。
「パワーコンバート」
白地の両腕の筋肉が肥大化しソラを連続で切り裂こうとする。
だがソラはスライディングで体の下をくぐり抜けかわし、
「連続剣2連・クロス!」
その背中を攻撃する。
「グウゥゥゥ!まだまだぁぁぁぁ!」
白地が振り向きながらソラを払いのける。
剣でガードをしつつも10数メートル飛ばされるソラ。だが受け身を取りダメージを最小限に抑えて立ち上がる。
「負けるかぁぁぁぁ!!」
「負けなよ」
距離を詰めていた白地がソラを上空へと蹴りあげる。
――くそっ空中じゃ自由に身動きが......
「スパイラルクロウ!!」
白地が空中のソラに狙いを定め回転しながら迫っていく。
あの技はレックスの時に見た......でも威力はあの時とは段違いじゃねぇか!
空中じゃ逃げ場もねぇ......もってくれよ!!
ソラは白地の攻撃を剣で受け止め、その摩擦で火花が発生する。
「くそっ!やっぱり厳しいか?!」
「オオオオォォォォ!!」
ピキ......
――まずい!!
剣にヒビが入る。
直後ソラは剣を斜めにし流れに身を任せ攻撃を回避し、受け身を取り着地する。
チャンスだ。今度は向こうが空中で身動きが取れない。
「あれを使ってみるか......」
ソラは上段に構え呼吸を整える。
「何をするつもりだ?」
その技を覚えたのはレックスを倒した時だった。だがその時はまだ筋力が不足しており発動しようとしてもできなかった。
「飛剣」
ソラが剣を切り下ろす。すると三日月型の斬撃が白地に向かって飛んでいく。
「何っ!?」
(空中では身動きが......何とかガードだけでも......)
白地は肥大化した腕でガードを試みる。
「グゥゥッ!!」
かろうじて頭などの急所を守るが腕や下半身に大きな切り傷ができる。
実はこの時、白地は本来ならばここまで大きな傷を負うことは無いはずだった。しかし、『パワーコンバート 』防御力を攻撃力に変換するこの技を使っていたことにより高いダメージを受けてしまった。
そして空中で攻撃を食らったことによりバランスを崩しそのまま落下した。
「このまま......終われるものか......」
「いや、これで終わりだ」
白地の落下地点に先回りしていたソラが柳の構えを取る。
「連続剣3連・爪!!」
白地の体に袈裟斬りが3連続で放たれ、獣の爪で引き裂かれたような傷が出来上がる。
「がはっ......」
バキン!!
ソラの剣がヒビの入っていた場所を起点に折れてしまう。
口から血を吐きながらも立ち続ける白地。
「ハァ......ハァ......くそったれめ......」
短剣をフィンに渡してしまっていたソラはファイティングポーズを取った。
「まだ......ま......」
白地が糸の切れた人形のようにその場に倒れた。
「ハァ......ハァ......ハァ......終わった......」
LEVEL-UP 28→30
「勝ったぞぉぉぉぉ!!」
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