第22話 本当の姿
「とりあえず、そいつを離して貰おうか」
ソラはジャックの腕を掴む手と反対の手に剣を出現させ喉元に突き付けた。
ジャックは掴んでいた手を離すと隊員はその場に倒れこんだ。
「ルパート!」
「はい!」
ソラがそう叫ぶと後方に隠れていたルパートが駆け寄り倒れた隊員を連れて離れていく。
「随分と素直だな」
「ふっ、そうなる理由も既に察しがついているんじゃないのか?」
「まぁな。3度目の戦いの時、前回とは比べ物にならない程弱くなっていた。
初めは単純に回復が間に合っていないのかと思ったがお前が他人の体を操っていることが分かって別の可能性も出てきた」
「ーー」
「お前が引き出せる力は操る者に依存する。
レックスさんみたいに強い人なら本来の力を多く、逆に弱い者ではその力の一部しか発揮できない。
そして今はあのときのダメージで強い人を操れないからこうやって力を奪って回ってたってところか」
まぁ力を奪うことについてはついさっき知ったばかりだけど......
「ご明察。だが1つだけ訂正しておこうか」
「まじで?どっか違ったの?
うわ、どや顔で解説したのにはっず!」
「ふっ、弱い者でも出そうと思えば力を発揮できるというだけだ。気にするな。
もっとも、体が耐えきれずに使い物にならなくなるがな」
「なるほど~」
それで最初の時みたいに戦ったりしなかったのね。
「で、どうする?」
「どうするとは?」
「その体じゃ俺に勝てないのは分かってるだろ?
戦うか?」
レックスの体で勝てなかった以上、それ以下の力の体であれば同じ結果になるのは明白であることは2人とも理解していた。もちろん100%というわけではないのだが......
「ふむ......わずかな可能性にかけて戦うのもいいが、お前私の本体にも気付いているのだろう?」
「当然だ。といっても確信したのはついさっきだけどな」
「ならばこれ以上他人の体で戦う必要はないだろう」
ジャックはその手の爪を消し、それを見たソラも剣を消し掴んだ手を離した。
「では待っているぞ、次が最後だ」
そう言い終えるとコートが霧散し気を失った隊員だけが残っていた。
「やっとかよ......」
ーーーーーーーー
同日昼
「よう、来てやったぜ。ジャック」
ソラはフィンとルパートと共に町内のとある場所にてジャックの本体と相対していた。
「ソラさん......本当にこいつがジャック何ですか?......」
ルパートは未だに信じられないようでソラにそう尋ねた。
「む~、ルパートはソラが信用できないですか」
「いえ、そう言うわけでは......」
「いいんだよ、フィン。信じられないのも無理は無いしな。
でも、間違いなくこいつが今回の事件の元凶だよ。
だよな、ジャック?」
そう声をかけられた本体と思われるものが顔を上げて、
「その通りだ」
と答えた。
ルパートは顎が外れるのではないかと思うほど口をあんぐりと開けて驚いている。
「せっかくだ、どうやって私にたどり着いたか聞いておこうか」
「最初にお前に勝った時、レックスがその場に残されていた。その時点で2つの可能性が出た。
本当にレックスがジャックである可能性と誰かに操られている可能性だ。
とはいえこれはその後すぐに別のジャックが現れたことで後者であることが確定したけどな」
「なるほど、なるほど」
ジャックは余裕の笑みを浮かべながらソラの話を聞き続ける。
「操られていることが確定し次に考えたのはその方法だ。
大きく分けて2つ、幽霊みたいに憑依して直接操るというもの。そして洗脳して手先として使役するというものだ。
だけど洗脳は時間がかかるだろうから次々に出現していた今回はそっちの可能性は捨てることにした」
まぁ今から思えば催眠術とかなら可能性があったかも知れないけど正解だったし結果オーライってことで。
「憑依するとした場合対象にマーキングするか近くにいるかが必要になるだろう。
幸い別の理由で診断書はとって貰っていたからマーキングならそれを探すのは楽だったよ。
そして全員に共通して存在する物があった。
それが猫によってつけられた傷だ。全部お前のだったよ、ポチ」
レストランの入り口の段差に座る猫ーーマリアさんに飼われているポチーーが器用にその前足を使って拍手をする。
「ご名答~」
「あまり嬉しくない称賛だな」
「そう言わずに素直に受けとりなよ、せっかくだしさ」
「嫌だね」
んべっと舌を出してそれを拒否するソラ。
「そうか、残念だ」
「けっ、思ってもないくせに。
とにかくそこまで分かればあとはその傷のある人物をピックアップして監視するだけ。そんであの現場に出くわしたってことだ」
ちなみにそのピックアップに関してはジェームズさんに頼んで警備隊員全員を調べて貰ったお陰で簡単に完了した。
「ふふっそれじゃあ答え合わせも終わったことだしさっそく始めようじゃないか。
第1の試練最終バトルを!」
それを聞きフィンとルパートがその場から少し離れる。
「ちょっと待てよ」
戦闘体勢をとろうとしたポチをソラが止める。
「どうかしたかい?」
「まだ分かってないことがある。消えた傷の謎だ」
「消えた傷?......ああ、その事か」
憑依している間使用しているのは操られている者の肉体であり、その肉体で受けたのに憑依が解けたときに無くなるというのはおかしいだろうとソラはずっと思っていた。
ただ憑依の方法やジャックの正体とは関係無さそうだったので考えるのを後回しにしていたのだ。
「それだけはどれだけ考えても分からなかった。
答え合わせって言うならそれも教えろよ」
「フフッ、実に簡単なことなんけどな......」
「だったら早く教えてくれよ」
「だがせっかくだ!
私に勝ったら教えてあげるとしよう!」
何がおかしいのか、いや本当にたわいもない理由だったのかポチが笑いながらそう言った。
「マジかよ......
ったくめんどくせぇ」
心の底からそうだったのかものすごく嫌そうな顔を見せるソラ。
「ついでだと思いなよ、どちらにせよ私とは戦わなければならないんだから」
「言われなくてもそうするよ!
やられた後でやっぱり無しとかするんじゃねぇぞ!!」
「安心しなよ、私は約束は守るーーっと」
ソラはポチが話している間に1足跳びで距離を詰め剣を振り下ろした。
しかしそれを大きく跳躍してかわし、先ほどまでソラがいた場所に着地した。
「話の最中に攻撃とはね」
「余裕でかわしといてよく言うよ」
「この程度は当然さ。
それより何か気付かないかい?」
「は?」
こいつはまた急に何を言い出すんだ?
戦おうって言ったりそれを止めたり。なんかすっごいイライラしてきた......
「ソラ......ソラ!」
それまで成り行きを見守っていたフィンがソラの方に跳びよってきた。
「何だよフィン。今からこいつとーー」
「ルパートが消えたです!」
「......はぁ!?」
驚き先程までフィン達がいた場所を見るが確かにルパートがいなくなっている。
「何で......」
周囲を見渡すがどこにもその姿は見当たらない。さらにソラはあることに気付く。
「いやちょっとまて......
それどころかこれは......」
「気付いて貰えたかな?」
「てめえ町の人達をどうした」
ソラ達がいるこの場所はレストランの前、つまりは道のど真ん中であり、時間帯的にも人の往来が活発なはずであった。
にもかかわらず周囲を見渡しても誰1人見当たらずさらに他の場所も静まり返っていた。まるでこの場の3人ーー正確には2人と1匹だがーー以外は存在しないかのように......
「消えて貰っただけさ、戦いの邪魔になるからな」
「なっ!?」
「勘違いしないでくれよ?
この町も人も全て試練のために作られたものだからな」
「なん......だと......」
「そんなことって......」
町も人も全てが作り物!?
ルパートもジェームズも警備隊の奴らもみんな......みんな......
「もっと動揺するかと思ったんだが......」
ソラは剣を正眼に構えてポチをまっすぐに見据えていた。
「してない訳じゃねえけどな。
でも今は敵が目の前にいる。冷静さを失って隙だらけになるわけにはいかねぇ」
「言い心構えだ。これを見ても崩れないでくれよ?
我が名、
そう言った直後ポチの体がみるみるうちに肥大化し、おおよそ5メートルほどの大きさへと変貌した。
その体は白い体毛に覆われ所々に黒い部分がライン上に存在し、長い尾はゆらゆらと揺れている。その存在はまるで神話に聞くーー
「白い......虎......
白虎、それがお前の本当の姿か!!」
「オオオオォォォォ!!」
白虎の咆哮が町中に響き渡り、戦いの火蓋が切って落とされる。
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