第21話 正体を探って

同日午後 レストラン


「お待たせしました。それからこれ、頼まれていたものです」


「おう、サンキュー」


 ソラはルパートから1枚の紙を受け取りその内容に目を通し始めた。

 ジャックとの戦いの後ソラはルパートにいくつかの頼みをし、レストランで待ち合わせをして回復のために先に休みを取っていた。

 先ほど受け取った物もその頼みの1つである。


「そんなもので何か分かるんですか?」


「何か分かるというかちょっと確かめたかっただけだよ」


「?」


 ルパートに頼んだものそれはレックスの診断書であった。

 ジャックを倒しコートが霧散したあとレックスが現れたときソラは消えないことに驚いた。その疑問はルパートによって即座に解消されたが同時に更なる疑問がソラの中に発生していた。

 診断書を頼んだのはその答えを探るためである。


「やっぱり全部無くなってるのか......」


「何がですか?」


「俺があの戦いでジャックに与えた傷だよ」


 そう発生した新たな疑問はこれであった。

 ソラはジャックの体に浅いものから深いものまでいくつもの傷を負わせていた。特に右腕の傷は使用不能になるような物であり、回復魔法や回復液も無しに瞬時に治るようなものでは無かった。

 にもかかわらずそれらの傷が無くなっていたのである。


「昨日の夜までについた傷、訓練でついたであろう痣や猫の引っ掻き、噛み跡以外は何も無いんだとさ。

 てか猫ってまさかこの店のあいつか?」


 ソラはカウンターで丸まっている猫を見ながら診断書をルパートに返し食事を再開した。

 ちなみにこの猫名前はなぜかポチであり、警戒心が強く引っ掻いたり噛んだりは日常茶飯事である。

 まぁ唯一懐いているマリアさんにより爪は切られているため傷がつくのはごくまれにであり、さらに触ろうとするのが鍛えている警備隊の面々なのであまり問題になることはないのだが......


「多分そうですね、レックスさんもよくここに来てましたから......

 にしても言われてみれば確かにおかしいですね。僕もジャックが傷を負うところは見てましたから、怪我をしたのは間違いないはずですし......」


 ルパートは診断書を受け取り自分も目を通しながらそう答えた。


「で、ジェームズさんは何て言ってた?

 あの人にだけは本当のことを伝えるように頼んだだろ」


「しばらく考えたあと念のためにもうしばらく警備を続けると。それからレックスさんに関してはソラさん同様秘密にしておくべきとおっしゃってました」


「まぁそうなるか......」


 おそらくジェームズさんも俺と同じことを考えてるんだろうな......

 というか俺でもその考えに至るんだから当然と言えば当然か......


「でも何で警備を続けるんでしょうか......レックスさんがジャックだったんだからもう必要無いと思いませんか?」


「......本当にレックスさんがジャックならな」


「え、それってどういう......」


「とにかく、今日も警備しないといけないなら準備しないとな」


 ちょうど食事が終わったのでオレンジジュースを飲みながらマリアさんとおしゃべりしているフィンを呼びに行くソラ。


「ちょっ、どういうことか教えてくださいよ」


「まだ推測の域を出ないからまた今度な」


 ルパートもソラに続くが質問には答えてもらえなかった。


「じゃあ今日も同じ時間に同じ場所でな。

 ほら、そろそろ行くぞ、フィン」


「は~いなのです」


「分かりました......でもその時はさっきの答え教えてくださいよ?」


「そりゃ無理だな、証拠が無さすぎる」


「そんなぁ......」


「またねなのです、マリアさん」


「またね、フィンちゃん」


「ごちそうさまでした」


「お粗末様でした」


 両肩を落とし落ち込むルパートをマリアさんが励ますのを見送りソラ達はレストランを出て宿へと向かう。

 そしてまた夜が来る。

ーーーーーーーー

2日後 町内の道


 結論から言うとジャックは毎日現れていた。

 しかし2日ともソラ達は遭遇することができなかった。

 今日は、たまたま近くに現れたためすぐに駆けつけ戦闘が開始されたが明らかに様子が変であった。


「くっそぉぉぉぉ!!」


 ジャックがその手の爪で襲いかかるがソラは軽々と受け止めその横腹を蹴りつける。

 それによりジャックは10メートル以上飛ばされそのまま動かなくなった。


「これは......どういう......」


 ルパートが困惑するのも当然であった。

 ついこの間殺るか殺られるかの戦闘をしたはずなのに今回はソラの圧倒的な勝利に終わったからだ。

 ソラが動かなくなったジャックに近づくと前回同様黒いコートが霧散しそこに男が現れた。


「ルパート。こいつ見覚えあるか?」


「はい。というか僕の同期のニアです。

 でもどうして......」


 ソラはそれを聞いたあとニアの服をめくって体を調べ始めた。


「ソラさん......何を......」


「ふむ、こいつもさっきの傷が無くなってる」


「ええ!?」


「ルパート悪いけどこいつもレックスさんと同じように病院に連れてって診断書貰ってきてくれ」


「分かりました......でもどうしてニアが......」


「多分誰でも良かったんだろうけどな......」


「それってどういうーー」


「とにかく頼んだぞ」


「はぁ......」


 これは時間がかかりそうだ......

ーーーーーーーー

一週間後 宿


 それから一週間が経ち中身の違うジャックがさらに2人現れていた。

 しかし強さはそれほどでもなくいずれも大きな被害が出る前に撃破されていた。

 だがこれによりソラは1つの結論を出していた。


「ジャックが他人を操っているのは間違いない。問題はその方法か......」


 他にも気になるところはあるけどとりあえずはそっちが先だな......

 方法が分かれば逆算して本体が分かるかも知れないし。


「見当はついていないですか?」


「1つかなり可能性の高いのがあるんだけど......」


 机の上に並べられたこれまでの資料を眺めながらソラはそう答えた。


「それはどんな方法なのですか?」


「ーーーーって方法が今のところ一番可能性高いんだけどフィンはどう思う?」


「......フィンに分かると思うですか?」


 真顔でそう言われムカついたソラはフィンの頭を鷲掴みし顔を覗き込む。


「いやぁ~ほらフィンよりソラの方が、ね?

 賢いから......」


 掴んだ頭を徐々に締め付けるソラ。


「い、痛い。痛いのです。ごめんなのですよーー!」


「お前に聞いた俺がバカだったよ......」


 ソラから解放され頭をさするフィン。


「あてて......でもそこまで分かってるならあとは検証するだけなのですよ」


「はぁ......フィン、言ってなかったけど一昨日からすでにしてるんだよ」


 そうソラは2日前からその推測が正しいかどうか確かめようと行動をしていた。しかし昨日新たなジャックが撃破されその検証はほとんど振り出しに戻っていた。


「何か別の方法を考えないと運が悪ければ堂々巡りになりそうな状況だよ」


「じゃあルパートかジェームズさんに頼るですよ」


「やっぱりそれが一番だよなぁ」


 確信がある訳じゃなかったからとりあえず1人でやろうと思ってたんだけど仕方ないか......

 明日ジェームズさんに会いに行ってみるか。

 あの人も本体が別にいることには気付いてたみたいだし何か俺よりもいい案有るかもしれないしな。


「っともうこんな時間か。

 そろそろ今日の見回りに行くか」


「レッツゴーなのです!」


 そしてソラは翌日ジェームズと相談し、とある作戦を実行するのだがその成果はすぐに現れることになった。

ーーーーーーーー

3日後 深夜


 町内のとある道を2人の隊員が1人は両手を頭の後ろで組み、もう1人は腕が痒いのか時おり掻きながら歩いていた。


「今日はいったいどこに現れるんだろうな」


「そんなの分かるわけないだろ」


「俺のところに来たら一捻りにしてやるのによ」


「何バカなこと言ってんだよ、お前程度じゃ無理だって」


 2人は警戒心が薄れてきているのかそんな軽口を叩いていた。


「そういえばあの冒険者、......ソラだったっけ。

 全然役に立ってないよな?」


「確かに。そこそこ腕はたつみたいだけど結局まだジャック捕まってないし」


「あいつが来てからもう2週間ぐらいか?」


「そのうち逃げたりしてな」


 そんなことを言いながら同時に笑い合う2人。


「それどうしたんだ?」


 1人がずっと腕を掻いていたのを疑問に思い尋ねた。


「ああこれ?

 かさぶたが出来てて痒くて痒くて......」


 そう言いながらまた掻いている。


「あるあるめっちゃ痒くなるときあるよな」


「だよなぁ......えっ」


 その瞬間先ほどまで掻いていた傷から黒い靄が溢れだしその隊員を包み込んだ。


「うわぁぁぁぁ!!」


「なっ!?なんだよこれ!!」


 靄が晴れると先ほど包み込まれた隊員が黒いフード付きのコートを身に纏っていた。


「おい、ビックリさせんなよ」


 その様子を見ていたもう1人が話しかけたが返事が返ってこない。不思議に思い正面に回り顔を覗き込む。


「おいどうしたんだよ!

 てかこれまるで報告書にあったジャックみたいじゃん。なんかカッコいい、っ!?」


 突如顔を捕まれ驚く男。


「なっ何だよ、急にどうした?」


 掴む力が徐々に強くなり無理やり引き剥がそうとするが掴む方が強く上手くいかない。


「おい!冗談もいい加減に......」


「今日はお前からだ」


「はぁ?何を言って......」


 直後掴まれた男は急激に力が抜けていくのを感じた。


「なん......だ......これ......」


「お前の力貰い受ける」


 そして力を吸われた男は気を失う。


「大口を叩く割に少なかったな」


 ジャックはその手に爪を顕現させとどめを刺すために大きく振りかぶる。


「はい、そこまで」


 しかしその爪が振り下ろされる直前、真後ろに現れた何者かによって止められた。


「それ以上は洒落にならねぇからな」


「フッ。今日は随分と早い到着だったな、ソラ」


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