第19話 遭遇......そして敗北
深夜
「今日は現れるんですかね、ジャック」
「さぁどうだろうな」
個人的には現れてくれないと困るんだが......
ソラとフィンは宿の前でルパートと合流し一緒に町の見回りをしていた。
「そういえばジェームズさんは今日も病院の警備か?」
「はい。なのでよほど近いところに出ない限り加勢に来てもらうのは難しいと思います。何とか時間を稼げれば別ですけど......」
「となるとやっぱり自分で倒すしかないか」
「微力ながらお手伝いします!」
「いや、下手に手を出されても邪魔だし守る余裕は無いだろうから離れててくれればいいよ」
「そう......ですか」
ソラに戦力外であることを言われ自覚していたことではあったが落ち込むルパート。
「まぁ適材適所。それぞれが自分に出来ることをすればいいんだよ。それが今回は戦闘以外ってだけだよ」
「そうですよね。出来ることがあれば何でも言ってください!頑張りますから!」
「フィンも頑張るです!」
「お前はもともと離れたとこからのサポートだろが」
「気持ちは近くなのですよ」
「えっへん」と言わんばかりに胸を張るフィンに、
「はいはい、ありがとよ」
と素っ気なく返すソラ。しかしそんな中にも確かな信頼が見えルパートは羨ましく思っていた。そして不意に......
ピィィィィィ!!!
「っ!? この音は......」
「警備隊の笛の音です! これが吹かれたってことは......」
「ジャックが出たぞー!!!」
少し離れたところから誰かの叫び声が響き渡った。
「出やがった!! 方向はどっちだ!」
「今の声から察するに多分ここから北西の方だと思います!」
「よし、フィン頼んだぞ!」
「はいなのです!」
フィンはそう返事をして北西の方へと飛んで行った。そして残った2人も後を追うように走り出した。
「あ......あの!」
「どうした?」
「1人で行かせるのはさすがに危ないんじゃないですか?」
「大丈夫だ。あいつに任せたのは索敵のみだし、見つけたらすぐに発煙筒で知らせるように言ってあるからな」
「ですが......」
「それにフィンは空を飛んでるんだ、敵に見つかってもそう簡単には手出し出来ねぇよ!」
「言われてみれば確かにそうですね」
「それにな......」
「?」
「なんだかんだで俺はあいつを信用してるんだよ」
「......なるほどです」
ーーーーーーーー
北西にしばらく進んだ地点 上空
「ん~......こっちの方のはずなのですが......」
フィンは先ほど声がしたと思われる場所の近くまで来て辺りを見回してジャックを探していた。
「......あれは?」
道の真ん中に何かがあるのに気付き下降して行く。
「っ!! だっ大丈夫なのですか!」
そこには警備隊の制服を来た男が数人体中に引っ掛かれたような傷を負って倒れていた。
(絶対にジャックの仕業です......みんなひどい傷なのです)
「我が魔力を糧としてかの者を癒せ。ヒール!」
フィンが全員にヒールをかけていると、
「ぐあぁぁぁぁ!!」
さらに少し離れたところから誰かの叫び声が響いた。
(今のはかなり近かったのです。すぐに行けば見つけられるかもしれないです!)
そしてヒールをかけ終わるとすぐに声がした方に向かって飛び立った。
ーーーーーーーー
「ぐあぁぁぁぁ!!」
フード付きの黒いコートで全身を覆った何者かが、その手にある鉤爪のようなもので警備隊員を切り裂く。隊員はその場に倒れ込み、その様子を見てもう1人の隊員は腰を抜かしてその場に経たり込んでいた。
「まだ現れないか......」
何かを待っているその人物が次の獲物を求めて移動しようとしたその時、上空で赤い煙が立ち上ぼり始めた。
「あれは......なるほど」
フィンが発煙筒でその場所を知らせていた。
(見つけた!見つけたですよ!あれがジャック......早く来るですよ、ソラ!)
(妖精を先行させて居場所を特定させたのか......多少頭は回るようだ。だが......)
ジャックはその手の武器で地面を抉り、出来た石をフィン目掛けて投げつけた。
(こういう危険もあるがどうする?)
ーーーーーーーー
(ソラは今どの辺にいるですかね......え?)
フィンがソラを探して元来た方を見ていると目の前を石が通りすぎていった。
「ふぇぇぇぇ!?」
驚いて下を見てみるとジャックが地面を砕きながら次から次へとフィン目掛けて投げつけてきていた。
「わっ!わわっ!ひぇぇぇぇ!」
それらをかろうじて避けきって再び下を見ると、ジャックはしゃがんでいた。しかし、それは休憩などではなく、いきなり足の筋肉が膨れ上がりフィンの近くの建物の屋根の上まで跳躍した。
「そっ、そんなのありですか!?」
そして続けてフィンの目の前まで跳躍し、
「有り有りだよ」
その手の武器を振り下ろし、フィンは思わず目を瞑った。
(ソラ!!!)
しかしその爪がフィンに届くことは無かった。不思議に思い目を開けると、そこには
「間一髪ってかぁ!」
「ソ、ソラぁぁぁぁ!!」
剣で攻撃を受け止めるソラがいた。
「こいつがジャックか......」
「その通りだよ」
ジャックはそう言いながら空中で体をひねりソラを横から蹴り飛ばした。
「くっ!」
ソラはかろうじて剣で受け止めるが勢いは止まらず、向かいの建物に激突した。
「ソラッ!!」
フィンが飛び寄って行くが、
「だぁぁぁもう!!くそったれがぁ!!」
どうやら無事だったようですぐにジャックに向かって跳躍し、剣を振り下ろした。
ジャックもその爪で受け止めるが勢いは止められず今度は自分が飛ばされてしまった。しかし激突することはなく壁面に着地し、地面へと飛び降りた。
「ダメージはほとんど無しかよ......」
ジャックとほぼ同時に着地したソラはそう呟くとすぐに駆け出した。
しかしジャックは構えようとせず両手をだらんとさせていた。
こいつ、完全に俺のことをなめてやがる!......ふざっっっけんな!!!
ソラはそのまま怒りにまかせジャックに斬りかかった。しかしその剣がジャックに当たることは1度もなく、すべて最小限の動きでかわされてしまった。
「怒りにまかせて剣を振るうか......」
「煽ったのはそっちだろうがっ!」
なおも剣を振り続けていたが不意にジャックがその剣を受け止めた。
「くっ......」
その手を振りほどこうとするが動かせずその隙に、
「頭を冷やして出直すんだな」
ジャックが懐に入り込みそのまま後ろの壁までみぞおちを殴り飛ばした。
「ぐはっ!」
「ソラぁぁぁぁ!」
フィンはすぐさま近寄りヒールを唱える。
「今日はここまでにしておくか......」
「まっ......待て......」
何とか立ち上がり戦おうとするソラに
「次は2日後だ」
そう言い残してジャックは夜の闇に消えていった。
「くっそぉぉぉぉ!!」
ーーーーーーーー
警備隊詰所
「なるほど......そうでしたか」
あの後ソラとフィン遅れて到着したルパートや他の隊員に後片付けを任せ、治療と休息のため1度宿屋に戻った。そしてひと眠りしてからジェームズに昨日の出来事を報告に来ていた。
「悔しいですけど歯が立ちませんでした」
昨日の出来事を思いだし歯を食い閉めるソラ。
「必ずしもそうとは限らないと思いますよ」
「......どういうことですか?」
「怒りにまかせた戦いというのは往々にして直線的になりやすく、相手からは簡単に見切られるものですから。
確かに気持ちの昂りは戦いにおいて切り離すことは出来ませんが、それをコントロールし支配されないように出来なければ。
まぁ君に足りないものが多くあるのも事実ですけどね」
「......はい、気を付けます」
感情のコントロールか......時間を掛ければ出来るだろうけど残り2日ではどうにもならないし......となると何か別の対策をしないといけないか。
「ジェームズさんから見た足りないものって何ですか?」
「そうですね」と前置きをして少し考えてからジェームズが答えた。
「圧倒的な戦闘の経験不足ですね」
「戦闘経験......ですか?」
「はい。身体能力がその年とは思えないほど高いので隊員達は気づかなかったようですが、攻撃が素人なんですよ。
剣の軌道や狙う場所、そして作戦を考えるために気がそれて攻撃がお座なりになったり」
「......」
「もちろん最初はそういうものですし慣れてくれば自然と出来るようになるものですが......時間が無いのでしょう?」
ジェームズは真っ直ぐにソラの目を見ながらそう言った。
「......はい。奴は2日後にまた来ると」
「2日ですか......逃げるつもりはないんでしょう?」
「もちろんです」
「では......私の特訓を受けてみますか?」
「え......」
「勝ちたいのでしょう?ジャックに」
「......はい」
「なら戦いなさい。そして自分よりも強い物から勝つための手を。弱い物から生き残るための手を。見て、聞いて、実戦して学びなさい」
「はい!!」
そして2日が経ち、ジャックの予告した日がやってきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます