第18話 ルパート

翌日 昼


「ふぁ~......」


「ふみゅ......」


 昨日は結局ジャックが現れることが無く、警備を終えホテルに着いたときには朝日が昇り始めていた。2人はそのまま睡眠を取り今に至る。


 今日はとりあえず詰め所で事件の詳細を聞いてくるか......その前にまずは飯だな。


「お~い、おきろ~フィン」


「スースー......」


 ......まぁいいや。


 ソラはフィンを頭の上に乗せ出かけた。

ーーーーーーーー


 ソラは食事を済ませ警備隊の詰め所に向かっていた。


「さてと、詰め所につくまでに、ここまでで分かってることを整理しとくか......」


 憶測になるけどまずはクリアするまで出られない。昨日町の周りを一周したけど他の町へ続いてるような補整された道が無かったし。森の中に魔物がいたのも力が足りないと思ったときにレベル上げが出来るようにだろうな。あとこれは多分全試練で共通だと思う......

 ん?てことはアカリさんも今この中にいる?......いやそれだと同時に同じ相手を追うことになるから無いか......となると入れ違いか、同じ町が別にあるか、まったく別の試練を受けているか......ってところか。今度会ったときに聞いてみるしかないな。

 次にクリア条件。これはジャックザリッパーを倒すことで間違いないだろうな。そういえばこの町並みどこで見たのかと思ったら某探偵漫画の劇場版第6作か......あれは良かったなぁ......

 じゃなくて。そのジャックについて分かっているのは、警備隊の3番手並みに強い。使用武器はかぎ爪のような物。動きは猫のよう。フード付きの黒いコートで男女も不明。

 ちなみに今の俺は警備隊の5番手ぐらい......か。


「正体を突き止めてどっか人気の無いところに呼び出せれば戦いやすいんだけどさすがに厳しいか......」


 とにかく今は少しでも情報を集めて対策を練るしかないか。

 

「すいません。通り魔確保の............」

ーーーーーーーー

警備隊詰め所内 中庭


 ここでは警備隊のメンバーが木刀を使って日々鍛錬を積んでおり、今日も稽古が行われていた。ちなみに今日の指導役はジェームズさんであり、今は1対5で組手をしているがまだまだ余裕そうだ。ソラはそれを少し離れたところから見ていた。


「ソ~ラ~お腹空いたです~」


「我慢しろって起こそうとしたのに起きなかったフィンが悪いんだから......」


「で~も~」


「でもじゃない」


「う~~~」


 2人がそんなことを話している間に、


「そこまで!」


「ありがとうございました」


 稽古に一段落ついたようで各々汗を拭いたり水を飲んだりしていた。そしてジェームズさんが1人の隊員と共にこちらに向かっていた。


「お待たせしました、ソラさん」


「いえいえとんでもない。こっちはお言葉に甘えさせて貰ってるだけなんで、待ってるのぐらい全然大丈夫です」


「そうですか。あ、紹介します。今日からソラさんのサポートをすることになったルパートです」


「初めまして。ルパートです。剣術の方はまだまだなので戦闘ではあまり役に立てませんがよろしくおねがいします」


 ジェームズの隣にいた少年はあどけなさの残る顔いっぱいの笑顔でそう名乗った。


「俺はソラで、こっちがフィン。よろしく」


「フィンなのです」


 ソラは頭の上の妖精を指さして紹介し、ルパートと握手をした。

 ーーかなり若い人が来たな。15......いやもっと下か?......


「ところでソラさん、良ければ少し手合わせしていきませんか?」


「えっ......いや~遠慮しときます~」


 嫌な予感しかしないし......


「フィンもお腹空かしてるんで早く何か買いに行かないといけないので......な?」


「ソラの強さを見せてやるです!」


「ほらコイツもそう言っ......ておぉい!」


「ソラは強いですよ~おじさんなんかに負けないのです!」


「お、おまっ」


「ほう、それは手合わせのしがいがありそうですね」


「えええぇぇぇ......」

ーーーーーーーー

町内 大通り


「いや~すごかったです!すごく強いじゃないですか!」


「ふっふっふ~当然なのです!」


「おい」


「特にジェームズさんのあの連撃はうちの2番手のボイルさんしか捌ききった人はいなかったのに、初見でなんとかするなんて!」


「ソラならあれぐらい簡単なのですよ」


「おい、お前ら」


「まぁ最後はやっぱりジェームズさんの勝ちでしたけどこんなに強い人が協力してくれるなんてとても頼もしいです!」


「次に戦う時は絶対に負けないですよ!」


「いい加減にせんかい!」


「ど、どうされました?」


「どうしたですか?」


「この頭を見てみろ!」


 そう言って指差した頭にはたくさんのたんこぶができていた。ちなみにフィンは今ソラの肩に座っている。


「あのおっさん前半はこっちの実力を見るために手ぇ抜いてやがった。そんなのといい勝負しても何の自慢にもなんねぇよ!」


 あのおっさん今の俺の倍は強いぞ多分。


「そんなことはないですよ」


「ルパート君。それがあるんだよ。だから誉められても今の俺には半分嫌みに聞こえてしまうんだよ......」


 ソラは遠くの空を見つめながらそう言った。


「もしかしてソラさんって少しめんどくさい人ですか?」


 ルパートがフィンに小声でそう尋ねると、


「時々そうなのです......」


 フィンも小声でそう返した。


「聞こえてるからな?」


「あ、あははは」


「でも事実なのです」


「ちょ、ちょっとフィンさん!」


「......今日はオレンジジュース無しな」


「あああぁぁぁ......」


 そんな2人にとってはお馴染みのやり取りをしている間に目的地についたようで......


「あっ、ソラさん!見えましたよあそこが最初の現場です」


「何か手がかりが見つかればいいけど......」


 まぁ、警備隊が見つけられなかったんだから可能性はかなり低いだろうけど。

ーーーーーーーー

町内 レストラン


「うまっ!」


「美味しいのです!」


「お口に合うようで良かったです」


 3人は事件現場を一通り回ったあとルパートの提案で警備隊員のお気に入りのお店で晩御飯を食べていた。


「それじゃあ追加の注文があればまた呼んでくださいね」


「ハイなのです」


「ありがとうございます」


 そうしてカウンターの方に戻っていったのは町内でも5本の指に入る美人でこのお店の看板娘のマリアさんであり、警備隊の面々がここに通う理由のひとつである。


「で、お前も狙ってんのか?」


 カウンターに戻り飼い猫のタマを撫でるマリアさんをじっと見つめていたルパートにそう尋ねた。


「え!?いやいやそんな、僕なんかじゃ釣り合うわけないじゃないですか。こうして見つめているだけで充分です」


「ふーん......」


 まぁ俺もそっち方面はからっきしだったから何も言えないけど......いや高校ではもしかしたら......


「追加を頼んでくるです!」


 そんでこいつはそんなことはお構い無しっていうか興味無しって感じだな......


「それよりも何か分かりましたか?」


「ん?いんや、な~んにも。もともとダメもとで回っただけだったしな」


「そうですか......分かりました、それでこの後はどうされるんですか?」


「宿に戻って仮眠をとって日付が変わるぐらいに見回りに加わるつもりだよ」


「それじゃあ12時ぐらいに宿の方に行きますね」


「えっ......」


「どうしました?」


「お前も来んの?」


「当然でしょう。僕はソラさんのサポートが仕事ですから!」


「いやでもお前まだ子供じゃん。夜に出歩くのはさすがに......」


「僕、18ですよ」


 その瞬間ソラの思考は停止した。


「ソ、ソラさん?」


「......嘘......だろ?」


「いえ、先月18になったばかりです」


 ソラは開いた口が塞がらなかった。

ーーマジかよ......童顔だし背も低いから15かもっと下だと思ったのに、俺よりも年上だった......だと!?


「あの......なんか年下なのにため口きいてすいません」


「そんなのかまいませんよ。実力はソラさんの方が上ですし......」


「あ、あはは......」


 頭をかきながら笑うルパートに引きつった笑いで返すソラ。


「どうしたですか?」


「ああ、ルパートが実は18......」


 戻ってきたフィンにさっきのことを伝えようとそちらを向くと、フィンはタンブラーに入ったオレンジ色の液体をストローを使って飲んでいた。


「お前......それ、まさか......」


「おいしいですよ、オレンジジュース」


「......今日は無しって言っただろうがー!」


「知~らな~いの~です~」


 そしてまたいつもの追いかけっこが始まり......


「えぇ......」


 本当に大丈夫なのかと不安になるルパートであった。


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