第17話 倒すべき敵の名

「準備は?」


「オッケーなのです!」


 幻想の木を倒し消滅したあとその場所にアカリさんの言っていた試練に挑戦するためのものと思われる扉が現れていた。

 しかし2人はすぐにはくぐらず先に休憩し、体力やMPを完全回復させていた。


「それじゃあ行きますか!」


「行きますか~な~のです~」


 そして第1の試練が始まった。

ーーーーーーーー


「ええぇぇ......」

「わお~なのです」


 扉をくぐったソラはその先に広がる光景に唖然としていた。

 ーーなんだよこれ......ちょっと落ち着こう。いったん戻って整理しよう......


「ええぇぇ......」


 振り返ったソラの前には鬱蒼とした木々が広がっているだけでたった今くぐったはずの扉は跡形もなく消え去っていた。

 ーー1度挑戦が始まったら途中でリタイアはできないってか......あぁサクラが帰ってこなかったのもこれが原因か。


「諦めて挑戦を続けるしかないか......」


「早く行くですよ、ソラ」


「まぁちょっと待てよ。俺はまだこの状況に理解が追い付いてないんだから......」


 そう言って振り返った2人の前にはレンガで作られた多くの建物とそこに暮らす多くの人々がいた。

 ーーどう考えてもさっきの扉が転移装置みたいな物だったってことだよな。後ろの森は惑わしの森とは全然雰囲気違うし......

 ということは試練が終わればまた扉が出てくるっていうことでいいのかな、とりあえずは。


「で、ここで何をすれば試練をクリアしたことになるんだ......」


「フィンも分からないです」


 思わずこぼれたつぶやきにフィンが答えた。


「うん、知ってる......」


 また行き詰まったよ......手がかりになりそうなのはこの町並みか。どこかで見たことある気がするけどどこだっけ......


「ゲームだとこういうとき何をするですか?」


「ん?ん~ゲームだったらか......」


 ゲームだったらこういうときは......


「そうだな......大抵の場合はその町で何かしらのトラブルが起こっているからそれを解決するって感じだな」


「じゃあ困ってることを聞いていけばいいですね」


「......いや、その必要は無いだろ」


 そうだよ。ゲームを参考に作ってんならそんなことはしなくても多分大丈夫だな。


「なぜです?」


「そのうち分かるよ。だから今はとりあえず町を見て回ろうぜ」


「納得いかないです......」


「あはは......」

ーーーーーーーー

同日 夕方


 ソラは宿屋の一室で筋トレに励み、フィンは未だに納得していないようでその筋トレをあの手この手で邪魔していた。


「結局何も起こらなかったのです」


 腕立てをしているソラの膝の後ろを叩いてガクンとさせようとするが、


「そうだなっ」


 失敗......


「のんきに筋トレなんかしてていいですか?」


 今度は肘の後ろを叩くが、


「大丈夫、大丈夫」


 またも失敗......


「いい加減フィンに説明するですよ!」


 髪の毛を引っ張ったり体を蹴ったりするが、


「ど~すっかな~」


 まったく意に介せず筋トレを続けていた。


「ムキ~!」


「あははは。そんなに怒るなって」


「じゃあ説明するですよ」


「しかたねぇなぁ。この試練は俺が必ずクリアしないといけない物なんだろ?てことは今の俺はゲームで言うところの主人公なわけだ。ということは、こっちから何かしなくても向こうから来て強制的に巻き込まれることになるんだよ、多分な」


「そんなことがホントにあるですか?」


 その時誰かが部屋の扉をノックした。


「ほら言ってるそばから来たんじゃないか?」


 そう言ったあとソラが扉を開くとスーツのような服を着た恰幅のいい50代ぐらいの男性と前進黒で腰に拳銃と警棒のような物を付けた警官と思われる男性が立っていた。


「冒険者の方がいらっしゃると聞いて来たのですが......」


「多分俺ですね、それ。えっと......」


「私はこの町の町長のアルバートと申します。こちらは警備隊の隊長のジェームスです」


「ジェームスです、よろしく」


「谷本空です。よろしくおねがいします」


 自己紹介と握手を交わしたあと、


「実は折り入ってお願いがありまして......」


「とりあえず立ち話もあれなんでどうぞ」

ーーーーーーーー


「どうぞ」


「ありがとうございます」


「あの、ジェームズさんも......」


「いえ、私はこのままで大丈夫ですので」


 アルバートが座ったところでソラが切り出した。


「それでお願いというのは?」


「......実は1月ほど前から通り魔事件が発生しておりましてその解決に力を貸していただきたいのです」


「通り魔ですか......」


「はい......事の発端は先月の第2土曜日のことでした。未明に1人の女性が殺害されたのです。そしてその1週間後今度は男性が殺害されました。

 このときに警備隊では連続殺人の可能性があると考え次の土曜日は夜通しで警備をしていましたが残念ながらまた1人犠牲者が出てしまいました。

 そしてその犠牲者達3人につながりがなかったことから通り魔のように無差別に犯行が行われていると判断し、より警戒を強めていたのですが......」


「もしかして土曜日以外にも?」


「はい......4週目は2回5週目は3回それが先週のことです。もちろん隊の中で遭遇した者もいたのですがことごとく返り討ちにされてしまいほとんどが重傷です」


「そうですか......」


 相当強いみたいだな......俺で勝てるのかよ......


「ご協力するのはかまいませんが......」


「......何か不都合でも?」


「失礼ですがそちらのジェームズさんはかなり強いと思うんですけど、彼でもその通り魔に勝てなかったんですか?もしそうなら俺でも勝てないと思いますけど......」


 この人アカリさんほどではないけど今の俺の数倍は強い気がするんだよな......


「いえ、私はその通り魔とはまだ遭遇していません。どこかで見ているのか私がいるところの近くでは犯行を行わず、駆けつける前に逃走してしまうので」


「そうですか......ではあなたから見て今の俺でもその通り魔に勝てると思いますか?」


 ジェームズはソラのことを改めてじっくりと観察した後答えた。


「正直少し厳しいかと思います。手合わせをした者が言うには隊の3番手と同等ぐらいに感じたと言っていましたから。

 ですが今の君はおそらく5番手ぐらいの実力でしょう。であればそこまでの差はないですから特訓次第でなんとかなると思います。

 それに実戦は純粋な実力だけで勝敗が決まるわけではありませんから」


「どうでしょうか。引き受けていただけますでしょうか」


「......俺なんかでよければお手伝いさせていただきます」


 そう言ってソラは手を差し出し2人と握手をして約束を交わした。


「それではさっそく今日からお願いしたいのですがよろしいか?」


「大丈夫です。で、どこを守ればいいですか?」


「いえ、場所は指示しませんので自由に動き回っていただければと思っています。

 我々、特に実力のあるものは病院等の重要施設の近くから離れられませんので。」


「なるほど。それでどんな特徴の人物なんですか?」


「フード付きの黒いコートで全身を覆っていて性別や年齢など詳しいことは分かっていません。武器は鉤爪だと思うそうです」


「だと思うっていうのは......」


「鉤爪だと思うけれどまるで本物の獣の爪の様だったと証言があります。事件の詳しいことを知りたければ明日警備隊の詰め所に来ていただければ」


「分かりました......」


 黒の全身コートはおそらく闇に紛れ込んで逃げるのが目的か......見失わないようにしないと。となるとあれが欲しいな......


「それでは我々はこれで失礼します。町長」


「そうですね、ではよろしくおねがいします」


「はい」


 そして2人は立ち上がり帰ろうと部屋から出た。その時にジェームズが思い出したように「役に立つかは分かりませんが」と前置きをして話し出した。


「町民達はこの通り魔にある名前を付けたようです」


「通り名や通称みたいなものってことですか?」


「はい、その名はJTR」


 JTR......それってまさか!!


「ジャックザリッパー。通称、切り裂きジャックと......」


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