第16話 惑わしの森

 できる限りの準備をしてナシヤ町を出発し、惑わしの森に向かったソラは今、


「ソ~~ラ~~♪」


「は~~~~い♪」


 プールで大勢の水着姿の美女に囲まれていた。


「ソラさん今度は私たちと遊びましょ」


「はいはい、今行きま~す。いや~モテる男はつらいねぇ~」


 最高だ~......こんなにモテたの初めてだ~。もうずっとここにいたい......

 その後もソラは美女達と遊び続けていた。


「はい、あ~~ん」


「あ~~......」


(......!)


 そんなとき、ふいに頭の中に誰かの声が聞こえたような気がした。いや本当はもっと前から聞こえていたが遊ぶのに夢中で気づいていなかった。しかし今回は違った......その声が徐々に大きくなってきていた。

 ーーなんなんだよこれ......何を言ってんだよ......


「大丈夫、ソラ?」


「あ、ああ。大丈夫だよ。ほらこのとうり!」


 聞こえてくる声に驚き頭を抑えていたソラを心配して女性の1人が声をかけてきた。しかしソラは平静を装って返しさらにボディビルのポーズをしてみせ、その場は歓声に包まれた。

 ーー気にすることないや。とにかく今を楽しまないと......


(......ラ!......)


 ーーっ!また......一体何だってんだよ、邪魔するなよ!


(......ソラ!)


「この声、どこかで......」


(早く目を覚ますですよ、ソラ!!)


 再び、より鮮明に聞こえてきたその声はその存在をソラに思い出させた。


「フィ......ン?」


 そしてその存在を思い出すと同時にソラの意識は強制的に遮断された。

ーーーーーーーー

惑わしの森


「......ソラ!」


 誰かの呼ぶ声がする......


「ソラ!!」


「フィン?」


 ソラが目を開くとボロボロになったフィンが必死で体を揺すっていた。


「ソラ!良かった......です......」


 倒れるフィンをギリギリのところで受け止め「どうしてこんなにボロボロに」とそう思った直後、物音が聞こえ周囲を見渡し状況を理解した。

 ーーあ~くそったれ!そうだ、この森に入ってしばらくしてコイツに捕まって意識を失っちまったんだ。


幻想の木(根)

 捕まえた物に幸せな夢を見せ、その間に生命力を吸い取り相手を死に至らしめる。


 フィンの治療のためにも1回外に出た方がいいだろうけどまずはコイツをどうにかしないと逃げられないか......

 ソラが戸惑っている間に根の数がさらに増え来た道が完全に塞がれてしまっていた。


「さっきはただの根っこだと思って油断しちまったけど今度はそうはいかねぇからな」


 そしてソラはフィンを抱えたまま剣を出現させ走り出した。

 根は正面から向かってくるソラに絡み付こうと一斉にその体を伸ばしだす。それを跳躍して回避し一閃。

 根はそれでも諦めず切られた部分から新しい根をはやし始める。しかしその隙にソラは地面から出ている根元の部分へと近づき、


「連続剣2連・クロス!」


 スキルを発動させ瞬時にX字に切りつけた。しかしさっきよりも太く、また片手での発動で威力が足らず完全に切断するには至らなかった。

 ーーやっぱり片手じゃ威力がたらねぇ!でもこれなら行ける!


 根元の部分を切られ怯んでいる隙にその内の1本に狙いを定め追い討ちをかけて今度こそ完全に切断。そしてその隙間から出口に向かって全速で走りなんとか逃げ出した。

ーーーーーーーー

同日夕方


「ん......」


 フィンが目を覚ますと何かの中に居ることに気づく。


(これって確か旅に出る前に買っておいたテント?)


テント

 対魔物用障壁の魔方陣が埋め込まれており魔力を通すことで小規模の障壁を展開することができる。

 魔力はあらかじめ貯めておくことが可能。


(そうだ!ソラは!)


 森の中で何とか根を引き剥がし目を覚まさせたソラのことを思いだし探そうとテントから出ると、


「よう、やっと起きたか」


 たき火の前に座ってそう言ってきた。


「それはこっちのセリフなのですよ」


「ん?ああ森でのことね。完全に油断してたよ......予測はしてたんだけどな」


「それならちゃんと回避するですよ」


「悪い悪い、1番可能性が低いと思ってたからさ......もういいかな」


 そう言ってソラはたき火の上で暖めていた物をフィンに渡した。


「シチューなのです!」


「町まで行ってお食事処で買ってきたんだよ。お前の寝てた半日、この辺の魔物狩りして稼げたから」


「足止めさせちゃったですね......」


「気にすんなって。もともと俺がやられたのが原因だし、それにレベルもまた上がったから明日は大丈夫だよ」


「本当ですか!?」


「お前冒険者ブックの情報見なくても確認出来るんだろ?嘘言っても意味ないじゃん」


「あ......それもそうなのです」


「そんじゃあ俺はもう食べ終わったし寝るけど、お前どうする?あんだけ寝たんだそんなすぐには寝れないだろ」


「しばらく星を見てるです」


「そっか。障壁からは出るなよ」


「分かってるですよ!」


「知ってるよ」


「むーー!」


「なはは、じゃあお休み」


「お休みなのです!」


 そう言葉を交わした後ソラはテントの中に入っていった。


「今日も星はきれいなのです♪」

ーーーーーーーー

翌日 惑わしの森


「こいつで......終わり!」


 ソラ達は再び森の中に入り今度は順調に進んでいた。魔物に襲われることもあったが昨日のこともあり、特に苦労をすることも無かった。


「ふぅ......この道でラストかな。あとは......」


「あの不自然に広かった場所だけなのです」


「だな。まぁ確実にボス戦だろうけど」


 2人は来た道を戻りその場所に向かった。


「いったいどんなボスが出てくるですかね......」


「ん?分からないのか、フィン?」


「え、ソラは分かるのですか!?」


「まぁなんとなくだけどこれ系かなっていうのはあるよ」


「いったい何ですか!」


「......まぁあの場所までもう少しあるから考えてみ?」


「ん~......」


 腕を組み考え始めたフィン。しかし答えが出ないままその場所の前に着いてしまった。


「分からないのです......一体何が出るですか?」


「ある程度ゲームやってたら大体予測は出来るんだよ。まずここが森であること。次に出てくる敵が植物型ばかりだったこと。そして極めつけは魔物の名前だ」


 開けた場所の中心に向かいながらソラがそう言った。


「名前がどうかしたですか?」


「根に枝に葉、部分的には出てきたけどまだだけは出てきてないだろ」


 その時前方にあった他よりも一回り大きい木に顔が浮かび上がり、


「おおおぉぉぉぉぉ」


「なぁ、幻想の木」


 初めてのボス戦が始まった。

ーーーーーーーー


「ぐあっ!」


 幻想の木と戦うソラは本体を守る根に後方に突き飛ばされた。


「我が魔力を糧としてかの者を癒せ。ヒール!」


 フィンの唱えた魔法によりソラの体力が回復し再び本体に向かって駆けだした。


 最初はそのでかさにちょっとビックリしたけどなんとかなりそうだな......移動しないタイプだから懐に入って攻撃するだけで倒せそうだし。問題はその本体を守る根や枝どもか......


 ソラは戦い初めてすぐにそのことに気づいていたが数が多くなかなか近づけず、近づいてもすぐにまた離されてを繰り返していた。


「あ~もう邪魔だ、お前ら!」


 立ち塞がる根達を切り裂き本体を斬りつけるソラ。その場所に入っている切れ込みはかなり深くあと少しであることが分かった。


「右から来てるです!」


「ーーっ!」


 間一髪のところで剣で防ぐがその衝撃で再び後方まで飛ばされてしまった。


「大丈夫ですか!」


「おう、助かった!」


「良かったです」


「あと1歩だ。次で決めるぞ、回復は頼んだぜ、フィン」


「了解なのです!」


 駆けだしたソラは根達の攻撃をできるだけ無視し本体に向かって突き進む。当たる物もあるがフィンがすぐに回復しソラは次の一撃に集中する。そして、


「連撃剣2連・旋!!」


 その場で回転し遠心力を加えた斬撃を2連続で繰り出し、ついに幻想の木を倒した。

 LEVEL-UP13→15


「ふう......疲れた」


 ソラはその場に座りこみ、振り返ると......


「やったー!バンザ~イ!」


 フィンが両手を上げて喜んでいた。


「......元気だな、あいつ......」


 こうしてソラは初のボス戦に勝利した。

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