第15話 ナシヤ町

5日後 西門前


 ソラのレベルは10まで上がっていた。


「装備よし!アイテムよし!準備オッケー!」


「オッケーなのです~」


 予備の武器に腕と足用の防具、回復液とモンスタースコープに一応食料......こんだけあれば大丈夫だよな......いや絶対大丈夫だ!自分を信じよう!


「どうかしたです?」


「いや、何でもない。大丈夫。それじゃあナシヤ町に向かってレッツゴ~!」


「ゴ~なのです~」

ーーーーーーーー

同日夕方


「着いた~!」


「な~のです~!」


 2人は道中、特に手こずることもなく日が沈む頃には既にナシヤ町に着いていた。


「って思ってたより近い!もっと2、3日掛かると思ってたのに......」


「遠い方が良かったですか?」


「いやまぁ近い方がいいけどなんか拍子抜けというかさ......」


 それにしても今度の町は......うん!田舎そのものって感じだな!

 いやいやトッキオとの落差よ。あの女神は何を考えてんだよ......


「それじゃあ討伐者用魔方陣でお金を貰ってご飯を食べにゴ~なのですよ!」


「だな。腹も減ったし。この町のギルドはどこに有るんだ?」


「この町にギルドはないですよ。大きな町ではないですから」


「......はぁ!?じゃあお金貰えないじゃん!」


「大丈夫なのですよ」


「なんで?」


「冒険者ギルドにあったお金を貰うための魔方陣が宿屋に設置してあるのです」


「あぁ~あの冒険者ブックをかざしてたあれか。じゃあまずは宿屋に行けばいいんだな」


「はいなのです」


 冒険者がよく利用するのが宿屋だからってことなのかな。道具屋も結構使うと思うけど......まぁ考えても仕方ないか。

 でも魔方陣しかないってことはクエストとかはギルドの有るある程度大きい町に行かないといけないのか。人員の問題もあるんだろうけどなんとかならないのかなぁ......

 そんなことを考えているうちに宿屋の前まで来ていた。


「おっ、ここか」


 中に入ると右手に受付があったが今は誰もいなかった。そして左には魔方陣が直接刻まれた机が「討伐報酬はこちらから」という立て看板と一緒に設置してあった。ソラはその魔方陣に手をかざした。


「......何してるですか?」


「いや~アイテムとかはこれで支払い出来たからここも出来るかな~と思って。あれ楽だったから......」


 フィンが怪しんだ目で見つめるとソラはゆっくりと目をそらしていった。


「本当にそれだけですか?」


「本当さ~あは、あはは」


「そうですか。てっきりまた冒険者ブックを見られるのが嫌なのかと......」


 ギクッ


「まぁ今なら他に誰もいないので違うと思ってたですけど......」


 その言葉を聞きハッとして急いで冒険者ブックを出したその時、


「すいませーん、すぐ行きまーす」


 と、受付の奥から声がした。

ーーやばい、見られちまう!急げ~急いでくれ~。


「よし、終わった。行くぞ、フィン」

「えっ?」


 ソラはフィンを捕まえてそそくさと宿屋から出て行った。


「あら?声がしたと思ったんだけど......?」

ーーーーーーーー


「逃げる必要あったですか?」


「ん~多分」


「絶対ないと思うです。後で泊まりに行くですから」


「あっそういえばそうか。なんか冒険者ブック見られたくなくて必死で......あっ」


「やっぱりそうだったですね!ピンクの何が嫌ですか!だいたいソラは......」


 フィンはここぞとばかりに文句を言い出した。がソラはあまり気にしていないようで......

ーーあ~腹減った。ここではどんな料理がたべられるんだろう......

 などと考えを巡らせていた。


 ソラはしばらくしてお食事処を見つけたが未だにフィンの文句は続いていた。

ーーよくもまあこんなに文句が出てくるもんだ。てか途中から同じこと言ってない?とりあえずそろそろうっとうしいしやめさせるには......やっぱりあれか


「おっお食事処はっけ~ん!オレンジジュースもあるかもねぇ~」


「えっ!?早く、早く入るですよ!」


 フィンはさっきまでの不平不満が嘘のように爛々と目を輝かせていた。

ーーやっぱチョロいな(笑)

ーーーーーーーー

翌日


 2人はあの後ご飯を食べてすぐに宿屋に一泊し、翌朝から惑わしの森についての聞き込みを行っていた。

 しかしあまり有力な情報は出てこずお食事処でお昼を食べながら一休みしていた。


「結局分かったのは詳しい場所と、とても恐ろしくて強い心がないと進めないってことぐらいか......」


「もぐもぐ」


「場所はいいとしても強い心って何だよ、抽象的すぎんだろ。なあ、フィン?」


「ごくごく」


「しかも何か知ってるのに隠してるような感じのやつもいたし......」


「もぐもぐ」


「あ~もう、ぶっつけ本番、初見攻略しかないのかよ~」


「ごくごく」


「で、お前も食ってばっかいないで何か考え出せよ~」


「飲んだりもしてるですよ」


「確かにそうだ......じゃなくて!」


「ごちさまでしたなのです。試練についてやそれに関係のあることはほとんど知らないのでソラと同じことしか分からないのです。

 むしろソラの方が分かるかもしれないのです」


「どゆこと?」


「女神様が言ってたですが、出来た頃はそのまんまだったですけどソラの世界のゲームや漫画を見てから何度も改良を繰り返してきたそうなのです。

 だからそういう知識が豊富なソラの方が正確に予測できると思うですよ」


「ゲームや漫画か......」


 まぁそれに関しては職業と町並みを見てそうだろうとは思ってたから納得だな。

 となると惑わしの森の中身はおそらくあの2つのどちらかだろうけどこればっかりは行ってみないと分かんねぇな。


「さて、この後はどうするです?」


「ん?そうだな......俺の予想が正しいならそこそこ時間掛かるだろうしとりあえず近くの魔物相手にレベル上げでもしようかな」


「それじゃあ早速レッツゴ~な~のです~」


「まぁ待て、まだ食べ終わってないから」


「じゃあ先に町の入り口に行ってるです」


 フィンはそう言って店から出て行った。


「まじかよ......」


 ソラはおいて行かれたことに少し驚きながらも急いで残りを食べ終え、


「ごちそうさま!おばちゃんお皿ここ置いときます!」


 と言ってお皿をカウンターの所に置き、フィンの後を追いかけていった。

ーーーーーーーー

同日夜 宿屋


「今日でレベル15か......」


 ソラは宿屋の一室で翌日に向けてステータスの確認や装備の手入れを行っていた。


 惑わしの森の予測はもういいとして、問題はその後の試練の内容だ......アカリさんは「最奥部の扉から挑戦出来る」って言ってたから完全に別物だろうな。

 あ~くそっ情報がなさ過ぎる!しかも聞き込みで判明したけどまだサクラが4日前に出たっきり帰ってきていないらしい。

 魔道士は基本的に後衛職でMPがないといけないから1人では進むのがゆっくりになるだろうけど、だとしても4日もかかるもんなのか?まだ1つ目だぞ......

 いや、やめよう......情報がないんだ、これ以上はどんだけ考えても底なしだ......


「......オレンジジュース......えへへ......」


 宿屋の人に毛布を借りて作ったベッドで眠るフィンがそう寝言をつぶやいた。


「ったく」


 ソラはずれた布団をかけ直した。

ーー夢の中でもオレンジジュースかよ、らしいというかなんというか......でも、そうゆう脳天気な所は少し見習うべきなのかもな。


「......寝るか」


 今の俺に出来るのはあとは明日に備えて体調を万全にすることぐらいだしな。


 そして夜は更けていく......

ーーーーーーーー

翌朝


「ソラ!ソラ!」


「んあ......」


 フィンの呼ぶ声と窓から差し込む朝日のまぶしさで目を覚ましたソラ。


「早く起きて準備するですよ~」


「......朝っぱらから元気だなお前」


「初めての試練でウキウキして早く目が覚めたですよ」


 どや顔でそう話すフィンにデコピンをかましつつ着替えを続けるソラ。


「なぜですかー!」


「俺、どや顔、むかついた」


「なんで片言ですかー!」


 ていうかウキウキで、とかどこの小学生だよ。


「無視するなですー!」


「はいはい、分かったから行くぞフィン」


「うぅ~......」


 そう言われ頭の上に乗るが釈然としないようでソラを軽く叩き始めた。


「そういえば寝言言ってたぞ」


「言ってないですよ」


「寝てるうちに言ってんだから分かるわけねーだろ」


「ち、ちなみに何を......」


「さ~てなんだったかな~」


「お、教えるですよ~」


「わっはっはっはっは」


 準備万端!どっからでもかかってこいや!

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