第10話 雨降って地固まる
「ちょ、ちょっと待ってください、いったん落ち着きましょう」
「あら、私はいたって冷静よ。だから早く何をしたのか白状なさい。でないとこのまま締め上げるわよ」
いやいや締まってるよ、すでに締まってる!
ソラが苦しそうにアカリの手を叩くと、その手が少し緩んだ。
「はぁはぁ......」
「で、何したの?」
「何って言われても......ただジュースをダメにしてしまっただけですけど」
「......はぁぁ~~~」
いったい何だってんだよ、たかがジュースぐらいで......
「少し妖精のことについて話しましょうか」
「はぁ......」
「妖精達は神界と呼ばれる女神様達の暮らす世界で地水火風それぞれの泉で生まれ女神様のサポート役として暮らしているわ。
妖精達の寿命は平均15歳ぐらい、そっちでいうと犬や猫と同じぐらいね。
新しく生まれてきた子達はそれぞれの属性の高齢者達が親代わりの家族として面倒をみているわ。
そして2歳になると私たちのサポートのための勉強が始まって4歳からはいつ来るか分からない私たちを待つ生活が10歳まで続くの」
「なるほど......」
「そして女神様からのお呼びがかかると私たちの相棒として旅に出ることになるわ。何年かかるか分からない、死んでしまう可能性のある旅に。もちろん友達や家族その全員と離ればなれになってね」
「......」
「まぁ私たちみたいな向こうから来た人が複数いればこっちで会うこともあるかもしれないけど可能性としてはかなり低い方ね。
そんな状況で寂しかったりしないと思う?
そしてそんなときに貰った大好物がどれだけ嬉しかったか分かる?
そしてそれを目の前で台無しにされた気持ち分かる?」
「......」
「そうなの、レイ?」
「ええ、まぁほとんどはね。寂しいかどうかはそれぞれだろうけど。付け足すとするなら彼女......今はフィンって名前が付いてるんだったわね。フィンは親代わりのシルフィさんにかなりなついてて普段から別れるのを嫌がってたってことかしら」
ソラは何も言えなかった。
「とりあえず今は泣き疲れて私の部屋で眠っているから、明日はちゃんと仲直りするのよ」
「はい......」
ーーーーーーーー
ソラの部屋
ソラはベッドに寝転びながらアカリさんから聞いたことについて思い返していた。
知らなかったしわざとではなかったとはいえかなり酷いことしちまってたんだな俺......
明日......なんて謝ろう......
何も思いつかないまま時間だけが過ぎていった。
ーーーーーーーー
次の日
前日ずっと考え事をしていて朝のラジオ体操は遅刻、午前と午後の特訓はフィンが拒否、休憩時間に探し回るも見つからず、ついにフィンに会えないまま夜になってしまっていた。
「はぁ~......」
結局出会うこともなく夜になっちまったよ......あいつ今どこにいるんだよ。
......そういえば昨日レイ......だったっけ......が向こうにいた頃のフィンを知ってる風なこと言ってたっけ。何か心当たりがないか聞いてみるか。
確かさっき食堂の方にいたよな......まだいてくれるといいんだけど......
ーーーーーーーー
食堂
サクラとおばちゃんが仲良く談笑しているとソラが扉を開けて入ってくる。
「......その様子だとまだ仲直りは出来ていないみたいだねぇ」
「ええ、まぁ......それどころかまだ今日出会ってもいないんですよね......」
「本当かい?あきれたわねぇ」
「あはは......でこういうときにどういうことをするかとか知らないかなぁと思って聞きに来たんです。彼女に」
ソラがレイの方に手を向けるとサクラが少し驚いた顔をしていた。
「レイに?」
「ああ、昨日向こうにいた頃のフィンを知ってるような口ぶりだったから何か分からないかと思ってさ。
パートナーと言っても俺たちはまだ2日程度の付き合いだからこういうときあいつがどうするのかとか何にも分からなくってさ......」
「どう?レイ。何か知ってる?」
「たいして仲が良かったわけじゃないから詳しいことは分からないわ」
「そう......か......」
まぁそうだよな......そもそも属性が違うからあんまり出会うことも無かったかもしれないもんな......
「ただ昔シルフィさんとケンカしたときは星がよく見える場所で泣いていたらしいわ。たまたま聞いた話だからどこまでが本当かは分からないけれど」
「星......」
「星ならこの学校の屋上に行ってみるといいよ」
「屋上......ですか?」
「そうさ、ここは他の建物と離れているから遮られることなく空を見られるだろうからね」
屋上か......行ってみる価値はありそうだな......
「ありがとうございます。ちょっと行ってみます」
「がんばっといで」
ーーーーーーーー
屋上
屋上の一段上(出入り口になっている所の上)の縁に座って空を眺めているフィン。空には雲があり、月に掛かりかけていた。
(つい勢いで今日の特訓サボってしまったです......ソラ達をサポートするのが妖精のお役目なのに......おばあちゃんが聞いたら嫌われるかもしれないですね......)
「おばあちゃん......会いたいのです......」
その時扉の開く音がし、見てみるとソラがやってきた。
(ソラ!?どうしてここが?......)
「お~い、フィ~ンいるか~」
(たまたまのようなのです。見つかる前にさっさと隠れるです)
「お~い、フィ~ン......」
いないのか?......いやケンカした後なんだし素直に返事なんかするわけないか......しかたない......あれを使うか......
(しつこいのです。まぁまだ探してくれているのはちょっと嬉しいですが、まだ許していないのです)
ソラが冒険者ブックを出し、そこからさらに何かを出した。
(あれは......もしかして!)
「あ~あ、せっかく食堂でオレンジジュース貰ってきたけどいないんだったら仕方ないか。飲んじゃおっと」
「あーーーーー!」
目が合う2人。
「あっ」
「見~つけた」
ーーーーーーー
ソラはフィンの隣に座り、フィンはムスッとした顔をしながらオレンジジュースを飲んでいる。少しの沈黙の後ソラが先に口を開いた。
「なぁ......お前、なんでそんなにオレンジジュースが好きなんだ?」
「......ソラには関係ないのです」
「そっか......」
「......」
「......」
「......フィンは......嫌なことがあったりすると1人で泉の近くの丘の上に行ってよくこうして星を見ていたです......」
「......」
「するといつもおばあちゃんがオレンジジュースを持って迎えに来てくれていたです」
「大好き......なんだな、おばあちゃんのこと」
「はい......」
「......会いたいか?」
「......おばあちゃんにですか?」
「ああ」
「......もちろんなのです......」
「そっか......」
「それに......心配なのです......」
「心配?」
「はい......おばあちゃんはもうすぐ18歳になるんです」
「18......確か妖精の寿命って15ぐらいだってアカリさんが言ってたから......」
「もういつ寿命が来てもおかしくないのです......お別れをしたときはまだまだ元気そうだったですが......」
「それで心配......か......」
「はい......」
「......俺が......死のうか?」
「なっ!?急に何を言い出すですか!」
「お前がおばあちゃんに会うにはそれしかないだろ」
「だからって......そんな......そんなこと」
「正直さ......俺が死にたくないと思ったのは、好きな漫画やアニメの続きを知りたかったからなんだ」
「えっ......」
「何てことない浅い理由だろ」
「そんなことは......」
「いいって、自分でもそう思ってるから......でもよく考えたらさ、それって死んでも生まれ変わればなんとかなるよなぁっておもってさ」
「でもそれは、もうソラとは違う別の誰かになるってことですよ?」
「今まで生きてきて......まぁ今は高校の時の記憶が無いから絶対とは言い切れないけど、夢とか成りたいものとか何にも見つかってないし。それなら最初からやり直してみるのも有りなのかもって」
「なんで......」
「ん?」
「なんでそんなことを簡単に言えるんですか!」
「簡単じゃないさ。これでも昨日からずっと考えて出した答えの1つなんだから」
「そんな......それでも......それでもそんなことは言って欲しくないです......」
「......」
「......」
「いつ帰れるか分からないんだぞ」
「分かってるです」
「心配じゃないのか」
「役目を途中で放棄なんかしたら......フィンがおばあちゃんに殺されちゃうですよ」
「俺がこんなこと言うのはこれが最後かもしれないぜ?」
「望むところなのです。だから......だからもう自分から死ぬなんて......」
「......分かったよ。後悔すんなよ?」
「そっちこそなのです」
2人は拳を作り甲を打ち合わせた。
そして顔を出した月明かりに照らされながらお互いの昔話に花を咲かせた。
ーーーーーーーー
屋上出入口内側
2人の様子を見に来ていたアカリ。
「~♪」
2人のやり取りを聞き上機嫌で自室へと戻っていった。
ーーーーーーーー
翌朝
2人でラジオ体操をするソラとフィン。どうやら2人揃って遅刻をしたようだ。そしてその事で口喧嘩をしているのを食堂から眺めているみんな。
「なんだなんだ仲直りしたんじゃなかったのか?」
「大丈夫よ、リュウ」
「ん?」
「あの2人はあれでいいの」
「だがなぁ」
「かっかっかっ。別にいいじゃねぇか、見てみろよ2人を」
口喧嘩の途中で思わず笑いだしている2人。
「あんなに楽しそうにしてんだから大丈夫だろ」
「......ふっ、みたいだな」
それからの時間はあっという間だった......
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