第9話 ケンカ

運動場


「それじゃあ早速走り込みから始めましょうか」


「また限界までですか?」


「もちろん!」


 昨日はどれぐらいだったっけ......20週ぐらいか......たった1日では大して変わらないから今日もそれくらいだろうなぁ......


 しかしそんな想像とは裏腹に......


「ほら、あともう少しよ!」


「はぁ、はぁ、ぜぇ、ぜぇ」


「40週たっせ~い!」


「パチパチパチ~なのです~」


 俺は昨日と同じように倒れ込んでいた。しかしたった1日で倍も成長したことに実はすごいのでは......とうれしくなっていた。


「1日で倍かぁ......まぁでも昨日のが少なすぎたからこれぐらいは当然かなぁ」


 この人は褒めるということを知らないのだろうか......


「いやいや1日で倍は結構すごいことでしょ」


「って言われてもね~。今までの子達はほとんどが1日目で40多い子は60ぐらい行けてたからなぁ......ちなみに最高記録は104週よ」


「初めからそんなに走れるとかチートだろ......」


 何なんだよ俺なんかたった8キロで倒れてたのにみんなその倍とか......ずるい!ていうか100ってことは40キロ!?......どこのマラソン選手だよ......


「何言ってるのよ、あっちから来た子達は全員少しずつ身体能力が強化されてるのよ。もちろんあなたもね」


「......またお得意の冗談ですよね?」


「冗談だったらどれだけ良かったことか......」


 嘘だろ......ってことは俺はもともとは8キロどころかもっと少ない距離しか走れなかったってことかよ。まじで高校入ってから一体何をしてたんだよ!


「だから昨日はどれだけガッカリさせられたか......まぁ反映強化がちゃんと効いてるみたいだからちゃんと特訓すれば大丈夫だろうけど」


「なんか、すいません......ん?反映強化?」


「筋力トレーニング等の効果が元の世界よりも強く反映される能力のことなのです」


「そのとうり。で、あなたの場合もとがザコだったから一気に成長したんでしょうね」


 反映強化か。そんな力があるんなら先に言っといてくれればいいのに......でも強く反映されるってことはあくまでもトレーニングありきってことか......


「この世界はあくまでも努力をすることが前提になってるんですね」


「まぁ努力をすれば何でも出来るってわけではないんだけれどね」


 努力かぁ......苦手なんだよなぁ。めんどくさいし、むくわれないときの絶望感とか最悪だし......


「というわけで今日もまだまだ特訓するわよ!」


「うへぇ~」

--------

数時間後......


「それじゃあ今日はここまでね」


「ふぁ~~」


 確かに昨日よりはかなり強くなってたけどそんなの関係ないぐらいの量の特訓させやがって......


「朝やった構えの復習はしっかりやっといてね。あれが終わらないと次に進まないから」


「分かってますよ」


 でもとりあえず今日はもういいかな......疲れたし......


「......フィンちゃん、ちょっと」


「は~い」


「これ、あげる」


「こっ、これは......」


「その代わりソラにちゃんと復習させてね」


「イエス、ボスなのです!」


 2人で何の話をしてるんだろ......まぁおおかた俺がちゃんと復習とかするように見張れとかだろうけど......あ、戻ってきた。


「じゃあ2人ともまた明日ね」


「ハイなのです」


「......はい」


 校舎に帰っていくアカリさん。


「何の話をしてたんだ?」


「ソラには関係ないのです」


「とか言って俺にちゃんと復習させろとかじゃないのか?」


「そっそんなわけないのです~。ヒューヒューヒュー」


 ああやっぱりそうか......ていうか嘘下っ手~......口笛も出来ねぇならやるなよ。


「ということはその後ろに隠してる物で買収されたわけか」


「ちっ、違うのです。これは、あの、その......」


「いったい何で買収されたんだ?ん?」


「ば、買収なんてされてないです!」


「そうかそうか、ならしかたない......」


 フィンの隙を突いて後ろに持っていた物を奪うソラ。


「ああ~~!」


「こっ、これは......」


 それは四角い紙パックにストローが刺さった、紛れもないジュースだった。しかもパッケージを見る限り果汁100%のオレンジジュースだ。


「返すです~」


「お~っと、と?」


 ジュースを取り返そうと飛びかかってきたフィンを躱したが特訓の疲労で足がふらつき、こけてしまった。しかもジュースの上に......


「あっやべ......」


 恐る恐るフィンの方を見るソラ。


「......っ......ふぇ......」


 フィンは今にも泣き出しそうになっていた。


「まっまぁまて、いったん落ち着け!なっ!」


「う......うぅ......」


 あぁ......これはダメだ。


「あああああ~~~~~!」


「......」


 やっちまったよ。これはあれだ、昨日のと違ってマジ泣きだ。どうしよう......どうすればいい?......分からん......分からんけどとりあえず何かしないと......


「すまん!俺が悪かった」


「あああ~~~~。ソラのバカ~~~~」


「バッ......ああはいはい俺がバカでした、だから、な?」


「ああああ~~~~~~」


 しかしフィンが泣き止むことはなく、そのまま校舎の中に飛んで行ってしまった。しかしソラは突然のことでその場から動けずにいた。


「えぇ~......マジかぁ」


 どうすりゃ良かったんだよ......

 ていうかこれ追いかけないとまずいパターンのやつなのでは......

 そしてソラもフィンを追いかけて校舎の中に入っていった。

ーーーーーーーー

「お~い、フィ~ン。どこにいるんだ~」


 ソラはフィンを探して1、2階を回り終え3階に来ていた。

 一体どこに行ったんだよ......ここからは居住スペースだからしらみつぶしって訳にもいかないし......


「さて、どうしたもんか」


 とりあえず食堂に行ってみるか......100%ではないけどオレンジジュースがあったし。

 少し移動し食堂に入るとフィンはいなかったがおばちゃんと昨日出会ったサクラがいた。


「いらっしゃい。晩ご飯ならすぐに出せるよ......あら?フィンちゃんはどうしたの?」


「こんばんは、おばちゃん。実はあいつのジュースダメにしちゃって、そしたら泣いて校舎の中に飛んで行っちまったんで探してる途中なんですよ」


「何をやってんだい、まったく」


「いや、もちろんわざとではないですから」


「当然だよ!わざとだったら私があの子の代わりにあんたを殴ってるよ」


「面目ない......それで、ここに来ました?」


「残念ながらここには来てないねぇ」


 ダメだったか......結構可能性高いと思ったんだけど......


「あ......あの......」


「ん?」


 えっと彼女は確か......


「サクラさん......だったっけ。なんか知ってるのか?」


「さっきここに来る前にアカリさんの腕の中にいたのが多分そうだと思います」


「アカリさんの?」


「はい」


 何でそんなところに......って考えるまでもないか......この学校で頼るとしたらアカリさんかおばちゃんのどっちかだろうからなぁ......そもそも他の人とはほとんど話したこともないだろうし。


「教えてくれてありがとな」


「いえこれぐらいどうってことないですよ」


 と言うことは今度はアカリさんを探さないといけないわけか......

 その時食堂の扉が開きアカリが入ってきた。


「見つけた」


「あっちょうど良かった。アカリさんフィン......えっ」


 アカリはソラを見つけると近寄り胸ぐらをつかみ笑顔でこう言った。


「フィンちゃんに何したの?」


 ただし目は一切笑っていなかった。

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