第8話 13個の構え

「それじゃあ今度こそ木の剣を出してみて」


「ウッス」


 まず冒険者ブックで装備に木の剣があるかどうかを確認......よし。

 次に集中して自分の中から取り出すイメージ.........出来た。なんかちょっと感覚つかめてきたかも。


「じゃあまずは、っとその前に......」


「前に?」


 アカリさんが部屋の端の方に行き何か大きそうな物を抱えるようにしてこちらに戻ってきた。


「よいしょっと」


「なんなんすかこれ?」


「あ、逆にしないとね」


 そしてもう一度その何かを抱えて180度回転した。そこには俺が映っていた。


「これって......かが......」


「マジックミラーよ」


「えぇ~......」


 それはマジックミラーが3枚コの字型に組み合わされた物だった。


「この中で構えをすれば本人は鏡で確認出来るし、私は外からでも確認出来るから便利なのよ」


 確かに便利かもしれないけどマジックミラーはあれのイメージの方が強いからなぁ......なんだかなぁ......


「それじゃあ中の中心に立って、正眼の構えから始めましょう」


「はい......」


「正眼の構えは他の構えになめらかに移ることが出来ることから攻防のバランスのとれた基本の構えとして使われることが多いわ。

 構え方はまず右足を前、左足を右のかかとのラインに。そこから右足は一歩前、左足は足1つ分左に移動。

 次に木の剣を左手は端の方右手は前、鍔の方に。このとき中指、薬指、小指で握るようにして人差し指と親指は軽く添えるようにして、力加減は左7右3ぐらいで。そして左手の位置をへその少し下に体と握りこぶし1つ分空けたぐらいのところに。

 最後に剣先を相手の、今は鏡に映った自分の喉元に向けるようにしたら完成よ」


 右足を前......左を右のかかと......前に......左に......左手は端......右は鍔......3本で2本は添えるだけ......7:3......へその下握りこぶし1つ分......喉元に......これでいいのか?


「こんな感じですか?」


「そうねぇ.........うん、いいんじゃないかな」


「ふぅ......」


「じゃあそのまま10分キープしましょう」


「はっ!?」


「1人の時でも練習出来るようにしっかり覚えるのよ」


「まじかよ......」


 まぁ10分ぐらいなら別に......待てよ、確か昨日構えは13個あるって言ってたような......全部か?全部10分キープやるのか?......鬼め......

 と、そんなことを考えたりしているうちにも時間は経っているわけで......


「そろそろね、ちゃんと覚えられたかしら?」


「そりゃあもうバッチリですよ!」


 鏡の向こうから聞こえてくるアカリさんとフィンの遊んでる楽しそうな声が無ければもっとしっかり覚えられたんですけどね!


「それじじゃあ次にいきましょうか」


「はい......」


「次は上段の構え。この構えは振り下ろすだけで攻撃できることや、剣や刀であればそのリーチを最も生かすことができ、その反面構えている間は頭以外の部分をさらけ出していることから非常に攻撃的な構えと言われているわ。

 構え方はさっきの正眼の状態から左足を1歩前に、手は左手が額から拳1つ分斜め45度上に刀も45度ぐらいに」


 攻撃寄りの構えか......えっと正眼の状態から1歩前......手は額の斜め上に45度ぐらい......おぉ確かになめらかだ。


「出来ました」


「......もう少し腰を落として。それと剣が少し左にずれてるわ。鏡で確認して真ん中になるように」


「はい」


「そう、そんな感じ。じゃあ......」


「そのまま10分キープ......ですか?」


 『ニコッ』......じゃねぇよ。やっぱりかよ!


「よーい、スタート」

ーーーーーーーー

「それじゃあどんどん行ってみよ~」


「はいはい」


「次は柳。これは相手の攻撃、特に上からな物を受け止めたり、受け流したりする防御の構えよ。まぁ受け流して袈裟斬りにつなげることもあるから守りのみって訳では無いけれどね。

 構え方はさっきの上段から体を少し斜めにして剣を後ろから左向きに、角度は真横以上30度以内ならどこでもいいから自分の1番やりやすい角度でいいわ。それから鍔はへそのライン上に。

 その状態でキープが終わったら左右反対にして左柳ね」

ーーーーーーーー

「次は八相。これは剣や刀を手に持つ時に余計な力をなるべく消費しないようにされた構えよ。戦闘がいつ終わるか分からないような時や乱戦になったときに使われることが多いわ。

 構え方は下半身は上段と同じに。刀を立てて顔の右側に寄せる。このとき鍔が目の横になるように。刃は相手の方に」

ーーーーーーーー

「次は脇構え。これはこちらの武器の長さを相手が正確に把握するのが難しいことから奇襲や後の先を狙う場合に有効な構えよ。

 構え方は下半身は上段と同じに。柳の時のように体を斜めに。次に剣を右脇に持ってきて剣先は後ろに。このとき正面からは刀身が体に隠れて見えないように。刃は真横にね。

 これもキープが終わったら左右反対にして左脇構えね」

ーーーーーーーー

「次は下段。これは急な攻撃にもとっさに反撃できるように警戒、防御をしながら小休憩が出来る防御用の構えよ。

 構え方は下半身は上段と同じ。剣は真横の右下に向けて左手がおへそあたりに来るように。剣先を膝かその少し下あたりにしたら完成よ。

 これも左右反対で左下段ね」

ーーーーーーーー

「最後に突き。これは防御をするのが困難であることや、躱されたときは隙だらけになってしまうことからもとても攻撃的な構えといわれているわ。

 構え方は4つ。下半身はこれまでと同じ。まず右下、便宜上、右脇突きと呼んでいるわ。これは脇構えの逆で、剣先を前にしてへそのあたりを狙う感じに。

 次に右上、これは右突き。さっきのから剣を目の横あたりまで上に剣先は喉元を狙う感じに。

 後はその逆で左下の左脇突きと左上の左突き。とりあえず4つとも覚えてもらうけどその後は使いやすい物を使えばいいわ。まぁ敵が強くなればそうもいかなくなるけれどね」

ーーーーーーーー

「3、2、1、しゅ~りょ~」


「だぁ~」


 俺は最後のキープが終わった直後に座りこんでしまった。同じ姿勢を続けるだけなのにここまできついとは......


「お休みのところ悪いけどもう少しだけいいかしら?」


 おいおいまだ何かあるのかよ......


「まさかまだ構えが残ってたとか言わないですよね?」


「......実はそうなのよ......」


 まっ、まじかぁ~......

 俺はそのまま倒れ込んでしまった。


「わぁ~うそうそっ!ちょっとからかっただけっ!」


 この人はほんっとうに......昨日から......ことあるごとに......


「たった1日でこんなにも殺意を覚えたのはあなたが初めてですよ」


「いやぁ~それほどでも~」


「褒めてないの、分かってますよね」


「もう、ノリが悪いんだから」


「いいから早くしてください。何があるんですか?」


 この期に及んでまだふざけるようなら一発殴......るのは無理だから......とりあえず何か仕返ししてやる......


「剣で戦う際の斬撃の種類を知っておいてほしいのよ」


「斬撃の種類......」


「9個あってねまず

上から下→唐竹

右上から左下→逆袈裟

右から左→薙

右下から左上→右切上

下から上→逆風

左下から右上→左切上

左から右→左薙

左上から右下→袈裟斬り

最後に刺突。

剣を使ういじょうは一応覚えておいた方がいいわよ」


「絶対ですか?」


「絶対って訳でもないけど......」


 よし、じゃあ覚えなくてもいいや。暗記とか苦手だし。


「やっぱりこれもテストしようかな」


「......もう何でもいいですよ......」


 この人の前でやらなくていいとか考えるのはもうやめよう......

 とりあえずさっきのメモしないと。たしか冒険者ブックの最後がメモになってるんだったよな。


「それじゃあ次は1時に運動場に集合ね。昨日よりもきついからちゃんとお昼食べといてね」


「......」


 もうやだ......泣きそう......

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