第6話 さくら

「構え......ですか?」


「ええ、正眼とか上段とか少しぐらい聞いたことあるでしょ」


「そう言うのなら確かにありますね。どういうのかって聞かれたら答えられないです

けど」


「その構えを明日から練習していくわ。ちなみに卒業の条件の1つだから厳しくいかせてもらうわよ」


「えぇ......」


「心配しなくてもたった13個だからちゃんと努力すればすぐに出来るようになるわよ」


「だといいんですけどね」


「繋がったですよ~」


「あら、以外と早かったわね。それじゃあ続きは明日にしましょうか。お疲れ様」


「お疲れ様です」


 やっと剣の稽古が出来るのかぁ......厳しいのは嫌やけどめっちゃわくわくしてきた。


「あっ明日は6時半にここ、運動場に集合だから。遅刻したら午後の筋トレ増し増しにするからねー」


「......」


 ホントに1回地獄に落ちればいいのに......

 ソラは校舎に入っていくアカリさんを見ながら思わずそうつぶやいていた。


「早くしないと電話が切れちゃうですよ、ソラ」


「ああごめんごめん、って電話?」


「それがどうしたですか?ほら早くするです」


 そう言ってフィンが受話器を差し出してきた。

 ーーまさか連絡手段が黒電話とは......絶対あの女の遊び心だろうな......うん。


「あ~もしもし?」


「そっちからかけといて待たせるなんて、ふざけているのかしら?切ってもいいかしら?」


 ああそうだよコイツこんな性格だった。でも話聞くまでは切られるわけにはいかないし......


「それはすいません、でも切るのはちょっと待ってください」


「だったら早くしてくれるかしら?私もあまり暇じゃないから」


「分かりました。じゃあとりあえず俺って今何歳ですか?」


「......私をバカにしているのなら今すぐ切るわよ」


「いやいやしてませんって、ただなんか記憶が無くなっててどれぐらい無くなってるのか確認と原因を聞きたかっただけなんですよ」


「記憶......無かったの?」


「あ、はい。無いです」


「......ちょっとまってなさい」


 ふぅなんとか聞けそうで良かった。にしても本当にめんどくさい性格してやがんなこいつ......でもまぁ何年も同じ仕事だけを続けていたらめんどくさくもなるか......もう少し多めに見てやるか。


「分かったわよ」


「何歳でしたか?」


「17歳ね。で、そっちに行ったのが10月よ」


「17......てことは1年半分記憶が飛んでることになるんですけど原因って分かりますか?」


「多分頭を強く打ちすぎたのが原因だと思うわよ」


「あ~やっぱりそうなんですね」


「分かっていたのなら何で聞いたのよ」


「そうかもしれないとは言われましたけど信じられなかったもので......」


「まあいいわ、他に聞きたいことは?」


「あっじゃあもう1つ、この無くした記憶って思い出せるんですか?」


「誰かに奪われたりしたんじゃなくてただ思い出せないだけだと思うからこっちの体が回復してきたら思い出せるようになると思うわよ」


「あ~そういえばこれ仮の体でしたね。忘れてた......」


「それじゃあもう切るわよ」


「はい、ありがとうございました」


 まさか1年半分も飛んでるとは......ていうか高校生活丸々かよ!花のこうこ......いや俺男だから花ではないか......じゃあなんだ?女子が花なら男子は?って何考えてんだよ、どうでもいいことを......腹減ったな......


「ありがとな、フィン。助かった」


「エッヘン!そう思うならもっと褒めるですよ」


「分かったよ。すごい!フィン様最高!超かわいい!」


「えへへ~」


「乗せられやすい!ちょっと天然!扱いやすい!」


「えへへ~。ん?今のは褒めてないですよ!」


「あっはっはっはっは。悪い悪い、よし晩飯食いに行くか」


「やった~なのです!」


 やっぱり扱いやすいな、うん。


ーーーーーーーー

神界


「1日目で気づくなんて意外だったわね。思ったより感が鋭いのかしら?

 あんな記憶忘れた方がいいと思ってをかけたけれど......

あんな死にたいと思うような記憶......」


ーーーーーーーー

廊下


「そういえば今日の晩飯って何か知ってるか?」


「知らないのです。だから楽しみなのです」


「それもそうか」


 そういえば昼におにぎりが出たからなんとも思ってなかったけど、ここ異世界だしやっぱ見たこと無いような物が出てくんのかなぁ......モンスターの肉とか出てきたり?

 ......まっ、まぁ見た目で判断するのは良くないし、何が出ても食べれるならいいか......


「おばちゃん、今日の晩飯って何ですか?」


「おやおや、確か......ソラだったわね。扉を開けた途端その台詞とは......どんだけお腹空いてんだいまったく」


「いやぁ~想像以上にきつかったもんですから」


「しかたないねぇ。ごめんよ、さくちゃんちょっと待っててね」


 ショートカットでボーイッシュな可愛い系の女の子がおばちゃんの前に座っていた。

 そういえば俺より前に女の子が1人来たって行ってたから彼女がそうかな。


「いえ、私はもう食べ終わってますし、続きはまた今度でも大丈夫なので」


「そうかい?じゃあまた明日ね」


「はい、また明日。行こうか、レイ」


「ええ」


 レイと呼ばれた妖精が彼女についていく。羽が4枚有るのと大きさはフィンと同じくらいだが藍色の長髪に同じ色のドレスを着ていてクールで理知的な雰囲気だ。


「こんばんは」


「えっ、あっこんばんは。あの......」


 彼女はソラに挨拶と軽い会釈をしてそのまま食堂を出ていった。


「行っちゃった......」


 名前も聞けなかった......まぁまた今度でもいいか。とりあえず座ろう、疲れたし......


「なぁおばちゃん、今のって......」


「あの子はさくらちゃんって言ってね、あんたより1週間ぐらい前にここに来た子だよ。結構才能があるらしいよ」


「さくらちゃん......か」


 めっちゃ可愛かったなぁ。でもこの世界にいるってことは死にかけてるってことか......かわいそうに。


ーーーーーーーー

廊下


 5階の自室に向かって歩くサクラ。


「あいさつだけで良かったの、さくら?」


「だ、だってぇ......あれだって心臓バクバクしてすっごく緊張したんだから」


「でも彼は......なんでしょ?」


「そ、そうだけど......私あの時と姿違うし......気づいてもらえるかどうか......」


「まったく......じゃあまずはここに来る前のことを覚えているか聞いてみたらどう?」


「う、うん頑張ってみる」


ーーーーーーーー

食堂


「あっそうだ、おばちゃん加速魔法について教えてくれ!特にどこで覚えられるかを!」


「あたしが使っているのは指定した空間の物質の速度を速めると言う物で、そこだけ聞けばすごい物に聞こえるけど、指定できる範囲はあんまり大きくないんだよ。それに生き物に対しては無理だしね。

 でも料理をするときはとても便利でね、お鍋やフライパンと炎を指定すればとっても早く仕上げることが出来るからね」


「なるほど......」


 自分や仲間を加速できれば戦闘が楽になると思ったんだけど、生き物は不可かぁ......まぁ普通の町の人が使えるんだからそんなもんか。


「ちなみにあたしの使っているのは"クイック"と呼ばれる物で町の魔道書店で普通に買うことが出来るよっと。よし、完成!」


 魔道書店ね。でもお金かかるんだろうなぁ......装備にアイテムにスキルにとどんだけ掛かることやら。まぁそれはおいといて......一体何が出てくるのか......


「......あの、これって」


「カツ丼だよ。フィンちゃんはこっちね」


「わ~いなのです~」


 妖精用と思われる小さい器にカツ丼が盛られて出され、フィンはそれをおいしそうに食べている。にしてもカツ丼かぁ......


「嫌いだったかい?」


「いや、そういうわけでは......ただ」


「ただ?」


「魔物の肉みたいなのが出てくるのかと......」


「......そっかあんた今日来たばっかりだったわね」


「はい」


「確かに魔物の肉も食べないわけじゃないわよ。でも、それって狩るところからだから結構大変なのよ。そのせいで昔はとても苦労したらしいわ。

 でも、それを見かねた女神様が牛や鶏、豚なんかをくださったの。もう何百年も前のことらしいけどね。だから今では滅多に食べることはないわね」


 それでカツ丼が出てきたって訳か。まぁ知ってる料理が出てくるのは安心出来るからいいけど。


「ちなみに魔物の肉の調理方法って知ってるんですか?」


「知識としてはね」


「というと?」


「魔物の肉を食べたりするのってどんな人だと思う?」


 どんな?か......手間が掛かるなら値段もするだろうし......


「お金持ち......とか?」


「半分正解ね。残り半分、分かるかしら?ヒントは家畜がどこにいるか」


「それは当然農家に」


「じゃあその農家は?」


「町の中に......っ!そっか、冒険者みたいな旅をしている人達か!」


「そのとうり。その場で食料を調達しないといけないからおのずと魔物とかも選択肢に入ってくるわ」


「てことはそういう人達に聞いた方が確実で詳しい方法が分かるってことですね」


「そういうこと」


 なるほどなぁ......でもよく考えれば理にかなってるな。町には安全にとれる食料があるから危険をおかしてまで外に狩りに行く必要なんか無くなったんだろうな。とりあえずこれに関してはギルドで聞き込みでもしてみようかな。


「ごちそうさまでした。おいしかったです」


「ごちそうさまなのです」


「お粗末様でした」


 食堂を出て4階の自室に向かう2人。

 ーー卒業したらやらないといけないことがだんだん見えてきたな。ていうか卒業するのにどれぐらい掛かるんだろう......


「なぁフィン。ここってどれぐらいで卒業できるんだ?」


「ソラ次第なのですが、今までの人達はだいたい1ヶ月ぐらいらしいのです」


「1ヶ月かぁ......そこそこ掛かるんだなぁ」


 卒業する頃には残り23ヶ月。レベル上げやクエスト他諸々のことを考えると試練1つにつき4ヶ月を目安にしておくか......本当に大丈夫なんだろうか......


「本当にクリア出来ると思うか?」


「大丈夫だと思うですよ。た・ぶ・ん」


「なんだよそれ」


 でもまぁやってみないと分かんないよな。


「よし。やってやるぞ~!」


「その意気なのです!」


 こうして俺の長かった1日目が幕を閉じていった。

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