第32話しくまれたラッキースケベ 其の1・制作発表

「うそっ! 今回は、インテリジェンスさんの、お色気シーンが見られるの?」

「それが、ほんとなんだって。もう、その話題で持ちきりだよ。それにしても、知性の女王であるインテリジェンスさんに、そんなサービスシーンをさせるなんて、イセカイ監督はやっぱりやり手だよなあ」


 俺がインテリジェンスちゃんと、今回やる舞台の制作発表に備えて待機していると、つめかけたマスコミ連中が、そんなうわさ話をしているのが聞こえてくる。


 俺の作品、俺が主演をやり、監督して作り上げた作品が、とんでもない大人気となってしまったのだ。


 そして、『本編だけでは物足りない。制作発表をしてほしい。イセカイ監督が、どんな作品を作り出す心づもりなのか、主役のイセカイがどんな役づくりをしていくのか』なんて要望が数え切れないほどあがって、今回、監督権主演の俺と、主演女優のインテリジェンスちゃんとで記者会見をすることになったのだ。


 で、その知らせを聞いたマスコミどもがわんさか集まって、俺とインテリジェンスちゃんを待ちわびながら、くだらないうわさ話に花を咲かせているのである。


「インテリジェンスさん。あまりネタバレはしないでおくれよ。今回は、あくまで俺の監督作品の宣伝が目的なんだから」

「まかしてくださいまし、イセカイ様。このわたくしの、知性あふれるマスコミ対応で、なんとしても今回の作品を見なければならないという気に、大衆を洗脳させてみせますわ」


 で、そんなことを話しながら、俺のために集まったマスコミの前に出て行く俺とインテリジェンスちゃんである。


 カシャ! カシャ! カシャ!


 俺とインテリジェンスちゃんが、マスコミの前に姿をあらわすと、いっせいに写真を撮ろうとしてカメラのフラッシュがたかれる。テレビのカメラも俺とインテリジェンスちゃんに向けられる。


 俺のような監督権主演をやってしまうような人間に、大勢の注目が向けられるのは仕方がないことだが、少しわずらわしい気持ちにならないでもない。だが、これもファンサービスだ。付き合ってやらなければいけないだろう。


 そんなことを考えながら、俺はインテリジェンスちゃんと記者会見用に、マイクがこれでもかと言うほどたくさんそなえつけられた長机の前のイスに座るのだった。


 やはり記者会見と言えば、長机を前にして座る主役が、その長机に置かれたたくさんのマイクに話す映像がしっくりくる。主役兼監督のこの俺と、主演女優のインテリジェンスちゃんが並んで座って、作品の制作発表をやるというのだ。これほどマスコミがよろこぶネタはそうそうないだろう。


 すると、押しかけたマスコミ連中の中の一人が、さっそく質問をしてくる。


「すいません、インテリジェンスさん。今回はセクシーシーンに挑戦されるそうですが、意気込みをひとつお願いします。そして、できれば、どんなシーンかも説明してください」


 おやおや、この主役兼監督のこの俺を差し置いて、インテリジェンスちゃんにまず質問するとは、ずいぶんこの業界のエチケットを知らないマスコミさんがいたものだ。あんなやつは出入り禁止にしてやろうか。


 そのうえ、いきなりラッキースケベのことを聞いてくるとは。見るからにスケベそうな男だから、どうせ『マスコミの使命』なんてことを口では言いながら、実際は自分のいやらしいやじうま根性を満足させるためだけに、この場に来ているのだろう。


 なんてことを俺が考えていると、インテリジェンスちゃんがうまいこと答えてくれる。


「あら、主役感監督のイセカイ様より先に、このわたくしに質問なされますの。まったく男性というものはしょうがありませんわね。そんなにわたくしのセクシーショットに興味がございますの」


 そんな、インテリジェンスちゃんの受け答えに、記者会見の会場が笑いにつつまれる。ほほう、インテリジェンスちゃんも言うだけのことはある。きちんと主役兼監督の俺をたてた上で、下品なマスコミの質問をうまくかわすとは。これには俺も悪い気はしない。記者会見の会場からはこんな声が聞こえてくる。


「さすがだなあ。あんな気のきいた返しができるなんて。やっぱりインテリジェンスさんは頭がいいんだなあ」

「そんなインテリジェンスさんと、主役として共演できるイセカイ監督は、なんてうらやましいんだろう。セクシーショットかあ。どんなシーンなんだろう。主演男優と主演女優で熱烈なラブシーンを演じるのかなあ。それとも……ああ、とても想像できないや。これじゃあ、実際に作品を見るしかないよ」

 

 そんな記者会見会場のざわつきを聞きながら、インテリジェンスちゃんはにっこり笑ってマスコミに向かって、俺の作品の宣伝をしてくれるのである。


「最初は、恥ずかしいとも思いましたが、イセカイ監督から作品について話を聞くうちに、どうしてもこのシーンが必要だと理解したので、誇りをもってやらせていただくことになりました。みなさん、どうか期待してください」


 インテリジェンスちゃんもよく言ったものだ。自分から俺にサービスシーンだのラッキースケベだのをやりたいと言っていたくせに、そんなことはおくびにもださない。まあ、この記者会見の場で、インテリジェンスちゃんが、『自分からイセカイ監督にセクシーショットをしたいともうしあげました』なんて言われても困るのだが。


 で、そのインテリジェンスちゃんの言葉で、記者会見のボルテージは最高潮に達するのであった。


「やべえ、もう待ちきれねえ。どうにかなっちまいそうだ」

「落ち着けって、まだ撮影もされてないんだぞ」

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