第29話モテモテな俺だがぼっちを演じよう 其の6・本番

「はい、イセカイ君。あんた、校則違反してるよ。なおしなさい」


 そんなふうに俺は大勢の生徒の前で注意される。注意してきたのは、風紀委員長であるモラリティ様だ。なぜ俺ばかり注意されるんだ。目立つのが嫌で嫌でしょうがない俺は、校則違反で怒られるなんてことがないように、地味でおとなしい格好を心がけているのに。


 俺以上に派手で目立つ格好をして、校則違反をしている人間はいくらでもいる。制服を着崩したり、それどころか改造をして元の形がわからなくなっている状態にしている生徒もいる。アクセサリーをつけたり、化粧をしたりしている生徒だっている。だが、そんな生徒が、風紀委員長のモラリティ様に何か注意されることは全くないといってよい。


 モラリティ様が注意してくるのは、校則をきちんと守って、制服はノーマルのままにしておいて、アクセサリーもつけずに、おしゃれなんてまるでせずに、ダサい格好をしている俺だけなのだ。いったい、俺がどんな校則違反をしたというんだ。


「イセカイ君。あんた、だらしないわよ。校則にあるでしょ。『本校の学生らしくこころがけること』って。シャキッとしなさい。なんだかくさいわよ。ちゃんと風呂入ってるの」


 なんだそれは、『本校の学生らしく』って、そんな言葉、いくらでも解釈できるじゃないか。そんなアバウトな校則に違反しているからって、俺はたくさんの生徒が見ている中、おおぴっらに注意されているのか。校則で明確に定められている制服の規定や、アクセサリーの禁止にはっきりと違反している生徒がいくらでもいるって言うのに。


「で、でも……ほかにも……」


 だが、そんなふうに思っていることを言おうとしても、うまく言葉が出て来ない。そんなしどろもどろな俺に、モラリティ様があふれんばかりに注意の言葉をあびせてくるのだ。


「なによ、文句があるのならはっきり言いなさいよ。『自分のこの扱いは不当である。なぜなら、校則にはこうこうこう定められているから、風紀委員と言えどもそう言った言動は許されない。このことはしかるべき手段で抗議させていただく』みたいにさ。どうだって言うの。文句あるの。ないの」

「す、すいません」


 モラリティ様があまりにもぺらぺらしゃべってくるので、俺はその迫力に押されてあやまってしまう。


 そんな俺を見て、周りの見物客は、ざまあみろといった感じで笑いながらうわさしあっている。


「だっせ。イセカイのやつ、また校則違反して怒られてるよ」

「怒られるのがいやなら、校則違反なんてしなければいいのに。校則違反するから、あんなめにあうんだよ」


 そんなことを言われているが、俺だってわかっている。こうやって人前で説教されるのがいやだから、校則を守って地味な格好をしているのだ。」


 だが、俺がいくら説教されないようにおとなしくしていても、風紀委員長であるモラリティ様が、なにかしら俺に注意してくるのだ。『ぼさっとしているな』、『なんだその目は』、『態度が悪い』といったように。


 そして、『おとなしく校則守ってろよ』といった陰口とはことなる内容のことを、はきすてるようにしゃべりあっている方々もいらっしゃる。いわゆる、不良と呼ばれる方々たちだ。


「ったく、イセカイのやつ。なに言われるがままにあやまってるんだよ。あいつみてえなのがいるから、風紀委員が調子に乗るんだよ」

「だよなあ、なんであんな何かあればすぐにあやまるようななやつが、校則違反するんだよ。ポリシーってものがないのかよ」


 ああいう方々は、ひとめではっきりそうとわかるように校則違反をしでかしている。当然のことながら、生徒指導の教師に注意されるが、だからといって俺みたいにぺこぺこあやまったりはしない。むしろつっかかっていく。と言うよりだれかれ構わずつっかかっていきたいから、わざと目立つように校則違反をしているとすら俺なんかは思ってしまう。

 

 で、そんな方々が普段はどんな相手につっかかっていくかというと、俺である。


 不良さんたちは、風紀委員長であるモラリティさんの言われるがままになっている俺がたいそう気に入らないらしく、ひまさえあれば俺にちょっかいをかけてくる。俺は不良さんたちのひまつぶしの道具なのである。


 不良さんたちは、うじうじしている俺以外にも、いろいろなことに腹を立てているらしく、そんないらだちをすべて俺に向けてくるのである。当然人のいないところでというサービスをしてくれることはなく、教室だろうと廊下だろうといっさい遠慮せずに俺に暴力をふるってくる。


 そして、俺が不良さんたちに暴力をふるわれている様子を見て、他の普通の生徒たちが、『あっ、イセカイ君がいじめられている。やめさせなきゃ』なんてことを考えるかと言うと、けっしてそんなことはない。


 むしろ、『おっ、イセカイはいじめてもオーケーなやつなんだな。こりゃあいいや、おもしろそうだ、さっそくやってみよう』なんて考えて、俺をたっぷりいじめてくるのである。


 というわけで、俺がいじめられることで、不良さんたちが他の生徒に危害を加えることもないし、学校の備品を壊すこともなくなる。普通の生徒たちも、楽しい娯楽を手に入れられて、『今日も学校に行こう』なんて思ってくれて、学校をさぼる生徒がいなくなる。


 俺のおかげで、学校運営が非常にうまくいっているのである。


 少しは、俺に対して感謝してくれても良いのではないだろうか。


 

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