第28話モテモテな俺だがぼっちを演じよう 其の6・打合せ
「それで、イセカイ。風紀委員長であるこの私を、イセカイの部屋に呼びつけて二人きりにさせたんだ。これは、権力をかさに着て、一般生徒に好き放題する悪徳風紀委員長である私が、その権力者にほかならないイセカイがに、好き放題されるというパターンなんだね。ちっぽけな権力で得意になった器の小さい人間が、もっと大きな権力に身の程を知らされるはめになる。ああ、考えただけでドキドキしちゃうなあ」
そんな、強いものにこびへつらい、弱いものにいばり散らす、度量の狭い人間の見本みたいなことを俺に言ってくるモラリティちゃんである。
「それもいいんだけどね、モラリティさん。今回は、君に俺を一般生徒、それも最低レベルの一般生徒として、思う存分権力をかさに着てもらいたいんだ」
「どういうことだよ、イセカイ。この世界の最高権力者であるイセカイにおべっかを使いまくるのがこの私にとっての最高のしあわせなのに、それじゃあまるで逆じゃないか」
まあ、俺のご機嫌取りのモラリティちゃんがそう言うのも理解できるので、しっかりと今回に台本について説明するのである。
「ええと、モラリティさん。風紀委員長としての取り締まりの仕方についてちょっと聞きたいことがあるんだけど」
「なんだよ、イセカイ。自分より立場が上の人間にはきちんとへいこらすることかい。それなら、いまこうしてイセカイにしているじゃないか」
おべっかを使うにしても、いろいろな使い方があるだろうが、『今からおべっかを使います』と宣言しておべっかを使うというのは、珍しい部類に入るのではないだろうか。そんなことを考えながら、俺はモラリティちゃんへの質問を続けるのである。
「そうじゃなくてね、モラリティさんは一般生徒を、権力を盾にして取り締まっているわけだけど、それは、全ての一般生徒に対して、まんべんなくしているのかな」
「いやいや、イセカイともあろうものが何を言ってるんだよ。そんなの支配の仕方としては、下の下もいいところだよ。そんなことしたら、全生徒の反感が風紀委員長の私に向かって、あっという間に団結されて、わたしの地位がおびやかされてしまうではないか」
「だと思ったよ」
教師のマニュアルとして、『スクールカーストが上の生徒にはあまく、スクールカーストが下の人間には厳しく接するべし。全生徒をわけへだてなくあつかうなんてもってのほかである』と言うのがあるらしい。
ひょっとして、この世界でもそんなものがあるかもしれないかと思って、教師と同じく生徒を取り締まる立場の風紀委員長であるモラリティさんに聞いてみたが、案の定だったようだ。
「まあ、スポーツができたり、人当たりが良くて、周囲から好かれている人間には、あまり厳しくしないというのが基本だね、イセカイ。そういうトップレベルの人間に高圧的に出て反発されると、他の生徒をまとめ上げられて、集団で私たち風紀委員に対抗されるおそれがあるからね。そうなったらたまったものじゃあないよ」
「ふんふん」
「とは言うものの、そういった上のレベルの人間は、世渡りの仕方ってのもよくわかっているから、そんな表立って私たち風紀委員に逆らってはこないけどね。学校中で認められてちやほやされているから、余裕があるって言うのかな。校則はそれなりに守ってくれているから、別に私たち風紀委員が騒ぐ必要もないのさ」
「なるほどお」
「ああ、イセカイは別だよ。イセカイは校則だのなんだのと言ったものははるかに超えた存在なんだから、校則なんて気にする必要はないんだからね。私は、イセカイのためなら、イセカイの校則違反も堂々と見て見ぬふりをするよ」
「ありがとう、モラリティさん」
そんなお偉いさんの不祥事はきちんと見逃す、したっぱ警察官みたいなことを言ってくるモラリティちゃんである。こういう人間は、俺みたいなお偉いさんには都合がいい存在である。
「で、ケンカに人生のすべてをささげているようなおらついた人間は、これ見よがしに私たち風紀委員に逆らってくるね。けど、そういった人間には、それなりの対応をする人材がいるからね。私みたいな風紀委員長が直接手を下す必要なんてないのさ。具体的に言うと、生徒指導のこわもておじさん先生に告げ口しておしまいだね。あんな体力だけで先生になったような人間には、このくらいの使い道しかないからね」
「へええ」
「あんないかにも、女の子にもてなさそうなおじさん、ちょっと私が色気を振りまけば、ほいほい私の言う事を聞いてくれるよ。あっ、でも、私が愛しているのはイセカイだけだからね。イセカイが嫌なら、いますぐこんなことはやめるよ。でも、その場合は、私が不良たちに仕返しされちゃうかもしれないから、イセカイに守ってくれたらうれしいな、なんて」
「それはともかく、だったら、どういった人間に高圧的な態度をとるの? モラリティさんみたいな風紀委員長さんは」
男を自分の色気で操ることによろこびを感じているに違いない、尻軽女のようなモラリティちゃんの言うことは横に置いといて、俺は話の本題に入るのだった。
「そんなの、決まっているじゃないか、イセカイ。友達なんて一人もいない、いやなことがあってもだれにも相談できなさそうないじめられっ子をターゲットにするのさ」
「ふうん」
「そんないじめられっこを、大勢の前でこれ見よがしにしかりつけるんだよ。これといった校則違反をしてなくても、とにかくいいがかりをつけるんだ。そうやって、『ひまな連中はこいつをいじめて時間をつぶしていなさい』とアピールするんだ。そうすると、本来はタバコを吸ったり、窓ガラスを割ったりするようなことに無駄なエネルギーをそそぎこむような連中が、そのいじめられっ子をいじめることにエネルギーを使ってくれるからね」
「ほほお」
「そうすれば、タバコを吸ったり、窓ガラスを割ったりするような不良生徒がいなくなって、私たち風紀委員は余計な仕事をしなくてすむし、学園の生徒が校則違反をすることもなくなる。すばらしいシステムじゃないか」
そう言って、やんちゃざかりの子供たちのまとめ方を俺に教えてくれるモラリティちゃんである。で、俺が一つ質問するのである。
「でも、風紀委員が、そんないじめをうながしちゃっていいの」
「だって、『いじめをしてはいけない』なんて校則に定められてないじゃない」
そうあっけらかんと言い放つモラリティちゃんである。なるほど、これで今回の台本は決まった。
「よし、それでいこう」
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