第27話モテモテな俺だがぼっちを演じよう 其の5・反省会

「うん、もういいや。カメラ止めてくれる」


 俺がそう言うと、撮影が終わって、現場がリラックスした空気となる。で、自分が教室に入ったところでおしまいとなったメディカルちゃんは、どこか不満そうである。まあ、主演女優と聞いていたのに、最後にちょろっと姿を見せて、はいおしまいというのは、あんまりといえばあんまりかもしれないし、その気持ちもわからないでもない。


 ここは、名監督によるフォローがあってしかるべきだろう。


「いやあ、メディカルさん。最後にメディカルさんがビシッとしめてくれたから、いい作品となったよ。この作品の主演女優は、何と言ってもメディカルさんだよ」

「主演と言ったって、女の子はわたくしひとりしかおりませんでしたわ」


 メディカルさんの言う通りだ。主役の俺はもちろん、黒服連中も、ひそひそうわさ話をするのも全員男だったから、主演女優と言われったって、うれしくないのは当たり前かもしれない。


「それに、わたくし、もう少し出番が欲しかったですわ。イセカイ様と、二人きりで、あんなに熱心に打ち合わせをしたのはなんだったんですの」


 そう言ってふくれっつらをしてそっぽを向くメディカルちゃんである。これはこれでかわいらしいので、そのふにふにしたほっぺたをしばらくながめている俺である。


 そうして俺が少しの間一言も言わないでいると、メディカルちゃんは、『わたくしったら、こんなふうにふきげんな感情を表に出してしまって、なんてはしたないんでしょう。ひょっとしたら、イセカイ様のご気分をそこねてしまってしまったのではないでしょうか。もしそうだったらどうしましょう』といった感じで、俺の様子をちらっとうかがってくる。いかにも育ちのいいお嬢様と言った具合の、俺への配慮が見て取れる。


 で、俺がそんなこちらをチラチラ見て来たメディカルちゃんを、にやにやしながら『ちっとも気分なんて害していませんよ』と言った感じで見物しているのだ。すると、メディカルちゃんは、『わたくし、怒っているんですからね!』と言った様子で、ふたたびそっぽを向くのである。


 俺はそんなご機嫌斜めな主演女優さんを、なだめすかすのである。


「違うんだよ、メディカルさん。たしかにメディカルさんの出番はラストシーンに教室に入ってきておしまいだけどさ、だからといって、メディカルさんがろくにスポットライトを浴びることがないちょい役と言うわけじゃないんだよ」

「どういうことですの、イセカイ様」


 俺の説得に、メディカルちゃんは興味を示したようだ。俺は話を続けるのである。


「今回の演出ではね、周りから嫌われまくっているねくらなぼっちのイセカイ君と、クラスの誰からも好かれている天使のようなメディカルさんをね、闇と光として対比させたいんだ」

「ま、まあ、天使のようなだなんて……でも、イセカイ様が嫌われている闇だなんて、わたくしにはピンときませんわ。あんなにも周りの方々から好意を抱かれているイセカイ様でいらっしゃるのに」


 周りの俺に対する感情と言うのは、好意と言うよりも、『自分もああなりたいなあ』と言うただのうらやましがりやの妄想であるような気がするが、それはともかく、俺は演出の意図を説明し続けるのである。


「だから、それは台本の上での役どころの話であってね。とにかく、この世の影の部分でしか生きてきて来なかったのような主人公が、最後のシーンで、この世界でさんぜんときらめいている、メインストリートのど真ん中だけを歩いてきたような、輝かしい存在のメディカルさんを見てしまって打ちのめされるというのが、今回の舞台の肝心なところなんだ」

「イセカイ様が、わたくしを見て打ちのめされますの?」

「そう、だからラストに教室に入ってくるのは、メディカルさんじゃないといけないんだ。これが、そのあたりにいくらでもいそうな普通の女の子じゃあだめなんだ。いや、クラスで一番ぐらいでもだめだ。大学病院の教授の一人娘であるお嬢様の中のお嬢様である、メディカルさんだからこそ、光と闇の対比がはっきりするんだ」

「つ、つまり、わたくしがやった役は、わたくしにしかできない役で、だからこそイセカイ様は、わたくしにあの役をやってほしかったと言うことですの」


 メディカルさんの言葉に、しっかりとうなずく俺である。


「そ、そういう事なんでしたら、わたくしも何の不満もないと申しますか、むしろそんな難しい役どころをやらせてもらって、光栄と申しますか……」


 ようやくメディカルさんの機嫌も良くなったようだ。扱いが難しい大物女優をその気にさせるのも、監督の腕の見せ所の一つである。


 そんな俺とメディカルちゃんのやりとりを見ていた、スタッフAのシンマイちゃんが、ひとりごとを言うのである。


「すごいなあ、イセカイ監督は。あんなに何でもできるパーフェクトな人間が、どうしてあたし達みたいな、周りの人とうまく話せない一人ぼっちの人間の内面を描けるんだろう」

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