第25話モテモテな俺だがぼっちを演じよう 其の5・打ち合わせ

「で、メディカルさん。なんだか調子が悪いなんてことを言っていたけど、平気? 次にメディカルさんに主演してもらう台本があったんだけど、体の具合が悪いなら無理かなあ」


 そんなことを、俺は、『なんだか体の調子が悪いの。ねえ、イセカイ様、すこし診察して、二人きりで、イセカイ様の部屋で』なんて言ってきたメディカルちゃんに、俺の部屋で告げる。


「わたくしが主演の台本? どんな内容ですの、イセカイ様。早く教えてくださいまし」


 すると、ついさっきまで、歩くのもつらいといった感じで、俺によりかかっって部屋までつれてきてもらったメディカルちゃんが、俺に食い入るように近づいてくる。


「落ち着きなよ、メディカルさん。体の調子は大丈夫なの」

「平気ですわ。もうすっかり治りましたわ。さすがイセカイ様、もうわたくしを手当てしてくださったんですね」


 俺がそう心配すると、メディカルちゃんは、自分が元気いっぱいだと言うことを俺に見せつけてくる。その場で体操なんてし始めた。たいした切り替わりっぷりだ。これなら、俺の台本にあった演技をきっちりこなしてくれるだろう。


「それならいいんだけど。じゃあ、俺の台本の説明始めるね」

「はい、このわたくしにまかせてくださいまし」


 こうして、今回の舞台の打ち合わせが始まるのである。


「えっとね、俺は、メディカルさんの、どんな人にも分けへだてなく、医学にたずさわる人間として親身になっているところは尊敬しているんだ」

「まあ、そんなこと、当然ですわ。大学教授の娘として生まれたからには、持たざる者に慈悲の心をもって接するのは当たり前ですもの」


 そんな、『自分は上級国民である』と言うことをかくそうともしないメディカルちゃんである。生まれながらの勝ち組さんは、下層階級への差別意識が、ナチュラルに染み付いているのかもしれない。この異世界で頂点に立つ俺には、メディカルちゃんが負け組をど思っていようが知ったことではないが。


「それで、仮に、仮にだよ。この俺が、この世界に召喚されてはみたものの、なんの取り柄もなくて、しかも、なにかこう、見ているだけで気分がイライラしてきて、いじめたくなるようなうじうじしたタイプで、そんな俺が病気で困っていたら、メディカルちゃんは看病してくれたかな」

「その、イセカイ様が何を言っているか良くわかりません。医学に対する、たいへん深い知識をお持ちになっているだけでなく、様々な分野でご活躍なされているイセカイ様が、そんなひどいタイプだなんて、想像できませんもの


 そんなことを、わけがわからないと言った様子で言ってくるメディカルちゃんである。まあ、これだけこの世界で脚光をあびている俺が、誰からもさげすまれているなんて仮定は、メディカルちゃんには厳しいかもしれない。


「えっと、じゃあね、これだけかわいらしいメディカルさんが、親身になって手当てしてくれたら、勘違いしちゃう男の子だっているんじゃないのかなあ。恋愛感情をいだいちゃったりなんかしちゃったりして」

「まあ、そう言うことも時にはございますが……」


 やっぱりあるみたいだ。ちょっとやさしくされただけで、『俺のこと好きなんじゃね』なんて思い込んでしまうバカな男は、どの世界にも存在するらしい。メディカルちゃんに本気でほれられている、この世界の主役兼監督の俺には関係ない話だが。


「そうなったらどうするの? だって、恋人として付き合うってわけにはいかないじゃん」

「それは、なんとなく察していだだいておりますが。たいていの人間は、すこしとりとめもない話をしていれば、自分の話している相手が、プライベートなつきあいもしたいと思っているか、ただ社交辞令で話しているかぐらいの見当はつきますから」


 なるほど、上流階級の人間は、うわっつらだけの会話でその場をしのいだり、それをお互いに察しあったりするスキルを持っているらしい。だが、そんなものを持ち合わせていない人間だって、世の中には大勢いるわけだが、そんな人間にはどうするのだろう。


「たいていってことは、そうじゃない人間もいるってことだよね。メディカルさんが、個人的な付き合いをしたくないってことをそれとなくにおわせても、全然気付かず、無神経にグイグイ距離を詰めてくるような、人間関係にうといやつが」

「まあ、そんな困った方も中にはいらっしゃいますが」


 やはりこの世界にもいるのか。そんな接近禁止命令を、裁判所に出されそうな人間が。


「そんな困った人間はどうするの、やっぱり、学校になんとかしてもらうの」

「そんなことしませんわ、我が家の評判に傷がつきますもの。悪いうわさはすぐに広まるものですわ」


 我が家の評判ときたか。いかにも上流階級の人間が言いそうな言葉である。


「じゃあ、メディカルさんの家ではどういった対処をなされるのかな」

「わたくしの家と言うか、大学病院には、そういう困った方への対応を専門になさっている方々がおりますの。わたくしたちがせいいっぱいの手当てをしたと言うのに、変な文句をつけてくる方々が。医学といっても、手遅れとか色々ありますのに、『家族が死んだのは、病院の責任だ』なんてことを言ってくる方々が」


 大学病院にありそうな話である。


「それで、どんな対応をするのかな、」

「わたくしは知りませんわ。なんでも、わたくしには知る必要はないことなんでそうです」


 トップの人間は、実際に手を汚すどころか、知りもしないことがこの世界にもあるらしい。『秘書が勝手にやったことだ』パターンとでも言ったらいいのか。


「よし、それでいこう」

「それでって、どういうことですの、イセカイ様」

「それを今から説明するんだよ、メディカルさん。ああ、一応言っておくけど、この台本は、俺の想像だからね。別に事実だろうが、そうでなかろうが、それは問題じゃないんだからね」

「はあ……」


 こうして、俺とメディカルちゃんとの打ち合わせは進行していくのである。

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