第24話モテモテな俺だがぼっちを演じよう 其の4・反省会
「うん、もういいや、カメラ止めてくれる」
俺がそう言うと、本番中はクラスの中心人物だったカリスマスターちゃんが、急いで駆け寄ってくる。
「平気、イセカイプロデューサー? その、『本番前に思いっきりやってね。はんぱなものは作りたくないから』なんて言っていたから、その通りに思いっきりやったけど、大丈夫?」
「平気平気。だって俺だよ。あれくらいたいしたことないさ」
じつにいい撮影後の雰囲気だ。本番前にあいさつ。そして本番。終わった後にまたあいさつ。こういうマナーがちゃんとしていると、いい演技ができる。本来ドッキリとはこう言うものだ。あるいは、対価としてきちんとギャラが支払われるかだ。
だと言うのに、テレビで流れている部分だけを見て、いきなりちょっかいをかけて、そのみっともない反応を見て大笑いして、それでおしまいという連中のなんと多いことか。なんで、金ももらっていないのに、お前らが笑うのにこの身をささげなければならないんだ。
で、この異世界では、ちゃんと本番後に、主演女優もエキストラもスタッフも、俺を心配してくれる。当然だ、俺はイセカイ様なのだから。
「あ、でも、少しお尻が痛いかな。カリスマスターちゃん、肩貸してくれる」
「は、はい、わかりました、イセカイプロデューサー」
本番中は、クラスの絶対王者として君臨していたカリスマスターちゃんが、現実では主役兼監督のこの俺を、献身的にささえてくれる。これこそ俺にふさわしい。
「ああ、シンマイさん。イス持ってきてよ、俺の座るやつ。でも、変なドッキリは仕掛けないでね」
「今すぐ持ってきます、イセカイ監督。けしてそんなそそうはしませんし、させません。しっかり見張ってます」
例に俺のためにかいがいしく働いてくれる、いい感じに地味な感じのスタッフAちゃんに、イスを持ってきてもらうよう頼むついでに、軽いジョークを飛ばしたつもりあったのだが、シンマイちゃんは本機に受け取ったようだ。しかし、これはこれで気分がいい。
主演女優として俺の言うことに全てしたがってくれるのもアイドルの女の子もいいが、裏方として、まめまめしくサポートしてくれるでしゃばらないタイプの女の子も、俺の好みだったみたいだ。
そして、シンマイちゃんの持ってきてくれたイスに座った俺は、今回の撮影の感想を言いだすのだ。俺は座っているが、他の連中は気をつけの姿勢で、俺の言うことにしっかりと耳を傾けている。
本番中に、みっともなく床に転げ落ちて、クラスの連中に見下されているのはたいへん気分が悪かったが、こうして一人だけどっしりと座って、直立不動している連中を見上げるのは、なんとも言えず気分がいい。これぞ、主演兼監督のだいごみである。
「それで、どうだった。俺の演技。やっぱり、しろうとのやるリアクションって設定だから、面白すぎてもダメじゃない。うまいこと、プロフェッショナルのやるアマチュア演技ってのができてたかなあ」
そんな俺の問いかけに、エキストラどもがおべんちゃらを使ってくる。
「いや、見事でした。イセカイ監督の台本だと、クラスの中心人物に笑い者にされるイセカイ君ってシチュエーションですから、イセカイ監督は、カリスマスターさんの引き立て役でないといけないわけですが、そこのところがたいへん良くできていたと思います」
「この世界を、自分を中心にまわしているイセカイ監督が、ああいう主演女優をかがやかせる助演もできるなんて、僕たちわき役専門役者の立場がなくなっちゃいますよ」
なんて、みごとなごますりを主役兼監督の俺にしてくるエキストラどもだ。こんなやつらは、自分より上の人間にはおもいっきりへいこらしているが、自分より下だと認識した人間には、なにをしても許されるなんて思っているに決まっているのだ。まったく、世の中クズばっかりだ。
だが、俺の本心をバラしてしまっては、この楽しいフィクションであふれている俺の異世界生活が終わってしまう。もうしばらくは、ふところがおおきい大物監督を演じていようではないか。
「いやあ、ドッキリっていうのも、やってみるとあんがい楽しいものだねえ。どう、カリスマスターさん。またやってみない。今度は俺が仕掛ける側で、カリスマスターさんがドッキリをやられるほうってことで」
「えええ、あたしがドッキリ仕掛けられちゃうんですか。なんだかこわいです、イセカイプロデューサー。で、どんなドッキリやるんですか」
こわいと言いながら、やる気まんまんで俺の話に乗ってくるカリスマスターちゃんである。当然だ。この俺に、ドッキリを仕掛けられるなんて、アイドルにとってこのうえもない名誉なことなのだ。どんな女の子だって飛びつくに決まっている。
それに、ドッキリの内容を、カリスマスターちゃんが前もって聞いていることからもわかるように、前もってどんなドッキリで、どういったリアクションをカリスマスターちゃんにとってもらうかを、決めておいたうえで撮影するのだ。
早い話が、カリスマスターちゃんには台本どおりに演じてもらうのであって、本当に何も知らないカリスマスターちゃんに、いたずらを仕掛けるわけではないのだ。
これを勘違いして、学校のクラスでテレビのまねなんかしたりして、なんの打ち合わせもなしに何かしでかして、ドッキリだのなんだと大笑いしている連中がいるが、そう言った人種には、そんなことをやられる側の人間の気持ちも考えてもらいたい。
もちろん俺は主役兼監督のなので、実際にそんなことをされたことはないが、主演女優にそんなことをしてはいけないと言うことはよくわかっている。
で、俺はカリスマスターちゃんに、いろんなドッキリを提案するのである。
「そうだね、本番中にナイフを持ったファンに襲われるカリスマスターちゃんを、俺がかっこよく助けるドッキリがいい? それとも、いきなり人気がガタ落ちして、レギュラー番組降ろされて、事務所もクビにされたカリスマスターちゃんを、俺がやさしくなぐさめて、何日もつきっきりで演技指導するドッキリがいい? それとも……」
そんな俺の言うことを、うれしそうに聞いているカリスマスターちゃんなのである。
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