第23話モテモテな俺だがぼっちを演じよう 其の4・本番
「いえーい、ドッキリだーいせーいこーう」
そんなことを大声で言われながら、俺は座ろうとしたイスを後ろに下げられる。そこにあるはずのイスがそこにないので、当然の結果として、俺は教室の床におしりをしたたかにぶつけ、痛みのせいで何か言うこともできずに、ただ教室の床でぶざまに体をよじらせている。
そんな俺のみっともない姿を見て、教室中が大爆笑に包まれる。
「やべえ、なんだよ、あれ。うっわ、痛そー」
「イセカイ君、かわいそー。あたしがあんなことされたら、自殺ものよ」
そんな笑い声を一身にあびて、俺のイスを引っ張るというドッキリを仕掛けた張本人である、このクラスの中心であるカリスマスター様が、ギャラリーの注目を集めている。
ちなみにカリスマスター様は、クラスのみんなに笑われているのではない。クラス中を笑わせているのだ。俺を除いて。
それを、カリスマスター様も、クラスの連中も、そして俺自身もしっかりわかっているからこそ、カリスマスター様はこのクラスの中心人物でいらっしゃるのだ。
で、そのカリスマスター様が、ありがたくも俺にダメ出しをしてくださるのだ。
「ねえ、なによ、そのつまんないリアクション。もうちょっと、こう、あるでしょう。『いってー』とか、『なにするんですかー、カリスマスターさーん』とか。せっかくこのあたしが、あんたみたいなダメダメ君を面白くしてあげてるのよ。もうちょっと、気のきいたリアクションしなさいよ」
そんなカリスマスター様のダメ出しに、クラスの連中ははますます大笑いするのである。
「無茶言うなって、カリスマスターちゃん。イセカイみたいなやつに、そんな芸当できるはずねーよ」
「そうよ、イセカイみたいなつまらないやつは、カリスマスターちゃんに見せ場をあたえてもらっただけで、十分すぎるんだから」
くやしいが、クラスの連中の言う通りである。俺には、テレビの芸人さんみたいなまねはとてもできない。テレビみたいにとつぜんドッキリを仕掛けられて、おもしろおかしいリアクションをするなんてこと、俺にはできないのだから。
だけど、俺のクラスでのポジションは、ドッキリのやられ役というポジションしかないのである。
もしここで俺が、『やめろよー、みんなー』なんて大声の本気モードで泣き叫んだらどうなるであろう。確実にクラスの全員がおもしろがって、俺をこづきまわし始めるだろう。クラスの全員が、俺をけっとばしたり、俺にボールをぶつけたりするのだ。さすがにそこまでされてはたえられない。
だが、ドッキリと言う形式ならば、仕掛け人はカリスマスター様一人だけなのだ。なぜなら、カリスマスター様には華があるのだから。
以前、似たようなドッキリをクラスの他のやつが仕掛けてきたことがあった。とりたててとりえのないやつだったが、おれをいじめることで自分のクラスでの存在意義をアピールしたかったのかもしれない。
で、おおすべりした。俺はプロの芸人さんじゃないし、ドッキリを仕掛けてきたやつだって、たいして面白くもないやつだ。つまらないやつがおもしろいことをしようとするとああなるといういい見本である。
どうもその後で、その勘違い君はカリスマスター様にきつくしぼられたらしい。それがうわさとして広まって、カリスマスター様にドッキリを仕掛けられる俺を、クラスの他の連中は遠巻きに見て笑うだけ、という図式が出来上がったのだ。
と言うわけで、俺がドッキリのやられ役を演じている限り、俺に何かしてくるのはカリスマスター様一人だけなのだ。このポジションは死んでも守り通さなければならない。たとえ水をぶっかけられようが、机に落書きされようが、教科書を窓から投げ捨てられようが。
教師にも、『別にいじめじゃないです。テレビのまねをしているだけです』と言ってある。教師に相談しても状況が良くなるとは思えないし、ヘタに『みんな、いじめはやめるのよ』なんて言われて、俺がチクリ屋として立場が悪化してもかなわない。教師も『そう、それなら問題ないわね。困ったことがあったら、いつでも相談するのよ』なんて言ってきたし、このままがベストなのである。
だから、俺はドッキリのやられ役として、できる限りをするしかないのである。
「やーめーてーよ、カリスマスターさまー。そんなリアクション芸なんて高等技術、できるはずないじゃないですかー。無理言わないでくださいよー。これがいっぱいいっぱいですー」
こんな感じで、俺はせいいっぱいピエロを演じるのだ。
クラスの連中はゲラゲラ笑っている。だが、しっかり自覚していなければならない。この大笑いは、カリスマスター様がもたらしたものだ。俺はけして調子に乗ってはいけないのである
で、かんじんのカリスマスター様はと言うと……
「しょうがないなあ、今日はこれくらいで勘弁してやるか」
と言った具合だ。良かった、カリスマスター様のお気にめしたようだ。クラスの連中も笑っている。
「すごいよなあ、カリスマスターちゃん。あんなイセカイみたいなので、ここまで面白くできるんだから」
「カリスマスターちゃんと同じクラスで、ほんと良かった」
これで、今日も何事もなく過ごせそうだ。
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