第22話モテモテな俺だがぼっちを演じよう 其の4・打ち合わせ

「ねえ、イセカイプロデューサー。イセカイプロデューサーの部屋に二人っきりで、これから何をするの。わかった、枕営業ね。アイドルが大物プロデューサーにすることなんてそれしかないものね。じゃあ、今すぐ枕するわね」


 そんなことを、俺の部屋で、カリスマスターちゃんが言いながら俺にグイグイ迫ってくる。


 アイドルに枕営業を強制する大物プロデューサーと言うのは、なかなかに魅力的なシチュエーションだが、それも、アイドルが嫌がるからであり、カリスマスターちゃんみたいに積極的に枕営業をリクエストされては、面白みも何もあったものではない。


 と言うわけで、俺はナンバーワンアイドルからの枕営業の誘いを却下して、台本の打ち合わせ、つまり作品づくりにしか興味がないカタブツプロデューサーになりきるのだ。


「カリスマスター君、僕はそう言ったことには興味はないんだ。僕が興味があるのは、いい映像作品をつくる、ただそれだけなんだ。わかったら、その品のない服装をなんとかしたまえ。なんだねその服装は、はしたない。それが目上の人間と二人きりでいる時の服装かね」

「なによ、イセカイプロデューサーったら、変な演技しちゃって。今は本番じゃないんだから、演技する必要なんてないじゃない。それとも、アドリブ劇でも始めるつもり。でもあたし、そういうの苦手よ。あたし、イセカイプロデューサーが台本作ってくれないと、もう何にもできなくなっちゃったんだから。責任とってよ」


 そんな俺の心をわしづかみにするようなことを言ってくるカリスマスターちゃんである。天然だか計算だかわからないが、さすがはナンバーワンアイドルだ。


「俺の台本がないと何にもできないって、カリスマスターさんは俺がこの異世界に来る前から、トップアイドルだったじゃあないか。その時はどうしてたんだよ」

「過去のことなんてどうでもいいじゃない。と言うより、イセカイプロデューサーが作ってくれる台本とか歌詞とかを知っちゃたから、もう昔みたいにはやったってつまんないんだもん。だから、イセカイプロデューサー、枕営業させてくれないんだったら、早く台本あたしにたたきこんでよ」


 そんなことを言われて、俺はタジタジになってしまう。


「で、イセカイプロデューサー。服どうするの。どうしてもっていうのなら着替えてくるけど。それともここで着替えちゃう? プロデューサーの部屋だったら、衣装の一つや二つあるんでしょう」

「そのままの服装でいいから始めよう、カリスマスターさん」


 実際のところ、カリスマスターちゃんの服装は、俺の直球ど真ん中なのだから。


「ええと、じゃあね、カリスマスターさん、今回は、カリスマスターさんに俺をいじめてもらいたいんだ」

「そんなのやだ、イセカイプロデューサーをいじめるなんて、イセカイプロデューサーがかわいそう」

「か、かわいそうですか、カリスマスターさん」


 この異世界でなんでもかんでもナンバーワンである俺をかわいそうなんていう奴は、今までこの異世界にはいなかった。では、この異世界に召喚される前はどうだったかと言うと、かわいそうと言われたことはある。ニュアンスに多少の違いはあるが。


 カリスマスターちゃんのような好意的な『かわいそう(イセカイプロデューサーをいじめたくない)』ではなく、悪意のこもった『かわいそう(ああはなりたくない)』みたいな感じの。


 で、俺はカリスマスターちゃんに、この企画の目的を説明する。


「そのね、カリスマスターさん、これはお互い合意の上でやることなんだよ。おしばい、おしばいなんだ。ヒーローものの主役と悪役みたいな。で、カリスマスターさんには、俺をいじめる悪役をおねがいしたいんだけど、そうするとカリスマスターさんのアイドルとしてのイメージダウンになっちゃうかな」

「別にあたしのイメージなんて、イセカイプロデューサーのためだったら、どうなってもいいけど……本当にイセカイプロデューサーはそれでいいの」


 あくまで、俺のことを第一に考えてくれているカリスマスターちゃんである。アイドルなんて、でしゃばりで目立ちたがりで、なによりも自分がかわいいわがまま女しかいないと思っていたのだが、この異世界ではそうでもないようだ。


「じゃあ、段取り決めようか、カリスマスターちゃん」

「うん、イセカイプロデューサー。それで、どんなことをすればいいの」


 そう俺の言うことを素直に聞いてくれるカリスマスターちゃんに、俺は今回の舞台設定を説明するのだ。


「えっとね、テレビなんかでよくやっている、ドッキリの仕掛け役みたいなことを、カリスマスターさんにはやってほしいんだ」

「あたしがドッキリの仕掛け役をやると、イセカイプロデューサーをいじめることになるの?」


 そんなことを言うカリスマスターちゃんは、小さな頃からかわいいかわいいと周りに言われ、人のいい部分だけを見て育ってきたであろうことが、簡単に想像できる。


 芸人をはずかしめて笑いをとるスタイルのバラエティー番組が放映される。その結果、それを小学校のクラスにおけるトップ階級である、かけっこが大の得意で女の子にキャアキャア言われる、かけ算もろくにできない佐藤君がまねをする。クラスのぼっち君は、サッカーボールをぶつけられ、みっともない姿をさらす。それを見てクラスの連中は大笑いして、佐藤君は面白い、そしてぼっち君ははずかしめても問題ないやつだというクラスの空気ができあがる。


 なんてことを、カリスマスターちゃんは想像すらしたことはないだろう。少なくとも、そのボールをぶつけられたぼっち君の気持ちは、彼女にはわかりやしないだろう。


 そう言った世の中の真実というものを、カリスマスターちゃんにしっかりと教え込まなくてはならない。


「それがなるんだよ、カリスマスターさん。いいかい、俺の話をよく聞くんだ」

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