第20話モテモテな俺だがぼっちを演じよう 其の3・本番
「ねえ、イセカイ。君はこの世界に召喚されたってのに、ちっともこの世界の文化にとけこもうとしないじゃないか。ひょっとして、僕たちの文化をバカにしているのかい」
そんなことをけんか腰で俺に言ってくるのは、この異世界の文化の代表的な一つである料理界の権力者であらせられるデリシャス様である。彼女ににらまれては、この異世界に来たばかりの俺なんて、あっという間にいなか者としてさげすまれるに決まっているのだ。
そう、転校初日からよそ者としてガキ大将に目をつけられて、いじめたおされるどこかの誰かさんのように。
そんなふうにデリシャス様につっかかられては、俺みたいなぼっちに返事ができるはずもない。俺はただ口をモゴモゴさせるばかりだ。
そんな俺の態度が、ますますデリシャス様をいらだたせてしまうのである。
「なんだよ、男のくせにはっきりしないやつだなあ。まったく、見ているだけでイライラしてくるよ」
そう言って、デリシャス様は俺の机をドンっとたたいてくる。
そんなことをされた時のぼっちの反応なんて決まっている。ビクッとして、机をたたいたデリシャス様の顔を、卑屈に笑いながら上目づかいに見上げるのだ。
「ったく、だらしないったらありゃしない。だけど、今日はそんな、異世界から召喚されたばっかりに、この世界になじめずにひとりぼっちでいるしかないイセカイ君に、この僕がこの世界の食文化と言うものを、たっぷり教えてあげようじゃないか」
そうデリシャス様が宣言すると、周りの取り巻きがはやしたてて来るのである。
「感謝するんだぞ、イセカイ君、王宮料理長を代々つとめてきた家系のデリシャスさんが、じきじきにご教授してくださるんだからな」
「うらやましいねえ、できることなら代わってもらいたいよ。代わってほしいのならそう言ってごらんよ。もっとも、イセカイ君が何か言うところなんて、聞いたことないんだけど」
そんなことを言いながら笑いあっているデリシャス様の取り巻きたちだ。
「まあまあ、君たち。今回はいなか者のイセカイ君に、この世界の食文化を教えると言うのが目的なんだからさ。それで、とりあえず君に食べてもらいたいのはこれさ」
そう言って、デリシャス様が俺の机に置いたものは、なにやら腐ったにおいがする何かである。それを見て、デリシャス様の取り巻きたちがニヤニヤ笑いながらヒソヒソ話すのである。
「うわっ、デリシャスさんもエグいことするよなあ。あんなもの、この世界でも、この王国以外の人は目をそむけるようなものだって言うのに」
「それを異世界から召喚されたやつに食べさせるんだから。いやいや、これはなかなか厳しい食文化講習だなあ」
そんな取り巻きたちのひそひそ話を聞きながら、デリシャス様が俺にその腐った何かを食べるよう脅迫してくるのである。
「さあ、どうしたんだよ、イセカイ君。これは、この国の食文化を語る上ではかかせないものなんだよ。さあ、食べなよ。それとも、イセカイ君にはこの国の食文化なんて、バカバカしくって食べる気になんてならないのかな」
そんなことをデリシャス様に言われて、俺は半分泣きながら机に置かれたなにかを口に入れるのだった。周りからは笑い声が聞こえてくる。
「うわ、本当に食べてるよ、イセカイのやつ」
「まじで、笑えるわ」
気持ち悪い。なんで俺がこんなもの食べなければならないんだ。俺が何をしたって言うんだ。
そんなどうしようもないことを思いながら、俺はやっとの思いで口の中のものを飲み込む。味なんてわかりはしない。と言うかわかりたくもない。ただ早くこの時間が過ぎてくれと願うばかりだ。そんな俺の願いもむなしく、デリシャス様が次のお料理を俺に差し出してくる。
「どうしたんだい、イセカイ君。男の子のくせに涙なんか流しちゃって。それとも、君のいた世界では、おいしいものを食べさせてもらったら、涙を流してよろこぶのがエチケットなのかい。だったら、この僕もそれにこたえなくちゃあね。ほら、次だよ」
そう言って、デリシャス様が俺に差し出したのは、見るもおぞましいなにかだった。グロテスクな化け物が、何より生きたままウネウネ動いている。で、周りの取り巻き連中は大笑いだ。
「うわっ、よりにもよって生きたままかよ。さすがにひくかも」
「おいおい、デリシャスさんのすることにケチつけるって言うのかい」
「いや、イセカイがあれをみじめに食べる姿を見ちゃったらさ」
「それはたしかにドン引きするな」
そんな笑い声を聞きながら、俺はもうみっともなく、顔じゅうを涙とよだれでぐしゃぐしゃにしながら、気持ち悪いこの世界のモンスターを、口に入れようとする。だが、そのモンスターが暴れまわって、食べられないよう必死に抵抗してきて、それに俺が悪戦苦闘する様子が、さらにおもしろい見世物となってしまうのだ。
「やべえよ、あれ。どこのグロ動画だよ」
「ただでさえ気持ち悪いイセカイが、気持ち悪いモンスターとからみあうなんて、こんなコラボレーションありえないよ」
で、この見世物を取り仕切っているデリシャス様が、最後の仕上げにかかってくる。
「いいじゃないか、イセカイ君。だいぶこの世界の食文化というものがわかってきたようだね。それじゃあ、これでメインディッシュのしあがりだ。ほら、食べろよ」
そう言ってデリシャス様が、俺の口になにかつっこんでくる。もう俺には何が何やらわからない。ただ、周りの笑い声が聞こえてくるだけだ。
「まじかよ、あんな木の根っこを生で食わせるのかよ。イセカイ死んじゃうんじゃね」
「別にいいじゃん。『イセカイ君がいやがってるとは思いませんでした。でも、やっちゃったことは反省してまーす』なんて言っときゃあ、おとがめなしだよ。学校だっておおごとにはしたくないだろうし、もみ消すに決まってるさ」
と言った内容だが、俺はそれもいいかとも考える。いっそこのまま死んでしまったほうが、このつらい現実の異世界から解放されるかもしれない。
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