第17話モテモテな俺だがぼっちを演じよう 其の2・本番
「なにちんたらしてんだよ、イセカイ。異世界から勇者様が召喚されるって聞いていたから、楽しみにしていたら、頭でっかちの青びょうたんじゃねえか」
そう言って俺を蹴ってくるのは、この異世界の学校で武道、と言うよりケンカが一番強いことで有名なファイティング様である。
こう言ったタイプが、俺みたいなガリ勉運動オンチ君をいじめ倒すのは、俺のいた日本でもこの異世界でも変わらないようである。
だいたい俺は、頭脳労働担当なのだ。体育なんて肉体労働者を作り出すカリキュラムなんてものは、脳みそまで筋肉のバカどもだけにやらせていればいいのだ。くそっ、あんなやつ、十年もすれば最低賃金でこき使われるに決まってるんだ。それをこき使うのが俺なんだ。
そんな俺の考えを見透かしているかのように、ファイティング様が基本の動きもまともにできない俺をどなり散らしてくる。
「なにやってんだよ、イセカイ。どうせ、十年もしたら立場が逆転するとか、そうなったら思いっきりわたしをこき使うとか、そんなこと考えているんだろう。てめえみたいなやつの考えそうなことだ」
そんなぐあいに俺にむかってがなりたててくるファイティング様だが、どういう風の吹き回しか知らないが、ぐっと声のトーンを落として俺に物静かに、しかし非常にネチネチと言葉責めをしてくるのだった。
「ところがそうはならないんだなあ、学業優秀なイセカイちゃん」
「ど、どういうこと、ですか」
おもわず言葉づかいが敬語になってしまう俺だが、そんな俺に、ファイティング様がニヤニヤしながら教えをさずけてくれる。
「イセカイちゃんみたいに、学生時代から集団の下の立場でずっと過ごしてきた人間が、ちょっとお勉強ができるからって、いい大学入っていい会社入っても、人に指図なんてできっこないってことなの」
「そ、そんなことない、ですよ。学校の成績が良ければ、いい大学入っていい会社に入れて成功した人生を送れるって聞いたんだ、です」
「口ごたえなんかするんじゃないよ、イセカイのくせに」
そう言って、俺の頭をファイティング様がこづいてくる。
「今こうして、あたしに頭をこづきまわされているようなイセカイちゃんにはね、人の顔色ばかりをうかがっているような、いじめられっ子君のオーラがバンバン出ているの。そういうのは、誰にでもわかっちゃうのよねえ」
「ぼ、僕、そんなもの出していませんよ」
「だから口ごたえすんなって」
今度は、俺の腹にファイティング様によるひざ蹴りが、ようしゃなくおこなわれる。
「でも、そうだねえ、ろくに人と話もしないイセカイちゃんにはわからないかもしれない。だけど、ふつうに人間としての社会生活をおくっていれば、そんなものには簡単に気づいちゃうんだなあ」
「……」
俺はもはやなにも言うことはできない。目に涙すら浮かんでくる。それをファイティング様が見逃すはずもない。
「あーあ、泣き出しちゃったよ。でもこれでわかったでしょう。あたしもたいな女の子に、ちょっといじめられただけで泣きだすような弱虫ちゃんが、これから先どうなろうと人の上に立つ立ち場になんてなれっこないってことが」
こんなふうに俺がファイティング様にいじめられているような様子を、クラスの連中がさもゆかいそうに見物している。テストの点数が悪くて、親や教師にしかられている連中にとって、そのテストの点数だけは良い俺みたいな人間が、こうしてはずかしめられていることは、さぞやおもしろい見世物であることに決まってるだろう。
それを証明するかのように、周りのクラスの連中がいろいろ言っているのが俺にも聞こえてくる。
「ほんと、イセカイのやつ気持ち悪いよな。なんであんなやつが召喚されたって話だよ」
「あんなんじゃ、日常生活だってまともにおくれないわよ。なにが楽しくて生きているんだか」
そんなクラスの連中の悪口をバックミュージックにして、ファイティング様がさらに俺を責め立ててくる。
「ほら、イセカイちゃん。このあたしが、身の程知らずなかんちがいをしているあんたに、現実ってものを教えてあげたんだよ。何か言うことはないの。ないことないよねえ、こんなありがたいお話を聞かせてもらっておいて」
「な、なにを言えばいいんですか」
そんな質問を、ビクビクおどおどしながらする俺のお尻が、ファイティング様によってけとばされるのだ。結果、俺は地面に顔面から倒れて、地べたに頭をこすりつける格好となる。そんな俺を見て、ファイティング様は満足げに言い放つのだ。
「なにって、お礼だよ、お・れ・い。せっかくこの世界の道理ってものを教えてあげたんだから、お礼をするのが筋ってものじゃない。どうせならその格好のままやってもらおうかな。あたしがさせてあげた土下座ポーズのままさ。それがいいよねえ、みんな」
そう言って、ファイティング様がクラスの連中をあおりだすと、そのとたんに土下座コールがまきおこるのだ。
「どーげーざ、どーげーざ」
「どーげーざ、どーげーざ」
で、だめだめいじめられっ子の俺は、泣きべそと地面の泥んこで顔をぐちゃぐちゃにしながら、感謝の言葉をか細い声でぼそぼそと言うのだ。
「あ、ありがとうございます」
そんな俺の頭を、ファイティング様がひっつかむと地面にぐりぐりと押し付けて、大笑いしながらはやしたててくる。
「聞こえませんねえ、もっと大きい声でお願いしますよ、イセカイちゃん」
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