第15話モテモテな俺だがぼっちを演じよう 其の1・反省会

「うん、もういいや、カメラ止めてくれる」


 俺がそう言うだけで、さっきまでの俺をいじめていた空気が、うそのようになくなっていく。


 代わりに、この場の雰囲気が、主役兼監督である俺の気分をうかがうものとなっていく。最初に質問してくるのがインテリジェンスちゃんだ。


 本番中は、あんなに俺にきつく当たっていたインテリジェンス様が、俺が一声言っただけで、ガラッと態度を変えて、俺を怒らせてはまずいとしっかり自覚しているインテリジェンスちゃんになってくれる。で、そのインテリジェンスちゃんが、俺にこびにこびた態度でおずおずと質問してくるのだ。


「そ、その、イセカイ様。わたくしたちの演技に、何か問題ありましたか。ええと、『もういい』とは、どう言うことなのでしょうか」


 質問内容はこんな感じだ。俺とインテリジェンスちゃんを遠巻きにながめている、本番中はさんざん俺に陰口をたたいていたクラスメートの連中や、俺を見下した様子で答案を返してきた教師のやつも、不安げな表情で俺を見つめている。俺の虫のいどころが少しでも悪くなったら、この世界に自分の居場所がなくなってしまうことを、十分理解しているようだ。


 なにせ、エキストラの連中だけでなく、主演女優であるはずのインテリジェンスちゃんですら、俺の気分次第でいつでもこの舞台からおろさせることができるのだ。


 いや、舞台だけでない。カメラの回っていない、この現実の異世界にだっていられなくすることも俺の自由自在なのだ。


 俺はこの異世界で、なにもかも抜きん出ている存在なのだから、誰をどうしようと、なにもかも俺の思うがままなのだ。


 かと言って、俺は何度も役者たちにリテイクをさせたり、灰皿を投げつけたりなんかしないのだ。なぜなら、俺は別に映像の出来なんてどうだっていいのだから。


 俺のしたいことは、演技、あくまで演技として俺をたっぷりはずかしめてくる連中に、監督としての俺の一声で手のひらをひっくり返させ、自分が俺の命令を聞く存在でしかないことをわからせることなのだから。


 と言うわけで、本番中に俺に向かって、たくさんのいやみを言ってきたインテリジェンスさんを『もういい』なんて突き放して不安にさせた後、ちょっとばかしやさしくしてあげるのである。これでインテリジェンスちゃんも自分の立場をしっかり自覚してくれるだろう。


「ああ、ごめんごめん、インテリジェンスさん。『もういい』ってのはね、インテリジェンスさんたちが、なにか俺のプランを台無しにするようなことをしたとかそう言う意味じゃなくってね、むしろ逆で、全員が最高の演技をしてくれたから、もうこれ以上は望めないと言う意味での『もういい』なんだ。インテリジェンスさん、それにみんな、よくやってくれたね。本当にありがとう」


 主演兼監督の俺がそう言うと、インテリジェンスちゃんやエキストラの連中がほっとした表情を見せる。当然だろう。この舞台、ひいてはこの異世界の最高権力者は俺なのだから、その俺が満足しているとなれば、安心してしまうのも当たり前だ。


 で、今回の舞台の主演女優のインテリジェンスちゃんである。主演女優を、演技指導なんて言ってあれやこれやするのは、監督の特権である。とりあえず、みんなの前での感想発表といこう。


「それで、インテリジェンスさんの今回の演技ね、実に良かったよ。プライドがやたらめったら高い、俺みたいな勉強だけはとりあえずできるガリ勉くんを見下している、学園の女王様って感じが実によくできたいた」


 これは俺の本音である。実際、本番中は台本どおりの演技とはいえ、インテリジェンス様にあそこまで言われてしまい、言い返すこともできなかった俺は、みじめでみじめでしかたなかったのだ。


 そんなインテリジェンス様がひとたび本番が終わればどうなるかと言うと……


「は、はい、ありがとうございます、イセカイ様。イセカイ様にほめていただくなんて、役者としてうれしいかぎりです」


 こんな具合だ。ま、監督様の俺にほめられればこうもなろうと言うものだ。それを証明するかのように、周りからはこんな声が聞こえてくる。


「ああ、緊張した。でも、失敗しなくてよかったよ。僕なんて、ただのエキストラの男子生徒Aなのに、汗が出っぱなしだったもん。主演兼監督のイセカイ監督と、真正面から演技でぶつかりあうインテリジェンスさんの立場になったらと思うと、ゾッとしちゃうよ。やっぱり僕にはエキストラがお似合いだと身につまされたよ」

「でも、そのイセカイ監督と演技でわたりあっていけるなんて、インテリジェンスさんにはやっぱり主演女優の器があるんだわ。あたしみたいなエキストラ女子生徒Bと違って。そんな主演女優としての演技を、イセカイ監督にほめられちゃったら。ああ、考えただけでどうにかなちゃいそうだわ」

「それにしても、あの“逃がした魚は大きい”と言うことわざを、あんなにうまく使った脚本を作り出すなんて、イセカイ監督の才能にはおそれいるばかりだよ。もともとの意味と、世間に広まった誤用を比べて、あれだけのセリフ回しを考えだしちゃうんだから」


 で、俺は周りのみんなに聞こえるように、インテリジェンスちゃんの言ってあげるのだ。


「インテリジェンスさんは、俺の思う通りの演技をしてくれたよ。俺の部屋で、インテリジェンスさんと二人きりで、今日の舞台についてねりあわせて良かったよ」


 そんな俺の発言を聞いて、あたりは騒がしくなるのだ。


「いいなあ、主演女優ともなればイセカイ監督と二人きりになれるのかあ」

「でも、あたしみたいなエキストラじゃあ、いざイセカイ監督と二人になっても、何を話したらいいかわからないわ」


 と、こうである。


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