第13話モテモテな俺だがぼっちを演じよう 其の1・打ち合わせ

「で、インテリジェンスさん。次回作と言うか、次のお話の台本なんだけど……」


 そんなことを、勉強を教えると言って俺の部屋に誘ったインテリジェンスちゃんに話す俺である。


「えっ、勉強をイセカイ様が教えてくださるんじゃあないんですの」


 で、そんなことを意外そうに聞いてくるインテリジェンスちゃんである。ちなみに、部屋には俺とインテリジェンスちゃんの二人きりである。『インテリジェンスさんくらいにしか理解できないような内容をやるから、一人で俺の部屋まで来て欲しい』と言っておいたのだ。


 そして、そのインテリジェンスちゃんだが、やたらめったら露出度の高い服装をしてきている。さらにはメガネなんてかけて俺にやたらと知性をアピールしてくる。いったい、なんの勉強をすると思っていたんだろう。


 どうせ、この異世界の人間には想像もつかない知性を持っておる俺に、いやらしいことをされるとでも期待して勝負服を着てきたに違いない。そんなやる気マンマンのインテリジェンスちゃんをじらすのも、また紳士の楽しみなのである。


「そうだよ、インテリジェンスさん。俺とインテリジェンスがやる台本は、勉強が話の中心だからね、とりあえず、その勉強内容をインテリジェンスさんに理解してもらわなきゃあ、ちゃんとした演技ができないと思ってね」


 そう説明する俺だが、インテリジェンスちゃんは期待はずれという雰囲気のままである。


「そうでしたの、イセカイ様」


 そんなインテリジェンスちゃんに、俺はありふれた説得をするのである。


「お願いだよ、インテリジェンスさん。この台本は、インテリジェンスさんにしかできないんだ。この世界で俺に匹敵する頭脳を持っているのは、インテリジェンスさんだけだからね」


 その俺の言葉に、インテリジェンスさんはころっと機嫌をよくするのだった。


「そんな、イセカイ様。イセカイ様の頭脳についていけるものなど、この世界にはおりませんわ」


 そんなひかえめなことを言うインテリジェンスさんだが、その表情は、自分だけが俺と対等の頭脳を持っていると言われて、明らかににやけている。で、俺はトドメの一言を言うのだ。


「そうだね、この世界にはいないね、インテリジェンスさん以外には」


 この言葉を聞くと、インテリジェンスちゃんはすっかり上機嫌になるのだった。


「そ、そうですわね。わたくし以外にはイセカイ様の相手はつとまりませんもの。それでは、台本の内容を教えてくださいまし」

「ありがとう、インテリジェンスさん」


 そう言って、俺はインテリジェンスさんとの打ち合わせを始めるのだった。


「ほら、インテリジェンスさん。前回は、頭のいい俺を、クラスのみんなは嫌っているけど、その頭の良さは認めざるをえないってパターンだったじゃない。一応クラスでそれなりのステータスを得ているっていう」

「そうでしたわね、イセカイ様。ええと、わたくしの役どころは、とつぜんこの世界にやってきた得体の知れない男に、学校一番の学業成績をかっさらわれて、その得体の知れない男を憎たらしく思い、ライバル視している女の子でよろしいんでしたっけ。あっ、もちろんわたくしは本心ではイセカイ様を愛していらっしゃいますわ。憎たらしく思っているというのは、あくまで台本の話でして……」


 そう言って俺への恋心をはっきり言ってくれるインテリジェンスちゃんである。で、俺はそんなインテリジェンスちゃんに、今回のプランを説明するのだった。


「それで、今回は俺がこの世界に召喚されたと言うことじゃなくて、俺がもともとこの世界で生まれ育ったと言う設定でやりたいんだ」

「どうして、わざわざそんな設定を持ち出しますの」


 そう不思議そうに尋ねるインテリジェンスちゃんである。まあ、インテリジェンスちゃんが不思議に思うのもわからないでもない。それで、俺はインテリジェンスちゃんにさらにくわしく説明するのである。


「今回俺はね、勉強はできるけど、根暗で無口で、友だちなんて一人もいないぼっちを演じたいんだ。勉強ができるけど、それが理由でいじめられると言う主人公を演じたいんだ」

「そんなかわいそうな人間を、素晴らしい知性をお持ちになって、学校中から尊敬されているイセカイ様が演じちゃうんですか。少し極端すぎやしませんか。と言うか、勉強ができることが、いじめられる理由になるんですか。わたくしは、そりゃあイセカイ様にはかないませんけれど、子供のころはこの世界で一番の頭脳の持ち主なんて、周りから言われていましたが、それが理由でいじめられた記憶なんてございませんわ」


 そんな自分のかがやかしい幼少期の思い出を、たいしたことなさそうに俺に話すインテリジェンスちゃんである。まあ、インテリジェンスちゃんみたいに、かわいくてコミュ力もあれば、勉強ができることだってプラス材料となり、クラスのみんなからもうらやましがられて、人気者になる。


 すると、そのことがインテリジェンスちゃんの自信につながり、ますます勉強に打ち込むようになる。成績がさらに上がる。勉強がもっと楽しくなる。という正のスパイラルになるのだろうが、そうではない人間も存在するのだ。


 勉強はできるが人付き合いが苦手な子供がいる。『あのガリ勉生意気だ』と、足の速いガキ大将にいじめられる。とうぜんされるがままだ。で、クラス内で『あのガリ勉はいじめてもいいやつだ』と言うレッテルをはられ、クラスのそこそこのカーストの人間からもいじめられることになり、あっという間にカースト最下位となる。


 そんな人種が現代日本にはいるのである。具体的に誰とは言わないが……


 そういうぼっちを、あえて、この異世界ではモテモテな俺が演じてやろうというわけだ。と言うわけで、俺が作り上げた台本を、インテリジェンスちゃんに説明するのである。


「とにかくさ、これが台本だから、インテリジェンスさんもしっかり頭にいれておいてよ。他のエキストラのやつには、適当にやってもらうからさ」

「まあ、わたくしはイセカイ様の命令でしたら、なんでも聞き入れますけども……それにしても演じるのが難しそうな台本ですねえ」


 インテリジェンスちゃんは、『演じるのが難しい』と言ったが、書き上げる方はそうでもなかった。現代日本ではよくある話だからである。こんな体験をした人間は大勢いるだろう。

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