第12話ヒロインはみんな俺を嫌ってる? その6.5
「はい、カット」
俺のカットの宣言とともに、ついさっきまで、かんしゃくを起こした子供のように『バカ、バカ』ばかり言っていたモラリティちゃんが、俺にしなだれかかってくる。
「もう、イセカイのばか(はーと)。いつまで私にあんなまねさせるのよ」
今度のモラリティちゃんの“ばか”は、さっきまでのただの悪口の“バカ”と違い、俺にこびにこびて甘えてくる“ばか(はーと)”である。ここまで演技とそうでないときのスイッチの切り替えがはっきりしているのもものすごい。
で、俺はそんなモラリティちゃんの耳元でささやくのだ。
「おいおい、モラリティさん。いいのかい、風紀委員長であるモラリティさんが、校内でこんなはしたないまねをして」
だが、風紀委員長であるモラリティちゃんは、俺の言葉などちっとも気にしないようである。
「何言ってるの、風紀委員が強く出る相手はね、無害な一般生徒だけに決まってるじゃない。風紀委員なんて、権力の犬なんだから、強きを助けて弱気をくじくのが当たり前じゃない。というわけで、今やこの世界の強さの象徴となったイセカイに、この身も心もささげるのが当然なのよ。さ、イセカイ、このモラリティに、何でも命令してちょうだい。イセカイに演技とは言え、口ごたえなんてしちゃったから、そのくらいの罪滅ぼしはさせてちょうだいよ」
そんなふうに、『なんでも命令しろ』なんていう、俺に支配されたいのか、俺を支配したいのかよくわからない要求をしてくるモラリティちゃんだ。そのあたりは、やっぱり風鬼委員長と言ったところか。
ちなみに、台本ではモラリティちゃんは風鬼委員長だったが、カメラが回っていない現実のこの異世界でもモラリティちゃんは風鬼委員長だ。と言うか、今までの女の子の、インテリジェンスちゃん、ファイティングちゃん、デリシャスちゃん、カリスマスターちゃん、メディカルちゃん全員がそのパターンだ。
この異世界に俺が来た当初は、全員俺を嫌っていたが、なんだかんだあって俺を好きになり、台本ではシチュエーションやキャラクター設定はそのままに、本当は俺を好きな女の子に、俺を嫌っている演技をしてもらっていたのだ。
それはともかく、モラリティちゃんの要求にしたがって、俺は質問するのだった。
「じゃあ、なんでモラリティさんが俺を好きになったのか説明してよ」
そんな俺の命令に、モラリティちゃんは残念そうである。
「なんだ、そんなことなの。もうちょっと、こう、いやらしいこととか、ふしだらなことを要求しちゃってもいいのに」
そんな風紀委員にあるまじきことを言うモラリティちゃんに、俺は尋ねるのだ。
「嫌なの? モラリティさん。モラリティさんが俺を好きになった理由を、俺に教えてくれないの。ひょっとして、モラリティさんは俺のこと、好きじゃないの」
俺がそういじわるな質問をすると、モラリティちゃんは、あわてて否定するのだ。
「そんなはずないじゃない、イセカイ。私はイセカイのこともうすっごく愛しているんだから。だって、イセカイは異世界から来たのよ。この世界の男の子とは全然違う男の子がイセカイなのよ。そんなエキゾチックな雰囲気のイセカイなんて、好きになるに決まってるじゃない」
と言ったことを言うモラリティちゃんである。なるほど、遺伝子の多様性を求めると言うやつか。日本人が白人をきれいに思うとか、ハーフはいろんな分野で活躍するとか、そう言ったものなのかもしれない。
「最初は風鬼委員長であるこの私が、何かアラを探してやろうと考えてイセカイがこの世界に召喚される場に立ち会ったのだけど、召喚されたイセカイを一目見てそんな気持ちは吹っ飛んじゃったわ。私が今まで見たこともないタイプだったんですもの。そのイセカイが、やることなすことこの世界の常識を作り変えていくのよ。こんなの好きにならないはずがないじゃない」
「なるほどねえ」
早い話が一目惚れなわけだ。現代日本ではとりたてて女の子にモテなかった俺だが、異世界召喚されると、こんなことも起こるのかと感心してしまう。
「さあ、イセカイ。私はイセカイのしもべなんだから、好きなことを命令してちょうだい。無実の人間に罪をなすりつけることだってできるわ。経費や備品を横流ししてポケットマネーにすることだってできるわ。他人のプライバシーを丸裸にだってしちゃえるわ。なんだって言って」
そんな悪徳警官の見本のようなことを言うモラリティちゃんである。で、俺はその悪徳風紀委員長に言ってやるのだ。
「いやいや、モラリティさん。仮にも風紀委員長であるモラリティさんが、そんなことを、少なくともおおやけの場所で言うのはいけないなあ。これは、プライベートな場所でじっくり話し合わないといけないようだね」
「プ、プライベートな場所ですって! そんな場所で、一体何を話し合うと言うの、イセカイ」
「それはもちろん、パブリックな場所ではとても話せないようなことを、俺をモラリティさんの“二人だけで”話し合うんだよ」
「は、話し合うの? 話し合うだけなの? イセカイ?」
「だから、そう言ったことも含めて、二人だけで話し合おうって言ってるんじゃないか、モラリティさん。それとも、いやかな」
「い、いやなわけないじゃない。さあ、今すぐプライベートに行きましょう。二人だけのプライバシーを楽しみましょう」
こうして、俺とモラリティさんは、私的にお楽しみするのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます